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セカイの果てで見るセカイ史~天使(死神)たちはこう語る~

作者: 盃月群青

最近(?)流行りの転生。する側でなく、させる側の体感を三者三様に語っていただきました。

 このセカイ・・・は、数多の世界・・を内包するとともに、そうした数多の世界で成り立っている。言い換えると、そもそもこのセカイが存在しなければ、それら数多の世界は存在することができなかった。

 しかしその一方で、このセカイからいくつかの世界が消失するだけで、セカイの均衡はたやすく崩れてしまう。

 だからつまり、セカイが世界を作ったのであり、世界がセカイを作っているのだ。


 考えたことはないだろうか?

 我々の住む地球という星がある。その外側には太陽系があり、銀河があり、それらは今なお広がり続けているという宇宙のほんの僅かな一部分にすぎない。ではその宇宙の外側。広がり続ける宇宙に取り込まれる前のそこは、一体なんなのだろうか?何かがあるのか。何も無いのか。何かがあるとして、それはどこまであるのか?何も無いとして、それはどこまで無いのだろうか。



――そこ・・こそがセカイである。


 全ての可能性があって、何一つ明確なものがない、そんな場所。

 そのセカイは、無数の世界を内包している。


 ある世界では、宇宙と呼ばれる漆黒の空間が広がり、人間という種族を育む青い星を生み出した。

 ある世界では、終わりなき豊穣の大地の上で、数え切れぬ種族が興っては消え、また興っては消えていく。

 ある世界を満たすのは無限大に等しい情報の羅列であり、そこには意思も物質も存在しないが、世界を構成する条件を満たすだけの質量を持っていた。

 とある世界の内には、地球とよく似ながらも異なる惑星が存在し、魔法という技術を操る人間によく似た種族が繁栄していた。そして、そこには時として異なる世界からの来訪者があるという――


 このように、セカイとは、様々な世界を内包する。そしてその均衡を保つには、それぞれの世界の安定が不可欠だ。だが、そもそも安定した世界というのは、実のところ珍しい。なぜなら、それらを生んだセカイとは、あらゆる可能性を持つものだからだ。そうして、幾度もの世界が消え、また新たな可能性が紡がれる中で、セカイに、世界の安定を使命とする可能性が形をとるようになった。

 そんな彼ら・・は現在、例えば青い海の星の住人たちからこのように呼称されている。“天使”、もしくは“死神”と。これは、セカイの果てで働くそんな彼らの、主観的なセカイ史である。




事例1 質量平衡課 係長 ペネム氏の場合


 はぁ。ったく、これだから実年齢の若い連中ってのは……。

 とと、あぁ、これはお恥ずかしいところをお見せしました。はい、わたくし、世界間の質量を均等にする役目を担っておりますペネムと申します。よろしくお見知りおきください。


 ……え?先ほどの愚t……もとい、職務上のトラブルですか?


 そうですねぇ。……少し理屈っぽくなるのですが、このセカイが内包する世界それぞれに、実は質量なるものがあるのをご存知ですか?


 …………そうですか。えぇと、では簡単に説明しますと。質量とは、“存在”という言葉で言い換えられます。もっと俗な言葉だと”生命”が近いかもしれませんが、我々の解釈のうえでは、可能性が確たる形を取ったもの、ですね。例えばこの地球なんかがある世界の質量は非常に大きい。なんせ、星々の数も膨大ですので、必然、そこに暮らす知的生命体の存在と、彼らが生み出す情報量なども大きくなります。

 

 対して、こちらのカーネリゥムという世界なんか、せいぜいが銀河一個分の宇宙に、知的生命体が僅かとかなり質量の小さいものなんです。すべては可能性の産物といえど、その可能性にも偏りがありますからね。こうした質量の不均衡は、セカイにも世界にもあまりよろしくはないので、我々“質量平衡課”がそれを適度に調節しているのです。


 ……これがまた、煩雑な計算やもろもろの可能性の考慮が必要な、大変労力のいる仕事なんですがね。何が辛いって、そんだけお膳立てしたあげく、対象の可能性にボロクソ言われた時とかですね……。


