12 嫁さんは挨拶する
「あれ?珍しいっすね錦さんが休みの日に買い物来るなんてーーーって、あれ?その人ってもしかして噂の彼女さんっすか?」
「初めてまして。清隆さんがいつもお世話になっております」
話しかけてきた他部署の後輩にそう挨拶する美星さん。なんだかこうやって挨拶されると改めて彼女が出来たと嬉しくなるね。
「美人さんっすねぇ。あ、錦さんにはウチの部署の手伝いとかよくして貰ってマジで感謝してます」
「清隆さんですからね」
ニコニコと嬉しそうに微笑む美星さん。やばい、めっちゃ可愛い。
「清隆さんの担当は確かブランド品でしたよね?今日は上司さんはいるんですか?」
「え、えっと、いると思いますが……」
「じゃあ、折角なので挨拶させて貰っていいですか?」
そう言われたので、断れずそのままいつもの持ち場に移動する。と、俺に気づいたパートさんが首を傾げて言った。
「あれ?錦さん今日休みですよね?」
「あ、えっと、彼女と買い物に……」
「マジですか!?お隣の人ですよね?すっごい美人……あ、田原さん呼んできますね」
何故か気を使ってそんな風に動いてくれるパートさん。嬉しいけど、なんか恥ずかしいと思っていると、田原さんがダルそうにやって来た。
「なんだ、仕事変わってくれるのか?」
「いえ、今日は彼女と買い物に来てまして……」
「んだよ、面倒くさい」
チラッと美星さんを見てから頭をかいて言った。
「あー、なんだ、そいつの上司の田原だ。よろしく彼女さん」
「こちらこそ、いつも清隆さんがお世話になっております」
「本当に手間がかかるぜ」
「とか言って、田原ちゃんの方がお世話になってるでしょ?」
接客が終わったらしい中原さんがそんなことを言いながら戻ってきたので、田原さんは面倒そうに言った。
「別にコイツの彼女がどんなんだろうと俺には微塵も興味がないからな」
「また、そんなこと言って……えっと、錦ちゃんの彼女さんね。錦ちゃんはウチの部署の中核だしこの店の1番の働き者だからいつも皆助かってるわぁ」
「それなら良かったです。あのところで……清隆さんと親しい女性従業員の方はいらっしゃいますか?」
その質問に中原さんはキョトンとしてからくすりと笑って言った。
「心配しなくても錦ちゃんを狙う人はいないわよ。私達パートはだいたい人妻だしね。それに……錦ちゃんが彼女さんのことを大切に思ってるのは何よりわかったわ。だって、いつもプライベートのことは話さない錦ちゃんが彼女さんのことだけは饒舌に情熱的に語ってたからね」
……頼む、美星さん。そうなんですか?と言わんばかりの無垢な瞳を向けないで。めっちゃ恥ずかしいから。
「ふふ、それにしても彼女さんは随分と心配性なのね」
「当たり前です。清隆さんは素敵な人ですから」
「そうなのかもねぇ。でも、私達にはいい上司って感じかしら?いつも手抜きの田原ちゃんや、口だけの店長から守ってくれる人って感じ」
その言葉に田原さんは気にした様子もなく欠伸をしていたのだが……あんまり褒められなれてないから会話にも入れずに美星さんの隣で突っ立っていると、美星さんは俺の手をぎゅっと握ってから言った。
「これからは私が絶対に清隆さんを守りますので、悪い虫がつきそうなら是非ご連絡を」
「ふふ、ええ、もちろんよ」
「じゃあ、買い物して帰りましょうか。今日はビーフシチューとかどうですか?」
そんな風にして従業員に軽く挨拶をしてから布団と夕飯の材料を買って帰路につくのだった。