18 嫁さん抱きしめる
「あ、あの……ありがとうございました」
好きな人の前で子供みたいにみっともなく泣いてしまった……でも、謝るなって言われたのでお礼を言うと美星さんは微笑んで言った。
「いいんですよ。清隆さんは今まで沢山我慢してたんですから。私の前でくらい素直になってください」
「十分素直なつもりなんですが……ありがとうございます」
本当になんて優しい人なのだろうと思う。俺なんかのためにここまで言ってくれるのだから。でも、この好意に甘えるだけじゃいけない。だって、それって美星さんにだけ負担をかけるのと同じだ。だから、俺は俺で彼女を支えたい。それが恋人だと思うから。
「清隆さん。清隆さんは自分のことお嫌いなんですか?」
「……そうかもしれません。俺は……俺は兄貴の劣化品でサンドバックとしての価値しかないゴミですから」
「そうですか……ですが、私は清隆さんのこと大好きですよ。例えあなたが自分のことを嫌いでも私は優しいあなたが大好きです」
「優しいなんて……そんなことないですよ。本当に優しいのは美星さんや琴音ちゃんみたいな人ですし……」
そう、俺はただの臆病者だ。優しいなんてことはない。本当に優しいのなら2人に辛い思いなんてさせなくて済んだはずなのだ。そんな風に思っていると、美星さんは俺を抱き寄せてから優しく撫でて言った。
「優しいですよ。だって……私達のこと助けてくれましたから」
「それは……美星さんの力で俺は何も……」
「清隆さん。私はあなたのお陰で元夫との決別を決意出来ました。それまで従うだけしかなかった私に道を指し示してくれたのはあなたなんです。だから……その事実だけは否定しないでください」
そんな風に思ってくれてるのか……別に疑っていたわけではない。例え何か下心があったとしても俺は別に構わなかった。それで彼女達が幸せになれるのならと。でも、やっぱり心のどこかで怖かったんだと思う。偽物の好意だった時のことが。でも、わかった。
もう、そんなのどうでもいいんだ。だって……もう、俺はこの人にとっくに惚れ込んでいるのだから。俺の全てを受け入れてそれでもなお好きだと言ってくれたこの人に。生まれて初めて好意を示してくれたこの人のことが俺は大好きなのだ。
その気持ちは絶対に揺るがない。そうーーー俺は本気で彼女に恋してるのだろう。きっと、初めて出来た絶対に渡したくないもの。例え兄貴だろうと俺はこの人のことを絶対に渡したくないと思った。本当に愚かしいかもしれないけど、そんな独占欲まで出ているのだ。
「ありがとうございます……あと、美星さん」
「なんですか?」
「……俺もあなたのことが大好きです」
そう言うと彼女は少しだけびっくりしてから頬を赤く染めて頷いた。この人を失いたくない。絶対に。そう思うのだった。