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15 嫁さんはお背中流す

「では……失礼しますね」


どうしてこうなったのだろう……風呂用の腰掛けに座って目の前の鏡を見ないように目を瞑ったまま座る俺。だって鏡を見れば反射して美星さんの素肌を直視してしまうからだ。美星さんは気にしなくていいと言うが……好きな人の肌を見るのは凄く俺的に勇気がいるのだ。


なんというか……本当に好きだから、ちゃんと美星さんと向き合ってからそういうことをしたいというか……まあ、ヘタレと言われようが、そうしたいのだ。


ゆっくりと泡立てた身体を洗うタオルで背中を擦る美星さん。少しくすぐったいと思っていると美星さんは呟いた。


「……凄くいっぱいの傷がありますね」

「あ、えっと、気持ち悪かったらすみません」

「そんなことないですよ。でも……これも全部お兄さんにつけられた傷ですか?」


なんと答えるべきか迷ってから俺は素直に頷いて答えた。


「普段のストレス発散に殴られたり、蹴られたり……他にも気まぐれでリストカットさせられたり、熱湯をぶっかけられて酷い火傷をしたり、彫刻刀がどこまで入るかとか言って刺されたり……多分数えたらキリがないですね」

「この大きなお腹の傷は?」

「えっと……それは確か、大切にしてた猫を車道に投げ捨てられて助けようとしたら車に轢かれたんです」


まあ、その後に病室に来て直前兄貴が自分で殺してきた猫の死体を見せつけられた時には本当に苦しかった。俺が可愛がったせいであの子は殺されてしまったのだから。


「……清隆さん」


むにゅっと、何やら柔らかい感触が背中から伝わってくる……って、ふぁ!?


「な、な、な……美星さん何を……」

「もう絶対……絶対に貴方に酷いことはさせません。私が貴方を絶対に守ってみせます。だから……」


震えが伝わってくる。美星さんは俺のことを本気で心配してくれてるんだ。本当に優しい人だと思いながら俺はなけなしの勇気を振り絞って美星さんの手を握ると言った。


「俺にも守らせてください。俺も美星さんには苦しい思いはして欲しくないんです。本当に大好きだから……だから、俺にも美星さんと琴音ちゃんを守らせてください」

「……はい。約束ですよ?」


ああ、本当にこの人はどこまでも優しいのだと思ってしまう。俺のせいで苦しい思いをしたのにこうして俺の心配をしてくれるんだ。こういう人には絶対に幸せになって欲しいと思う。


いや、例え俺に何があってもこの人は絶対に幸せにしてみせると誓う。


「それはそうと……清隆さん思ったよりずっと逞しいんですね」

「え?」


むにゅりと、さっきよりも密着してくる美星さん……というか、胸を押し付けるように後ろから抱きついてくる美星さんに俺は思考が追いつかずにしばらく呆然としてから慌てて言った。


「そ、そ、そんなこと……ないだす……!」


思わず噛んでしまった。だすってなんだよ!?


「本当に男の人って感じでカッコイイです……今夜は清隆さんの腕で抱かれて寝たいんですがダメですか?」

「だ、ダメじゃないです!で、でも……その……あの……」


何を言えばいいのか本当にわからなくなって言葉を探す俺を微笑ましそうに見守る美星さん。これが恋人と風呂に入るということなのか……なんとも嬉しいが、悩ましいシチュエーションだなぁと後から思うのだった。





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