 ああ、すみません、対象の可能性とは、また俗に言うと魂ってやつですね。死んだ知的生命体から出るアレです。存在とは可能性が形をとったものですが、逆を言えば、存在が形を失えば全ては原初の可能性に戻ります。完全に戻るまでは少し時間がかかりますがね。ええ、つまり我々の仕事とは、重い世界から軽い世界に魂を移しちゃおうっていうことでして。


 ……そうですねぇ、例え、ですか。ああ、それこそ、さっきの愚痴、もとい……ってもういいか。ええ、さっきの愚痴のやつなんですがね―――――



「はい、次の方どうぞー」


 そう私が呼びかけると、それまで誰もいなかった空間に一人の若い男が現れた。年齢はおよそ20代後半くらいか、髪は金ピカで目つきも悪く、混乱しているのか眉間には深い皺ができています。もっとも、ここにくるのは大抵死んだ直後とかなんで、こうした反応は珍しいものではありません。


(死亡年齢は……22ですか。見た目そのまんまで死んだんですねぇ)


 このセカイでの見た目は、生前最も強く印象に残っている時間のものが反映されます。よって例え老衰で逝ったとしても、若かりし頃の武勇伝溢れる時代の姿を取ることも多いのです。しかし思考まで若返るわけでもないので、どちらかと言えば実年齢が高かったほうが、色々と話を通しやすいんですよね。ほら、おじいちゃんやおばあちゃんはちゃんと死を覚悟してここに来ますから。


(だから、こうした若いのは面倒なんですが……)


 はぁ、と私はため息をつくと、手前のパイプ椅子に腰かけるよう相手に促した。これで今日は3722人目の相手ですけど、そろそろ可愛い女の子来てくれないかなぁ。そしたらちょっと来世にサービスするんですが。


「は?なんだよコレ。わけわかんねぇし。つかよ、そこのハゲ、どっから湧いてんだよ」


 これですからねー。まるで理解できない状況に対し、こうも攻撃的に挑んでいけるのはまあある意味では感心するのですが。


 手にしたタブレット端末“たまぱっど”に表示されていたパラメーターを操作し、〈攻撃性〉、〈脳筋〉寄りのものにしていく。加えて〈世界適応性〉ですが……まあ、〈戦乱〉くらいが良いでしょうね。と。


「ハゲコラ、無視してんじゃねえぞ!?」


 ずかずかと歩み寄り、私の胸倉をつかもうと伸ばした手が届くその寸前で。


「――ああ、これは申し訳ありませんでした。とりあえず、そちらにおかけください。」


「……あ、ああ。」


 ちなみにですが、一応この場の管理者は我々ということになっていますので、我々の言葉にはある種の誘導というのでしょうか。対象の無意識に働きかける催眠のような効果があります。もっとも、やはり人によって感じやすい感じにくいがあるのでいつもうまくいくわけではないのですが、幸いこちらの方にはよく効くようでした。


「えー、では、鬼ヶ崎義経さん、でよろしかったですね?つかぬことを伺いますが、現状何か不満に思うことはおありでしょうか?もっとこうなりたいという願望でも構いませんが」


 今度は特に力を込めず言ってみました。こうすると、ちゃんと自分の意思でどういった言動を取れるかを選べますからね。ちなみにこの時の言動は評価内容に直接反映されやすかったりします。皆様も覚えておいて損はありませんよ。


「あ?まずテメーの存在がマジ不愉快だよハゲ。それに、なりたい自分って、お前小学生に夢聞いてるわけじゃねぇんだからさぁ、頭大丈夫ですかー?」


 ですが、これですからね。一度舐めた相手にはどこまでも真面目にする必要はないと、そんなところでしょうか。うーん、こういった輩を荒れた世界に送っても、ますますその世界が荒れるだけですからねぇ。いくら記憶を失うとはいえ、一度魂に染み付いた考え方は生まれ変わっても発現しやすいという調査結果もあるのです。

 何かこう、劇的な変化の機会でもあれば、もちろんその限りではないのですが。


「では現状に不満はないと?」


「はあ?あるに決まってんだろカス。まず金がねぇし、チョーシこいた奴ら多すぎてツマラな過ぎ。あんま俺ら舐めてるとぶち殺すぞってな」


 パラメーターをさらに弄り、粗暴な一面ありっと。んー、平和な世界に送っても周りを乱すでしょうねぇこれでは。そもそもの魂に刻まれた性質なのか、この世界でたまたまこんな風に育ってしまったのか。


