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信用金庫の守り人  作者: 豊科奈義
曳見信用金庫防衛戦
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第二話 曳見信用金庫防衛戦その二

 長かった春休みが明けた。新高校生となる自分は、期待と不安に駆られながらも高校に到着する。


『県立西敷知高等学校』、そう書かれた校銘板はほとんどが雨風により錆びている。


「お?一樹じゃん」


 一樹が声の方へ振り返ると、自転車が爆走してきて一樹につっこむ勢いいたので反射的に目を瞑る。耳を塞ぎたくなるようなブレーキ音が耳に障る。


仁志(ひとし)か?」


 一樹にとってこの声には聞き覚えがあった。幼稚園から今に至るまで、家が近所ということもありよく遊んだ深澤(ふかさわ)仁志だと。


「久しぶりだな」

  仁志は端正な顔をした淡い茶髪の持ち主だ。小中学校では美少年と持て囃されたほどだ。


「ああ、変わってないな」

 

 

 中学校三年ときに高校受験のための勉強でお互い忙しかったため会うのは久しぶりだった。


「今年度は同じクラスになるといいな」


 仁志は一樹の肩を組みながら校舎へと入っていった。そこにはクラス分けの紙が張り出されているのと、入学式の座席表が置いてあり、人で溢れている。


「よし、行くか」

「え?」


 仁志は群衆の中に飛び込んでいった。女子もいるなか無理に飛び込めば痴漢疑惑すら持たれかねないというのにだ。


「ちょっと何?痴漢?」


 群衆にいる一人の女生徒が声を上げる。


「すみません。押されてしまったもので、大丈夫ですか?」


 仁志は爽やかな笑顔を振りまいた。


「ええ、すみません」


 しかし、女生徒は仁志を見ると顔色を急に変えた。やっぱり人間は顔で決まるものなんだな。と一樹は思った。


「一樹!おまえと一緒の三組だって!」


 仁志は叫びながらこちらに走ってきた。一樹の前に来ると再び肩を組み、入学式の会場である体育館へ向かった。

 しばらくして、始業式が終わった。


「なあ一樹、寝てただろ」


 HRへの移動中に仁志から話しかけられた。


「そりゃ、始業式なんて寝るもんでしょ。授業中ならまだしも、偉い人が綺麗事ぬかすだけじゃん」

「そういうやつだよな。一樹は。そういやおまえんち増築するって本当か?俺の家にビラ入ってたんだけど」


 そういって仁志は四分の一に折り畳まれたビラを取り出し一樹に見せた。増築に関する工事の日程、オープン日時、二次元コード決済対応などがフルカラーで刷られていた。


「まあ、そうみたい。というかビラも配ったのか。対して儲かってないのによくやるよ」


ビラを仁志に返した。


「儲かってないのか?少なからず客は来てるだろ」

「まあ、来ないことはないけど。春休み中だって店番頼まれたけど客来ないだろと思って、寝てたら難しそうな本を買う客が来て大変だったし」

「難かしそうな本?どんなの?」

「いや、確か『誰でもわかる金融機関の仕組み』だったかな」

「ここら周辺にそんな本買う人がいるのか。熱心な人もいるんだな。銀行員とか?」

「十五歳って言ってたけど例えるなら……」


 亜麻色の髪、茶色の瞳。一樹は容易に想い描くことができる。三組の教室内に入り、彼女に似た女子生徒を探す。雑談している女子生徒、スマホをいじっている女子生徒、そして窓際の席で本を読んでいる女子生徒。……窓際で本を読んでいる女子生徒は亜麻色の髪、茶色の大きな瞳。ここからでも十分確認できる。まさにそっくりだと一樹は思い手のひらを彼女の方へ向けた。


「そうそう、あの窓際で本を読んでいる……あ!」


 彼女によく似ているどころか彼女本人ではないか。そう一樹は思った。


「多分あそこの彼女かな。ほら、窓際で本を読んでいる」


 一樹は自然に彼女へと近づく。読んでいる本が『誰でもわかる金融機関の仕組み』だったら間違いなくあの時の彼女だ。そう思い彼女に悟られないように近づく。しかし、ブックカバーのせいで本の名前が確認できない。策を練るが一樹には思いつかなかった。すると、仁志が一樹を一瞥し肩を軽く叩いた。


「ねえ、何読んでるの?」


 彼女は驚いた様子で声の方を見る。


「『誰でもわかる金融機関の仕組み』という本です。堀田書店で買いました」

「だってよ。一樹」


 仁志と彼女が振り返る。


「あれ、あなたは確か寝ながら店番していましたよね」

「そうだけど、それは誰にも言わないで……」

「え、あ?すみません」

「ところで、それって面白い?」


 仁志が本の内容を覗き見る。


「うーん。人に依るんじゃないですか?私は金融機関に興味があるから読んでるんで」

「へー。そんな難しそうなことに興味があるなんてすごいね!出身中は?どこ?」

「中学は……言いたくないですけどいいですか?」


 彼女は声のトーンを下げてそう言った。先日ここらに引っ越してきたばかりなことを考えると、問題のある中学校だったんだろうか。そうだとしたら聞くべきではない。そう一樹は思った。


「あ、ごめん」


 仁志も彼女に釣られて声のトーンを下げた。


「いや、いいんですよ」

「そうそう、俺の名前は──」


 空気を読んだのか深沢が自己紹介をしだそうとした。しかし、教室のドアが勢いよく開く。


「お前らうるさいぞ。もうHRは始まってんだよ。中学生気分の奴は中学校へ戻ってろ」

 教室内は途端に静まり返った。

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