10. 重要参考人
「改めて、話をしてもらいたい。
まず、あなたの名前から。」
今まで、何度も同じことを、たくさんの人に尋ねられて話をしてきた。
今日は、この冒険者ギルドの人に話をせねばならないらしい。
昨夜遅くになって、冒険者ギルドに連れてこられた。
盗賊集団は、全員もれなく元冒険者だったので、冒険者ギルドも話を聞きたいとのことだった。
そして、今日。
午前中から、このアッカーという人に事情を説明することになったのだ。
休憩を挟み、午後になってから、また同じように話を求められた。
それはいい。
別に話をすることに異論はない。
犯人逮捕に必要ならば、協力は必要だろう。
しかし、それよりも気になることがあった。
セイとキーの行方である。
彼らは、無事なのか。
「あの、お話をするのは構いません。
ただ、私には連れがいるんです。
彼らがどうなったのか心配で。
いつ帰れますか?何か情報はありませんか?
軍人さんに聞いても、何もわからなかったんです。」
東の街でも、この王都でも。
誰も何も教えてくれない。
いくらなんでも、そろそろ不安になってくるというものだ。
私の言葉を聞いて、目の前の男の眉がピクリと動く。
背が高く、がっしりとした体型で、赤みがかった茶髪。
眼光鋭い、濃茶の瞳。
なんというか、威圧感のある人だ。
軍人もそうだったけど、戦闘に携わる人というのは、こんな人が多いのかもしれない。
聖騎士のキーが爽やか好青年の雰囲気であったことが、例外だったのかも。
もし、あれが全ての聖騎士の標準装備なら、聖騎士は全員アイドルに転職できるに違いない。
そんなことを考えていたら。
突然、目の前の男が立ち上がった。
私たちの間にある机を、力いっぱいバンっと叩いて。
「いい加減にしろ!お前、自分の立場わかってんのか!!」
いきなり怒鳴られた。
短気な人だ。
立場なんて言われても。
「それは…捜査協力が大事だってわかってますよ。
でも、行方不明者の安否を気にしてもバチは当たらないと思いますけど。」
確かに、村の襲撃は許せない。
コクトくんのことを思うと、とても苦しい。
だが。
私には、数日とはいえ旅を共にした仲間がいるのだ。
盗賊の確保も大事だが、私にとって最も重要なことは2人の無事を確認することだった。
「お前の言うような、沼地に捨てられた神官も聖騎士もいない!」
私の恨みがましい言い訳に対して、返された言葉は辛辣だった。
そんなはずはない。
そう言いたかった。
だが、実は軍人たちにも、同じことを言われていた。
村に救助が来てすぐに気を失って。
次に目が覚めたとき、私は東の街の軍駐屯地で寝かされていた。
もちろん、すぐにセイとキーの2人のことも伝えて、沼地に行ってもらったのだ。
だが、2人は見つからなかった。
どこにも。
じわり、と目に涙がたまっていく。
「死んだみたいなこと言わないで!
どこかで絶対に生きてるんだから!!」
見つかっていないだけだ。
死んでしまったのなら、沼地にそのまま遺体が残っているはずなのだ。
だから、生きている。
自分たちで移動したのだ。
彼らの生存を否定して欲しくなくて、こちらも怒鳴り返した。
ここ数日、軍での聴取や王都への移動などで、身も心もすり減っていたのだろう。
今まで、私なりに冷静に対応していたのに。
ついに、余裕を失って取り乱してしまったのだ。
だが、すぐに取り乱したことを恥じた。
向こうも怒鳴ってきたが、同じように怒鳴り返しては話が進まないからだ。
そう思って、アッカーへ謝罪しようとした。
したのだが。
アッカーは、顔をしかめ、顎に手をあて、何かを考えこんでいる様子だった。
なぜか彼を取り巻く雰囲気が、妙なものを見る目に変わっている。
この感覚には、覚えがあった。
主に、この世界の常識と違うことを言ってしまった時に、セイとキーがしていた目つきと同じである。
「…おい。俺は先ほどまで、事ここにいたって無事に釈放されると思っている頭のおかしい奴だ、とアンタのことを思っていたんだが。」
よく状況は飲み込めてはいないが、馬鹿にされているらしいことはわかった。
しかし、こちらの常識を知らないことは事実だ。
「もしかして、お前。
今、俺に聖職者2人が生きていると主張したのか?」
さすがにムッとして、唇をへの字に曲げる。
「逆に、どうして死んでいるって決めつけるんですか?
そこに遺体がないなら、自分たちで移動した可能性もあります!
あの、ちょっと不安になってきたんですけど、神殿に連絡いってます?」
そう言うと、ますますアッカーの眉間に皺が寄る。
そして。
彼が吐き捨てた言葉は、私を打ちのめすに足る威力を発揮した。
「神殿に連絡するための情報を寄越さなかったのは、てめえだろうが!