「ご両親についてはどうお思いですか?」


 たまぱっどで関連する資料を眺めつつ、ちょっぴり無意識に働きかけます。この方のご両親は、ふむふむ、父親はどうやら放任主義の割に世間体を気にするタイプ、母親は我が子を溺愛してしまったタイプですねこれは。子どもとしてはそれなりに苦労や恩を感じそうな家庭環境ではありますが。


「親父には好き勝手させてもらったし?あざっすって感じだけど、あのババアは無理無理、マジどっか行けって感じ」


 あまり育ててもらったことに感謝はしてなさそうですねぇ。この方自身の子どもはいらっしゃらないと。ふむ、ですが相当派手に女性を泣かせているようですねぇ。

 

 私はぽちぽちとたまぱっどを弄り。

 ふむ、この世界なら良さそうですね。おそらくは物心つく前に戦奴として戦場に立つことになるでしょうが、まあ本人の心の在り方次第では一端いっぱしの傭兵くらいにはなれるでしょう。もしこのままの性格がまた発現したら、あー、転生先であんまり落命が早いと、上司から文句言われちゃうんですがねぇ。ホント、めんどくさい。


 こほん。えー、では最終的な能力の決定値がこれですから、世界IDがこれで……第12項目の1例から4例……ああ、これですね。特例対象にはならないので、このまま計算を、ぽちぽちっと。


――ああ、出ましたね。


「はい、ありがとうございました。では、鬼ヶ崎さん」


「……つかよぉ、お前ホントさっきからなんなわけ?舐めてんとブッ殺す――」


「あなたの転生先が決まりましたので、お聞きください」


 今度はだいぶ強く言い切る。出てきそうだった言葉を急に失って、普通なら多少混乱くらいするでしょうが、完全に頭に血が上ってますね。仕方ありません、このまま無意識に働きかけつつ、丁寧に説明してさしあげましょう。


「まず、あなたは既に亡くなっています。仲間の方と深夜の国道で暴走行為に興じていたのを覚えているでしょうか?その最中、警察車両に追われることになったあなたは彼らを挑発し、あげくスピードを上げすぎて街路樹に激突、即死しました。――その様子だと、思い出して頂けたようですね」


 目を見開き固まった彼を尻目に、私はたまぱっどを眺めながら。


「どうやらご友人も一緒に亡くなったようですが、それはまあいいでしょう。とにかく、そうして亡くなったあなたが生まれ変わる先は、ここになりましたのでご確認ください」


 たまぱっどに保存されていた、世界紹介動画をぽちっ。立体投影装置がそれを虚空に映し出す。


「――ご覧の通り、戦乱の世界になりますね。文明レベルは、やっと飛び道具を用いた戦い方が定着した頃でしょうか。あなたには、ここで戦奴……つまりほとんど人権なんて期待できない階層ですね、ココに映っている彼らですが、これに生まれ変わって頂きます」


 話の内容はともかく、さすがにこうも生々しい映像を見せられては理解せざるを得なかったのでしょう。しばし硬直した後、それがどうやら本当のことだと悟った彼は激昂して手を伸ばしてきますが、申し訳ありません、既に手続きは完了しておりまして。不可視の壁に阻まれた彼の身体が、俄に透け始める。


「ご安心ください、頑張って真っ当な人間になれれば、そこそこ楽しめる世界であるのは保証いたします。ポテンシャルはそこそこだと思いますし。まあ、そんな人間になれればの話ですが」


 怒りと、怯え。その両方を切実に訴える彼に。


「次に目を覚ますときにはきっともう覚えてないでしょうが。どうか、あなたの次なる生が実り多きものとなりますように。――そう簡単に死なれては、私の人事評価にもよろしくないですからね」


 告げて、彼を見送った。一呼吸置いて、うーんと伸びをする。

 やれやれ、次は確か3723人目ですか。座りっぱなしで痛くなった腰に、さすがにもう若くないと痛感させられます。ですがやらなければいけないことに違いはありませんし、そう愚痴ってばかりもいられませんしね。


「はい、次の方どうぞー」


 ですが、次こそはやっぱり素直で可愛い女の子が来てほしいですねぇ。




事例2 世界存続課 新人 リネリット氏の場合


 どうも、こんにちは~。世界存続課、新人のリネリットと申しまーす!確かこれ読むのって、地球の人たちなんだよね?


