10.5 膝枕の幸福
「すぅ…すぅ…」
私の膝の上で子供のように無邪気な寝顔をしている清隆さん。お疲れだったのだろう。目の下には隈もあったし、ちゃんと寝れてないのかな?
お仕事も大変そうだし、彼の優しい性格からして職場でも理不尽な目にあっていないか凄く心配になる。まあ、それとは別にスーツ姿の清隆さんをみたいという欲もちょこっとあるのだけど…だって、清隆さんって、物凄くスーツが似合うと思うんだもん。
(それにしても…私の想定してたよりも清隆さんはずっと過酷な環境にいたのかな)
彼の兄で、私の元夫から受けていた暴力以外にも大切なものを奪うような行いまで…物凄く心が痛む。両親からの冷遇に、外面のいい兄との劣等感、そこに兄からの暴力や搾取…まさしく地獄だろう。
今日だって、私にあんなにあっさりと合鍵を渡したのも彼の優しさの証だろう。それだけ私を信じてるのと同時に…何をされてもいいと思っているのだ。
もちろん、私が清隆さんのことを騙したり、悪用しようとは微塵も考えてないが、彼はきっと私が彼をATM扱いしたとしても、優しく微笑むのだろう。だから、絶対に彼を守らないといけない。
(そう…私が清隆さんを守るんだ)
思ったよりサラサラな髪を撫でながらそう決心する。だって、私は清隆さんの彼女なのだから。
さしあたっては彼の職場の人間関係の把握と…出来れば彼の数少ない交友関係も知っておきたい。あと、余計な虫になりそうなのがいないかもちゃんとチェックする。
こんなに素敵な人がノーマークなのも不可解だしね。まあ、元夫が奪ったという可能性が濃厚だろうけど…それでも、職場で清隆さんにちょっかいをかける悪い虫がいないかは把握しておきたい。
清隆さんはとっても誠実な人だ。私という恋人がいる状態で他の女に迫られても多分きちんと断るだろうが…強硬手段にでも出られて既成事実を作られてしまってはおしまいだ。
私が早々に既成事実を作るという手もあるにはあるのだが…結婚出来るまでの残りの日数的に悩ましいところだ。それに娘の琴音のことも考えると、もう少し距離を縮めてからの方がいいだろう。
(考えてみたら、元夫とはデキ婚だったし…本気で好きになったのは清隆さんが初めてかもしれないなぁ)
なんとなくの流れて付き合うことになって、襲われて、琴音が出来たから結婚したが…多分元夫には今は憎悪しかない。私や琴音にしたことも許せないけど…何より、私の清隆さんをこんなに傷つけたことが何より腹立たしい。
ちょっと前までの、元夫への恐れが消えるほどに私は多分元夫が許せないでいた。多分今会ったら盛大にビンタしてやるだろう。
「うぅん……美星さん……すきぃ……」
ズキューン!
寝言で私の名前を呼ぶ清隆さんにハートを撃ち抜かれる。やだ、私、今本当に緩い顔をしていると自分でも分かる。
清隆さんの無邪気な笑顔や、照れた顔を見るたびに必死に抑えていたけど…自分でもビックリするくらい彼への愛が溢れて抑えきれなくなりそうになる。
彼のことが好きすぎて、ずっと傍にいたいと本当に思う。あぁ、私は本当に清隆さんが大好きなんだなぁ…そう思うし、彼を絶対に幸せにしたいと思う。どんなことをしても、彼を守りきって幸せにしてみせる。
だって私は……清隆さんの彼女で、彼のことが世界で1番大好きだから。
さしあたっては私の膝の上で可愛らしい寝ている彼を愛でようと、そう決めるのだった。