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13 嫁さんはあーんする

「どうでしょうか?」


出来上がったビーフシチューを1口食べてからそう聞いてくる美星さん。それに対して俺は微笑んで言った。


「とっても美味しいです。これがビーフシチューなんですね」

「……もしかして、これも初めてでしたか?」

「ええ、お恥ずしい話ですが、ご飯は基本的におにぎりかパンだったので、こういう系統の料理はあんまり………」

「家庭科とかキャンプみたいなイベントでは作らなかったですか?」

「えっと、家庭科ではあんまり。キャンプみたいなイベントは基本的に休まされて、その分のお金を兄貴が使ってたみたいです」


その言葉に美星さんは軽くため息をついてから言った。


「だいたい分かりました。じゃあ、これからは腕によりをかけて作りますね」

「すみません、なんか大人なのに知らないこと多くて……」

「いえ、清隆さんの無知は仕方ないです。それに、私が清隆さんの初めてを独占してるようで嬉しいですから」


そう微笑む美星さん。本当にこの人は女神のような人だと思っていると、美星さんは思いついたように言った。


「清隆さん。私に食べさせてくれませんか?」

「え?」


それって、もしかして……あーんってやつか!?

そう思っていると美星さんは可愛らしく口を開けてあーんの体勢で目を瞑って待機し始めた。


い、いいのかな?いや、美星さんがいいなら俺は……!


「あ、あーん……」

「あむ」


生まれて初めてあーんを成功させたのだが、美星さんの食べ方があまりにも可愛らしくて喜びよりも先に愛しさが込み上げてきた。


しばらく咀嚼してから美星さんはくすりと笑って言った。


「うん、やっぱり清隆さんから食べさせて貰うのはいいですね。凄く美味しくなりました」

「そ、それなら良かったです」

「じゃあ、次は私の番ですね」

「え?」


ビーフシチューをスプーンで掬ってから、こちらに向けてきた美星さん。えっと……これって、俺も食べるの?


「はい、あーんしてください」

「え、あ、はい……あーん………」


目を瞑って食べる。味は変わらず美味しいはずなのに、美星さんから食べさせて貰ったという事実だけで更に倍美味しくなったような気がした。これが愛情というスパイスなのだろうか?


「どうですか?」

「お、美味しいです……」

「なら、良かったです」


愛らしい笑みを浮かべる美星さん。なんか俺ってば、美星さんの一挙手一投足にドキドキしているような気がする。これが恋というものの影響なのだろうと思っていると、今度は美星さんがあーんをしながら待機していたので、反射的に自分の分から掬って食べさせる。


それを何回か繰り返してから……あれ?これって間接キスなんじゃね?と思って意識してしまったのだが……美星さんは気にした様子もなく美味しそうに食べていたのでいいのかな?


俺なんかの関節キスなんて汚らわしいと思われてもおかしくないのに、むしろ幸せそうに食べる姿は本当に天使だと思う。それと同時に俺は本当にこの人のことが大好きだと自覚できてより一層愛しさが込み上げてきたのだが……今更かな?




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