 ……あ、やっぱりそうなんだ~。いやぁ、普段死んだ人ばっかり相手してるから、生きてる人に何か言うって、こう、ぐっとくるよね!(笑)


 さておき!確か今回は、私の普段のお仕事を教えてーって感じの趣旨だと思ったけど、合ってる……?


 ……あー、そうだよねぇ、良かった。私ちょっとそそっかしくって、すぐ勘違いとかしちゃうの。

 ん、っんん。


 それでは、私のお仕事を紹介しちゃいま~す。私が所属する世界存続課っていうのは、その名のとーり!存在の危機に瀕した世界を存続させるためのお仕事をするところなの。世界って、結構不安定だからねー。質量課の人たちも頑張ってるけど、それだけじゃどうしようもないことって、やっぱほら、色々あるじゃん?可能性って、いいこともあれば悪いこともいっぱいあるし。


 そんな時に何とかするのが私たちなの!具体的にはね。死んだ人の魂を転生させるときに、転生先の世界を救ってもらうように能力を調整したりするんだ~。


 …………ちょっとそこ!質量課とやってることあんま変わんないじゃんって思ったでしょ!確かに、表面だけ見たらそうだけど、世界課は実は色々と凄いんだよ!例えば――――――




「へ?え?ちょっと!?」


「じゃ、頑張ってね~」


「えーーーーー!?」


 私がぽーいって手を振ると、勢いよく上へ向かって落ちて・・・いく少年。私はそれににこにこと手を振った後、はぁ~、とため息を一つ。


「疲れた~~」


 そうして、広い空間にポツンと存在する執務用の椅子に腰を落とすと、同じく執務用の机の上にぐでーっと身体を倒す。10代後半で死んじゃった彼は(死因?ん~、聞いたけど忘れちゃった!)、なんかこう、明るかった。よくわかんないけど、転生にも前向きだったから、とりあえず適当に能力をあげてぽーいってしちゃった。

 “相当使えないって言われる能力”リストから適当に選んだわけだけど、まあ別に私好みのイケメンでもなかったし、いいかなーって。あー、でも、どうせまたすぐ会うかもしれないのかあ。


 転生すると、基本的には生前の記憶やなんかは残らないけど、もし記憶が残ってたりすると面倒だなあ。だって彼の転生先って、彼らが生後数年で死ぬこと(・・・・・・・・・)で救われる世界(・・・・・・・)なんだもん。

 だから、彼らには申し訳ないけど、それを達成するために少しばかり特殊なパラメータ調整を行っている。まあ、運命とか宿命に関する調整って言った方が分かりやすいかな?

 なんか、転生って聞いてあれこれ妄想してワクワク!ってゆーのも彼から感じたけど、まあ頑張って!


 いやー、それにしても、気づけてよかった~。あの世界の人たち、環境の変化に合わせて遺伝子が段々変わってきてて、もう数十年もすれば遺伝子暴走で凄い影響出てたもん。私たちは世界に直接干渉できないから、あの世界の人たち自らでその危険性に気づいてもらう必要があった。

 上司に相談したら、いつの世界も技術や種の発展の陰には必ず戦争や犠牲が必要だーって言われたから、じゃあそうしよーってことで、申し訳ないけど生まれ変わっていく彼らにそれをお願いすることにしたの。だって、赤ちゃんが死んじゃうようなことになったら、みんな必死にその原因を突き止めようとするでしょ?種の存続の危機だもん。それに、遺伝子の変質は新しい世代になればばるほど進んで見つけやすくなるしね!


 今だったら、まだ変質は止められる。止められるから、できれば早く気付いてほしい。まあ正直、大を活かすための小の犠牲って、私もあんまり好きじゃないけど、仕方ないよね。そーゆーお仕事なんだもん。


「さてと、お次の方~」


 休憩終了!ちりんちりんと鈴を鳴らすと、真っ暗な部屋の中、床面がファーっと輝いて、一人の青年が姿を現した。意識を失っていたのか、ゆっくりと目を開けた彼は、呆然とした様子で辺りを見渡した。


 …………ちょっと待って、この人すっごいイケメン!目元は涼やか、髪はサラサラ!顎はシュッと引き締まってて、細身で長身!きょとんとした顔もカワイイ!


