16 嫁さん耳掃除をする
こんなにお風呂で色々試されたのは初めてかもしれないと思いながらお風呂上がりに冷たい飲み物を飲んでいると美星さんは言った。
「清隆さんはお酒は飲まないんですか?」
「えっと、寝れない時に飲むくらいですかね。美星さんは?」
「私もあんまり……お酒は強くないので。それに酔うと凄く恥ずかしいところをお見せしちゃいそうなので……」
「恥ずかしいところ?」
なんだろう、酒癖が悪かったりするのかな?
「友達曰く、凄く甘えん坊になるそうで……」
「それは……見てみたいですね」
「もう、じゃあ、清隆さんもその時は一緒に飲んでくださいね」
「それなら、はい」
俺はそもそも酔うと眠くなるだけなのでそのくらいで美星さんの可愛い姿を見れるのは役得すぎる。
「そういえば、さっきの寝れない時にって……どのくらいあるのですか?」
「えっと、本当に時々ですよ。ただ、休みの日とかは仕事の疲れがないから、その……悪夢を見やすくて」
具体的に言うなら、意識が飛ぶくらいじゃないと悪夢を見やすいのだ。普段の仕事の疲れがあればわりと可能なのだが……それがないと昔の夢を何度も繰り返し見てしまうのだ。
「……清隆さん。ちょっと横いいですか?」
「え?あ、はい……」
俺の言葉に頷いてから隣に来ると、そっと俺の身体を自分の膝に導いて……って、膝枕!?
「あ、あの……美星さん?」
「耳掃除です。これも恋人の特権ですから」
そう言いながら持参したのか耳かきを持って俺の耳を優しくかく美星さん。初めて感じる心地良さにうっとりしていると、美星さんは言った。
「あんまり耳垢はないですね」
「あ、えっと、結構自分でやっちゃうので……」
「これからは私のお仕事ですからね」
他人に耳かきされるの初めてだけど、美星さんすっごい上手だなぁ……やっぱり、琴音ちゃんによくやってるからかな?なんにしてもこんなに幸せでいいのだろうか……後でこの分の不幸が俺に降り掛かってもおかしくはないが、その不幸が2人にはいかないように祈っておこう。
俺への天罰なら甘んじて受けるけど、2人はこれから幸せにならなきゃダメだしね。
「清隆さん。どうですか?」
「はい……気持ちいいです……」
うとうとしてくる。お風呂上がりだからだろうか?仕事で疲れてるわけでもないのにこんなに心地よくなるのは初めてかもしれない。いや、でもここで膝の上で寝るなんて贅沢をするわけにはいかない。
俺なんかのせいで足を痺れさせるのは良くないし、さっきそれでやらかしたばかりじゃないか。それに、あれだけ美星さんの膝の上で寝たのにまだ眠いなんて本当に贅沢だ。せめてそれなりに善行なりをして貢献してからじゃないとバチが当たる。
そう、ここ最近は幸せすぎたのだ。本来俺にはこんな贅沢は許されないのだ。そんな資格もないし、何より俺が幸せになるということは誰かが不幸になるのと同じだと思う。そう昔兄貴にも言われたっけ?
『俺はお前が幸せになるは許せないんだ。お前は不幸が1番似合ってるよ』
そう笑いながら爪を剥がされたのを今でも覚えてる。だからそう……この幸せは本当に特別なのだと思いながら俺は美星さんに耳かきをされるのだった。