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2. 神子


いざ、冒険の旅へ!!


ゲームのキャッチコピーのようなフレーズが頭に思い浮かんだのは、目の前にいる男が物語の主人公そのものみたいだったからだ。


こう…魔王を倒す選ばれし勇者、みたいな。

まあ残念ながら、この世界には魔王なんて存在しないのだけれども。


「聖騎士のキーです。

神子さまの身の安全は私にお任せください。」


逞しく、それでいて爽やかな金髪碧眼の青年である。

聖騎士というのは、神殿所属の騎士のこと。

彼は若手の中でも出世頭のようで、小隊長だそうだ。


まじまじと彼を観察していると、これまた芸能人を生で見たー!みたいなキラキラの目で見つめかえされた。


いやいや、そんな目で見ないで。

ごく普通のくたびれた会社員だぞ。


しかし、彼のそんな眼差しも、仕方がないのかもしれない。

神子とは、神に特別な加護を与えられた人間。

この世の誰よりも浄化の力が強いものらしいのだ。


そして、神子はそうそう現れない。

なぜなら、神子とは地球人、トリップしてきた人をさす。

ここ150年くらい、神子は存在しなかった。

日本で例えるなら、武士を生で見るような感覚だったのかも?




ここで、神子と浄化の話をしよう。

本来、神の泉へは神紋をもつ者のみが、結界を通り抜けることができる。


そのため、数百年前のこと。

最初にトリップしてきた地球人を前にして、当時の神官たちの議論は紛糾した。


前代未聞の事態だったからだ。

言葉は通じるものの、こちらの常識が通じない。

どうやら別の世界から来た人間らしい。

神紋もない。


だが、神紋がなかろうと神が許したからこそ泉に降りたったということなのでは?


言葉が通じることも、人並み外れた強い浄化の力があることも、神のご加護なのでは?


そのような結論に達した彼らは、神が特別に加護を与えた子、すなわち神子、と地球人を呼ぶことにした。

そして、最初にトリップした人は神殿に交渉した。


「こちらの世界での生活を保障してほしい。

そのかわり、私に強い浄化の力があるのなら、この世界のために使いましょう。」


すごいよ、最初にトリップした人。

神子といっても、扱いに困っていた当時の神官たちに、よく交渉をもちかけたものだ。

さらに、浄化の仕事が身を削るような大変なものでもないと、よく見極めることができたもんだよ。


そう。

浄化ができる人は限られているが、少なくはないのだ。

だって神官は、浄化できるから。


この世界、トリップで頻発する、

『アナタにしかできないので世界をお救いください!』

みたいなものはない。


光があれば、闇も生まれる。

これは自然なこと。

だが闇が増えると、草木が枯れ、動物が魔物化し、生活が脅かされる。


だが、案ずることなかれ。

魔物は聖騎士が討伐し、闇は神官が浄化する。

『神殿が市民の皆さまをお守りいたします!』

というような、この世界の人たちで、きちんと対処できちゃうパターン。


なのに、神のご加護とやらのおかげで、神子さまと敬われるという…。


すばらしい先人のおかげで、その後にトリップしてきた人たちは、この世界の人々から丁重に扱ってもらえるようになった。


そして、元の世界、つまり地球に帰ることができた人もいるという。

原理は全くわからないが、突然トリップしてきたり、元の世界へ帰ったりできるのが、あの神の泉らしい。


こちらで生きていく決心をして、神殿との契約を終了し、市井で暮らした人もいたそうだが。





まあ、とにかく。

私は神殿と契約して、各地の浄化を担うことになった。

旅には、先ほどのキラキラ聖騎士キーと高位神官セイが同行する。


「まず、近場から参りましょう。

ここは神殿の総本山ですので、周囲の村や町も闇が深いところはないのです。

経験を積むには、ちょうど良い環境ですよ。」


セイが地図を取りだす。

うん、RPGでもレベル上げが大事。

スライムのレベルからだよ、何事も。


「カラはどうでしょう。

沼地がちょうど良い練習になるのでは?

小さい魔物が定期的に生まれるので、新人にはもってこいですよ。」


キーの指が神殿より東に、すっと動く。


神殿と東にある大きな街の間に、小さな村がある。

このあたりがカラというらしい。


村を少し南にくだると沼地が広がっていて、沼地に生える水草が割と貴重なのだとか。

だが、同時に闇が集まりやすい場所でもあり、小さい魔物が生まれてくる。


神殿にいる見習いの神官や聖騎士は、神殿の訓練所で擬似的に作られた闇や魔物で鍛錬している。

そうして力をつけて、いざ実践となれば、比較的やさしいレベルの闇がある場所から始めるのだ。


この、カラの沼地もそのひとつ。

神子の浄化の力は強いが、他の神官と同様、段階を踏ませてもらえるようで一安心。



でも、いいのかなあ。

だってコレ、ぬるゲーじゃない?


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