「こんにちは~、世界課へようこそ~」


 私が声をかけると、びくっとして恐る恐るこちらを振り向く。


「あの……どちら様、ですか?」


「あ~、これは失礼しました。私、世界課のリネリットと申しまして~、アキラさんの転生を担当いたしますー」


「セカイ、カ?転生?」


「えーっと、実はですねぇ……」


 ぽちぽちっと、全職員に配られているたまぱっどを操作して、アキラさんに現状のご説明。

 交通事故で亡くなってしまったこと、この場の説明、これから私と相談して転生すること、など。一通りを聞いたアキラさんは。


「そう、ですか……」


 噛みしめるように、涙を滲ませながらそう言った。うんうん、やっぱり、そうだよね。切り替えの良さも大事だけど、生きてる間のことを大切にできない人には、やっぱり大きな力なんて渡せない。


 ぽちぽちと、たまぱっとで調べてみると、やだ、アキラさん凄い頑張り屋さんじゃん!ちょっとお勉強は苦手みたいだけど、それでも頑張って大学行って学費も自分で賄ってる!


 「お気持ちはわかりますが、あの~、少し質問いいですか?」


 あとは人柄かな。特に、自制心と柔軟性。世界課のお仕事的には、この二つが超重要なの!


 そうして、十数分にわたる質問に、アキラさんは少し疲れた様子ながらもちゃんと答えてくれた。若干、いい人過ぎて悪い人たちに利用されないか心配になるけど、この人なら”英雄”適正Cはあげられる、かな?


「ありがとうございました~」


 さて、じゃあ、私もお仕事しなくっちゃ。たまぱっどを操作して、世界情報課のまとめたリストのうち、存続評価が一定以下のものをピックアップする。


 ん~、英雄適正Cなら、存続評価でDくらいかなあ。あ、存続評価っていうのは、早い話、この評価が低いほど世界が存続の危機に瀕しているということ。ちなみに最悪はGね。


 世界とは不安定なものだ。世界が内包する何か一つが崩れるだけで、世界事崩れかねない。

 例えば、地球。正直、地球の世界では、たかが人類なんて世界的影響力はほぼ無いに等しいけれど、それでも一度、手が入ったと聞いている。その時はなんとかっていう物理学者に転生したって聞いたような?

 

 まあ名前は忘れちゃったけど、そのおかげで、何千年と先の未来が変わり、本来訪れるはずだった世界の危機を回避できた、らしい。私も最初に聞いたときは本当かなって思ったけど、この仕事を続けているうちに、なんとなくそーゆーのも分かるようになってきた。


(さて、と)


 世界情報課による存続評価は、正直に言って、彼らの“なんとなく”で決まる。各職員が、なんとなく、その世界を見て、なんとなく、評価を下す。もちろん、なぜそんな評価になるのか彼ら自身にも分からない。


 …………ただ恐ろしいのは、その評価がほぼ適切であること。放置しておくと、その世界はほぼその評価通りの状況になり、その時になって初めてなぜその評価が下ったかの理由が分かるのだ。だから、私たちがいる。


(サーチ……ローディング…………世界リンクに“リネリット”をアコモデーション……)


 流れ込む膨大な可能性に身をゆだね、感じ、思考する。


 例えば、生物が指先を一つ動かすだけでも、世界には情報としてそれが残る。そんな情報が集積し、絡み合い、やがて一つの事象に収束する。私たちがやるのは、その情報をより分けて、世界の危機につながる事象を見つけ出すこと。予知、とも、言い換えてもいいかもしれない――


「はぁい、お持たせしました~」


 ま、こんな感じで真面目にやっても、地球時間でせいぜい一日気を失う程度の大したことない作業なんだけどね!やばい超頭痛い!


「えーっと、できればここをお願いしたいですね~。超銀河連合同士の戦争がもう200年も続いてて、そろそろブラックホール爆弾とかいう、頭の悪そうな兵器がばんばん使われそうな世界なんですが~」


「え?は?」


 これ使われ始めたら間違いなく世界崩壊しちゃいますね!


