11 嫁さんはお泊まりする
「す、すみません……まさか、寝てしまうとは……」
あれから何時間も美星さんの膝の上を独占した上に、みっともない寝顔まで晒してしまうなんて……本当に情けない。起きてすぐそう謝ると美星さんはくすりと笑って言った。
「構いませんよ。可愛い寝顔でしたよ」
……本当に恥ずかしい。人に寝顔見られるなんて初めての体験だけど穴があったら入りたいよ。しかも、美星さん何時間も俺なんかを膝枕して足が痺れてるんじゃ……本当に申し訳ない。
「あの、こんな時間になっちゃいましたけど、大丈夫ですか?もし、あれならタクシー呼びますが……」
「心配なさらないでください。今日は琴音を両親に預けてきたので時間は全く問題ありませんよ」
「そ、そうでしたか」
ちょっと安心する。俺なんかのせいで美星さんの貴重な時間を無駄にしたら償えないしね。
「それでお願いがあるんですが……今夜は泊めて頂けませんか?」
……What?
「あ、えっと……泊めるというのは……」
「ダメですか?」
悲しそうな表情でそう聞かれるので反射的に否定した。
「だ、ダメじゃないです!ただ、あのえっと……布団が俺のしかないので……今から買ってくることになっちゃうんですが……」
「いえ、私はソファーで十分ですよ」
「それはダメです!美星さんは女性なんですからこの時期でもそれはダメです!」
俺からの強い否定に少しだけ驚いたような表情を浮かべてから美星さんは頬を染めて言った。
「ではそうですね……一緒に寝ましょうか」
………えっと、それってまさか。いやいや、俺たち恋人になってまだそう日が経ってないのに……あ、でも、恋人になる前に俺の好きだった女の子とそういうこと堂々と隣の部屋でしてた兄貴の様子からしてそれが普通なのだろうか?
いや、でも………
「あ、あの……俺、誰かと一緒に寝たことないので……もう少し美星さんのことちゃんと知ってからじゃダメですか?」
「はい。構いませんよ」
あっさりと頷かれた。な、なんだ……冗談だったのか。美星さんは本当に凄いと思っていると彼女はくすりと笑って言った。
「どうせこれから何度もお邪魔するんですし、専用の布団があってもいいですよね」
「えっと、まあそうですね」
「あ、もちろんお金は私が出しますよ」
「え、いえ、その程度俺が払いますよ。むしろ払わせてください」
だって、俺にとって美星さんが泊まるっていうのは何よりも嬉しいことなのだ。だからこそ、俺が払いたいのだ。
「そうですか……じゃあ、お願いします」
「はい。あ、えっと……今度、琴音ちゃんも良かったら連れてきてください」
「いいんですか?」
「はい。俺、頼りないけど……美星さんと結ばれたいのは本気なんです。琴音ちゃんとも家族になりたいし……だから、琴音ちゃんが嫌じゃなければお願いします」
俺なんかがこれ以上を望むのは愚かだとわかってる。でも、美星さんに関してだけはそれを許して欲しい。きっと、俺が本気で恋した最初で最後の人だから……
「わかりました。……でも、私と2人きりの時間も欲しいのでお願いしますね」
「え、あ、はい」
「ふふ、じゃあ買い物ついでに行きましょうか。清隆さんの働いてるお店なら夕飯の買い物と布団も買えますよね?」
そうして、何故か俺は休みの日に恋人と職場に買い物に行くという貴重な経験をすることになるのだった。