1. 異世界
ぱちん、というシャボン玉がはじけるような音がなる。
あたり一面に、くもりのない水晶のようなものが現れては空に吸い込まれていく。
ゲームのムービーにありそうな、キラキラの幻想的な光景である。
まさにファンタジー。
そして、このキラキラを生み出しているのが何を隠そう、私である。
びっくりするでしょう?
それも当然。
だって、本人も未だに夢の中にいるような気分。
現実感をもてないままなのだから。
♢♢♢
異世界にトリップして一週間。
いつも通り、仕事が終わって帰宅途中のこと。
なぜか道路が陥没した。
何を言っているのかわからないかもしれないが、事実だ。
突然、歩いていたはずの道がなくなって落ちた。
声も出せないまま真っ逆さまに落ち、地面に激突する前に気を失ったらしい。
気がついたら神の泉という、ご大層な場所で大勢の人に囲まれていた。
これまた悲鳴もあげられないほど恐怖に慄く私。
想像してみてほしい。
見知らぬ場所で、わけもわからないまま囲まれるということを。
パニックだ。
しかし、実は囲んでいる方もパニックだったらしい。
神の泉とは、この世にひとつの神聖な場。
そのため、結界がはられているそうだ。
通るには神紋という、身体に刻まれた通行証のようなものが必要。
私が落ちてきたとき、高位の神官たちは誰かが結界を通り抜けたことに気がついた。
神紋をもつ者ではない。
だが、結界が破られたわけでもなかった。
それ故に、まさかの地球人&異世界人、双方がパニックという混乱状態に陥った。
彼らの台詞を一部抜粋。
「お前、誰だ?!」
「神紋の気配ではなかったぞ?」
「どうやって結界を通った?!」
その場に集まった高位神官たちは知らなかったらしいが、実はトリップして泉に降りたった人物は過去にもいたらしい。
しばらくして神官長が到着し、この騒ぎを治めてくれた。
「はじめまして、神子さま。」
という、とんでもない台詞とともに。
♢♢♢
ぱちんぱちん、というシャボン玉がはじけるような音がやむ。
キラキラの水晶も、最後のひとつが無事に上空の彼方に消えた。
雲ひとつない、あおい空だ。
「浄化が完了しましたね。
お疲れさまでした、ユカリさま。」
同じ青いでも、空というよりは海のような深みのある青髪の神官が近寄ってきた。
この一週間、お世話係として、こちらの世界のことや浄化の魔術を教えてくれた女性である。
「感覚つかめてきたみたい。
ありがとう、セイ。」
「とんでもないことでございます。
神子さまのためですから。
これで浄化の旅に出ることができますね。」
そう。
まさに異世界のテンプレ。
神子として闇を浄化することになったのだ。
平凡な会社員、ユカリ30歳。
異世界で、神子はじめました。