「それで~、あなたには宇宙でも自由に活動できる巨人になれる身体と~、無敵の防御力をあげちゃうので、戦争を止めて世界を平和にしてくださいね~」


「あの……」


「なんですか~?あ!言っときますけど、遠距離攻撃能力はあげませんからね!ウルト○マンとはなんの関係もないんですから!というか、これくらいじゃないと、立ち居振る舞いに関わらずあなたの存在が脅威になっちゃいますし!」


「そうじゃなくて……って、え?まさか素手?」


「刀とか持ってもいいですよ~」


「……ブラックホール爆弾とかいうのがある世界なんですよね?」


「ネーミングが安易ですよね~」


「……あの、手段はもとより、とても俺にそんなことできると思えないんですけど……」


 普通に生きられたら、俺はそれでいいんです。そう言って困ったように笑う彼。

 まあ、気持ちは分かる!私も、これが仕事じゃなかったら、私と一緒にいてください(ヒシッ)って、抱き着いて引き止めたいくらいだし!


 だけども。


「大丈夫ですって~。あげた能力超強いですし、向かうところ敵なしです!生まれる場所自体はとっても平和ですし、あとは世界を救うための簡単なお仕事、ですよ!俺TUEEE!です!」


 ただ、ごめんなさい。今の私の立場では、残念ながら他の言葉をかけることができません。本当のことを言えば、多分、場合によってはとっても辛い思いをします。たくさんの人の命を背負って、たくさんの人から怒りや理不尽を受けるかもしれません。生まれる予定の平和な場所も、ずっと平和なままなのか、私ごときには分かりません。


「ん~、どうしてもと仰るなら、遠隔攻撃能力もつけちゃいます?今なら大特価で寿命一日分!」


「それ、安いのか高いのか分かりませんね……。というか、やったら俺が脅威になるんでしょそれ」


 苦笑いする彼。私も、あはは~、っと、笑ったつもりだった。


「はぁ。いいですよ」


「え、本当ですかぁ~?」


 やったあ、と快哉を叫ぶ私に、彼はまた困ったように微笑んで。


「なんか、あなたも困ってるみたいなんで」


「…………」


 あ~あ。本当に、これだからイケメンは困る。いや、きっと顔じゃないんだけど。

 深く考えず送り出されてくれるのが一番。ただ、数合わせみたいな場合を除き、基本的にはこの程度のことに気づく人だから世界課に回されてくるんだけど。

 そして分かってても黙って送り出されてくれるのが二番。自分勝手だけど、これは私の罪悪感的に。


 まあ今回は三番目、分かったことを言ってくれる人だったけど、まあこんな私にもそれなりの誇り?意地?はあるわけで。


「え~?なんの話ですか~」


 そうやっておどけて見せると、彼は仕方ないなあと肩をすくめて見せた。

 ……ほんっと、イケメンってやつは!




――――――彼の旅立ちを見送った私は、そのままぐだっと床に倒れ込んだ。セカイに数多ある可能性は、何も言わずともその場所を柔らかな布団に変えてくれる。枕も私好みの高さだ。


「世界、か」


 ぽつり、と呟いてみる。

 正直、世界に生きたことのない私は、世界のことなんて分からない。分かるのは、せいぜいが膨大なデータの宇宙に散りばめられた生命の営みだ。それは種々の色が混じりあい、溶け合った黒色で、でも時折大きな星のように光り輝いている。私たちは、それを識ることはできても、たぶん理解することはできないのだろう。


 ただ願わくば、どうか生命に優しい世界であってほしいと思う。世界課の仕事なんて、本当は無い方が一番良いのだから。


「あ~、でもアキラさんカッコよかったな~。次死んだらまた私のとこきてくんないかな~」


 まあ、来たら来たで、また大変な転生をお願いするかもしれないけどね!






事例3 世界情報課 課長 アルペンリズ・ネルドワフ・ウンドゥラワンサ・ハネフジガフ・ヨワシオッテ氏の場合


 ふむん、万物の真理に挑みたいと?

 よかろう、ワシが導いて進ぜよう。そもそも―ー


~中略~


 ―ーであって、刹那の有限こそが無限、ひいてはあらゆる次元を結ぶ懸け橋と……なんじゃ?なに?そんなこと聞いてない?仕事?