なぜ身元照会の3項目を開示しない?!
これがないと神殿は、何の情報も出さんのは知ってんだろうが!!」
「…え?え、何それ?え…。」
身元照会の3項目?
なにそれ、知らない。
混乱する私に、アッカーは容赦なく、とどめを刺した。
「軍もギルドも、お前がいう2人の生死なんざ話題にしてねえよ。
身元が不確かな人間の証言で、そんな奴らは沼地にいない。
俺たちはな、その2人の存在自体を疑ってんだよ!
バカか!!後ろ暗いところがないなら、とっとと全部吐け!!」
♢♢♢
窓から西日が差し込む。
気がついたら、ずいぶんと時間が経っていたらしい。
私は、ぽつりぽつりとアッカーに話していた。
神殿総本山にある神の泉にトリップしてきたことから、本当に全てのことを。
彼は特に口を挟むこともなく、聞いていた。
時折、何か言いたそうな表情になることもあったが、黙って話の続きを促した。
とりあえず、語らせることを優先したようだった。
「お前はバカか。」
話を聞き終えての第一声がこれである。
辛すぎる。
誰だよ、ぬるゲーとか言ってたやつ。
…私だけどさ。
さすがに、もうゲームでもライトノベルでも、物語の世界でもないことは身をもって理解しているけども。
「つまり、何かあっても誰かが絶対に助けてくれる、手を貸してくれるって甘えて過ごしてきたって話だろう。
何とかなると楽観して。
それで共犯を疑われ、こんな場所まで来たのに危機感の1つもなかった、と。」
だって。
だって、完全に襲われた被害者の立場だと思っていたんだもの。
それがまさか。
あの盗賊たちと共犯だと思われていたなんて。
今までの私の話が、全て作り話だと思われていたなんて。
「そもそも、神子と主張しても信用されないだろう、というのは勝手な思い込みだろう。
確かに俺も信用してないし、アンタの頭を疑っているが。
だが、そう申告されたら神殿へ問い合わせる。
3項目なんぞ関係ない。
その時点で問い合わせ可能なんだよ。」
アッカーの言葉に、申し開きのしようもなかった。
黙って俯く。
「おい、ユカリ。」
名前を呼ばれたのは、はじめてだった。
今までの聴取では、あなたとか神官どの、と呼ばれていたのだ。
アッカーにいたっては、アンタやお前、てめえ、などまで。
だから、名前を呼ばれたことに本当に驚いた。
そして、はじめて、私という人間と会話してくれているのだと感じるようになった。
事件の参考人ではなく、また神子や神官でもなく。
ユカリという個人との会話だ。
「俺はまだ疑っている。
だが、ここで神殿に照会する必要がでてきた。
神殿から結果が返ってくるまでは、ギルドで引き続き身柄を預からせてもらう。」
それについては、仕方がないと思う。
私は気がついていなかったが、容疑者みたいなものだったのだ。
日本と違い、留置期間とかなさそうなので、この状態では釈放されないだろう。
「それからな。物事に対して、きちんと自分の事だという認識をもて。
これは他人事じゃない。お前のことなんだぞ。
今までは、困れば誰かが助けてくれたのかもしれん。
これからも助けてくれるかもしれん。
けどな、他力本願な思考はやめろ。
自分の足で立て。」
くそったれ、と悪態をつきながら。
すこぶる不機嫌そうだったけど。
それは、私がこの世界で生きるうえでの助言であった。
彼にとっては、考えの甘い神子に対しての怒りからくる苦言のつもりだったかもしれない。
だが、少なくとも私にとっては、助言にしか聞こえなかった。
こうして。
私は本音で話をしてくれたアッカーに対して多少の親近感を覚えたし、彼もまた遠慮なく、バンバン口を出した。
しかしながら、未だに容疑が晴れていないことは、誠に遺憾である。
神殿から、早馬で神子の可能性が高いと返答は来た。
本人確認のために高位神官が面会に訪れることも決まっていた。
だが、悪いことは重なるものである。
ギルドと神殿が面会日を調整していたにもかかわらず。
ある日を境に、神殿が一切の連絡を断ったのだ。
それ故に。
私は、神子(仮)であり、容疑者(仮)でもあるという、複雑な立場のまま留め置かれている。
神殿に何があったのか、気になるところではあったが。
私はすぐに、神殿のことまで気にしてはいられなくなった。
この状況に慣れてきたことと、少し気が抜けたことが、きっかけだったのかもしれない。
夜毎、悪夢に悩まされるようになってしまったのだ。
あの日の、カラの村を夢に見る。
いつだって、自分のことで精一杯な私である。
悪夢を見ないようにすることの方に必死になり、神殿のことを忘れてしまったのだった。
一部訂正しました。
訂正前) 拘留
訂正後) 留置
調べたところ、拘留は既に刑が確定したうえでの刑事罰にあたるようです。
いやはや、無知で申し訳ない…。




