プロローグ:信用金庫転換計画
地球侵略局と書かれた室名札が取り付けられた扉に向けて、歩いてくる者がいた。その者は、扉の中に入るとそのままその者の上司の元へと赴いた。上司もそれに応えるように椅子を回転させて部下の方を向いた。
「地球の偵察が完了しました」
部下はそう言うと、報告書を上司へと提出した。
「そうか。よくやった。で、どうだった?」
上司は報告書を受け取ると、そう聞きながら数秒感覚で捲っていく。
「そうですね……。一つ問題がありまして。『シンヨウキンコ』と言う金融機関なのですが……」
信用金庫という聞き慣れない言葉に、上司は顔を顰め捲っていた報告書を机上に置いた。
「『シンヨウキンコ?』なんだそれは? 銀行とは違うのか?」
文脈から察するに銀行とは異なる金融機関等は瞬時に察している。だが、確認の意味も込めて上司は部下へと問う。
「申し訳ありません。金融機関であることに間違いはないと思うのですが、違いがよくわかりません」
部下は上司へと謝罪する。しかし上司は楽観的であり顔を顰めるのをやめ、叱責とは無縁の表情をしている。
「まあいい。政府を掌握してからそのシンヨウキンコとやらの株式を片っ端から買収して、吸収統合すればいいだけのことじゃないか。地球人は経済的にも逆らえなくなる」
上司は完璧な作戦だと言わんばかりに、自画自賛しているのかただただ首を縦に振っている。その意見に、部下は恐れ多いと感じつつも提言することにした。
「いえ、それができないんです」
「ん? なぜだ?」
上司は信用金庫を甘く見ていたのか、鋭い目つきになる。
「実は、調べたところ株式会社ではないのです」
「何? ではどうやって支配下に置けと?」
衝撃の事実を告げられ、上司は焦燥感に駆られたのか歯を食いしばる。その様子に、地球侵略局の職員全員が思わず作業を止めこちらを見てしまう。
「わかりません。……でも、一つだけわかったことがあります。『シンヨウキンコ』は銀行に転換できるそうなのです」
部下は己の情報収集能力の低さに幻滅しながら、唯一手に入れた情報を話した。
「そうか。方法があるのなら安心だ」
上司の表情は緩和されたとはいえ、未だに何かを憂慮を抱えていた。
「どうかされましたか?」
部下が上司を心配し、声をかけると上司は首を振った。
「そんなことはないさ。我々と我々の子孫のために、地球を征服し食糧問題を解決しよう。我が星の最先端の技術を使えば、きっと地球なんぞすぐに征服できる。ただちょっとこちらの仕事が大変でね。迷惑をかけたなら申し訳ないよ。ところで、君はどのようにしてこんなにも早く情報を集めたんだ?」
部下に要らぬ心配を与えてしまったと、上司は部下に包み隠さず事情を話した。あわよくば、ついでに情報収集のコツを教えてもらおうと。
「地球のネットワークに侵入しただけですよ」
部下は照れ臭そうに謙遜しながら上司に情報収集のコツを伝えた。
「そうなのか。取り敢えず、『シンヨウキンコ』とやらをすべて銀行に転換。そして地球上全ての銀行を統合し地球の経済を掌握。最終的に我が星の支配下と置く。そのためにまずは地球に潜入し内部から転換させよ」
「わかりました」
「場所は……そうだな」
上司は、机に地球の地図を広げる。上司は地球の地図を数秒間見つめた後、西太平洋に浮かぶ列島を指す。
「ここなんてどうだ? やはり大国が発達しやすい大陸だとセキュリティの面なども厳しいだろう」
大陸から遠すぎても、大陸からの文化が伝来しにくく地球の情報を正確に把握できない可能性がある。そのことを考慮して、ニホンと書かれた大陸のすぐそばにある弧状列島を任務地に選んだ。
「わかりました」
「ああ」
部下はすぐに準備をして地球侵略局から出ていった。
2021/4/25 改稿