 よかろう、ワシの仕事のなんたるかを教えて進ぜよう。そも世界とは――


~中略~


 ―ーの波こそ、ああなんと美しいものであろうか!言葉にできぬ言葉を与えられたという至福!頭蓋を突き抜けるような痛みすら伴い、それは時としてわが身を震わせ、未だ見たことのないセカイの……なんじゃ、分からない?高尚すぎて?もっと具体的に、ついでに、端的に?


 よかろう、ワシがそなたの期待に応えて進ぜよう。ワシが所属するのはな、何を隠そう、かの名高い世界情報課といって――



~結局長かったので以下抜粋&要約~


世界情報課というのは、ざっくり言うと世界の情報を扱う専門部署じゃ。細かい業務分担は多岐にわたるが、全員に共通するものが二つある。


 一つは、世界の存続評価じゃ。これは、ふむ。毎度言葉にして説明するのは苦労するのじゃが、端的に言うと、ワシらの勘に基づいて、その世界が安定しているかどうか判断するわけじゃな。


 ん?なに、地球?あー、すまんのう。いかんせん世界なんて、数えるのも馬鹿らしいほどに存在しておるんで、ワシら情報課はそんな細かいとこまで見ないんじゃ。申し訳ないが、別の機会に改めて


 …………なに?世界の情報を持ってる?世界存続課のお姉さんから貰った?

 っち、面倒じゃのう(ボソッ)


 ん?どうしたね?ワシの顔になんかついとるか?


 ……まあ、よかろう、せっかくだし特別じゃ。さて、ふむ、この世界な。さーて、ではやってみるとしようかのぉ。


 は~、どっこいしょ、っと。ん、っんん。ゴホン、ゴホン。あ~、あ~。ん、っんん。


 ……なんじゃその目は。分かっとるか?課長自らは、すっごいレアなんじゃぞ!肝に銘じんか!

 さて、ではでは――


(3秒後)


 あー。なんじゃ、お前さんの地球?とか、その辺の世界は問題ないわ。ぜーんぜん。判定?Aくらいじゃね?まあ細かいことはワシには分からんがな!



 もう一つはのぉ。実は~~。なんと~~!まさかの~~~~!


 ……なんじゃその目は?分かっとるか?今お前は、ものすごい秘密を知ろうとしておるんじゃぞ?すっごいレアなんじゃぞ?肝に銘じんか!


 さて、ではでは―ー。

 ごほん、実はぁ~、まさかのぉ~~~!


 …。

 ……。

 秘密なんじゃ!


 ほっほっほ、ワシは言ったぞ?“秘密”を知ろうとしておるんじゃ、と。で、確かに秘密ということをお主は知ったの?そーら、嘘は言っとらん!


 …………な、なんじゃ、その目は。別に、ワシは悪いことをしたわけではないし?ほら、機密情報の漏洩とか、最近は“こんぷらいあんす”的にも厳しいから、なかなか難しいのじゃ。ほ、ほら、ワシも管理職だしの?だから、そのあたりはこう、何卒ご理解下さいというかの……。


 ええい、分かったわ、じゃがヒントで勘弁せえ!

 ……誰がヒヨったじゃああああ!管理職の心労舐めんなよおおお!言っとくけど、ワシのこれヅラ――――――


 ゴホン。まあ、とにかくじゃ。ワシから言えるのは少しだけ。

 情報、ひいては可能性というのは、実は有から生まれるだけではない。無から生まれることもある。それがどのような変化を生むかは、誰にも、ひょっとすると神にも分からん。


 神がいるかじゃと?さてな。じゃが神もまた、可能性の一つの在り方と、ワシはそう思って居るがな。


 ともかく、何事の可能性も、誰にも分からん。だからこそ、せめて自分と周りの可能性は大事にせい。それを大事にするか否かで全てが変わってくる。自分も、相手も、世界も、セカイも。そうすれば、きっとどこかで、それらの可能性は結び付くはずじゃからな。


 ――――なに?どうせそれも、“結び付く可能性がある”っていうことじゃろうって?


 ふふん、よく分かっておるじゃないか。


最初は、調子に乗った転生者ざまあとか書こうと思ったんですが、巷に溢れてますし、ちょっと違ったものにしようかな、と思っていたらこうなった。

最後の名前の長い爺さんが好き勝手に喋る喋る……。

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