6.冒険したいらしい
ナタリーさんの笑顔に癒されてニタニタしていると、慌てた様子で声をかけられる。
「あっ、すみません奏多さん。お話ばかりだと全然ご飯食べられないですよね。
このままだと冷めてしまいますし、とりあえず食べちゃいましょうか。」
「はい、そうですね。それではいただきます。」
箸を手に取り、肉じゃがを口に運ぶ。
美味しい。・・・のか?
これは何というか、肉じゃがの様な、そうではない何か別の食べ物の様な?
確かに材料は見慣れたものとあまり相違ない様に思う。だが何だろう。トマトの風味がして、爽やかな後味である。
端的に言うなれば、 "洋風肉じゃが" である。
しかし考えてみると、確かにこの方がパンにも合うしイメージと違っていただけでこれはこれで美味しい。
「・・・。」
俺が何も言わずに思案していると、ナタリーさんが心配そうにこちらを見てくる。
「・・・美味しく無かったですか?」
「いやいやっ、すごく美味しいです!今まで食べた肉じゃがより僕はこっちのが好きです!ははっ。
いやあビックリしました。ナタリーさんは料理上手なんですね。」
慌ててナタリーさんからの問いかけを否定する。
「良かったです!実を言うと料理は得意じゃないんですけど、肉じゃがだけはお爺ちゃんも褒めてくれるんです。」
ナタリーさんが少し照れ臭そうに微笑む。
守りたい、この笑顔。
「そう言えば、お爺さんはどちらに?」
ふと気になった事を聞いてみる。
「・・・えっと。」
ナタリーさんの表情が曇る。残念ながら笑顔は守れなかったらしい。
「ああっ、すんません。空気読まんと変なこと聞いちゃいましたかねっ。言いづらかったら言わんで大丈夫ですから。」
「いえ、実はうちのお爺ちゃんは現役の冒険者なんですけど、少々放浪癖がありまして。
両親が他界してからしばらくは落ち着いてたんですけど、私が成人してからまた再発しちゃったみたいなんです。
今回も1ヶ月くらい前に家を出てから全然戻ってこなくて・・・。
なーにが、
『ドラゴン狩ってくるから留守は頼む。』
よっ!こっちがどれだけ心配したっていつも知らん顔なんだから!
付いて行きたくても気付いた時にはもう居ないしっ!
それに剣の稽古だって自分の気が向いた時しか教えてくれないし、
私だって冒険したいのにっ!」
「えっと、ナタリーさん、とりあえず落ち着いて!
色々聞きたいことあるんやけど、一回落ち着かへん?な?」
どうやら色々と鬱憤が溜まっていたみたいだ。
ナタリーさんは思っていたより感情表現が豊からしい。
「はぁ。はぁ・・・。ごめんなさい私ったら、取り乱しちゃいました。」
「ははは、ええですよ。個人的には情熱的なナタリーさんが見られたので、嬉しかったです。
ところで、僕にはよく分からない単語があったんで、何個か聞いてもいいですか?
正直今日来たばっかでこの世界の事よく分かってないんです。
それと、誘拐されたってのはお分かりの通り嘘なんです。ごめんなさい。」
礼を欠いてはいけない。自己防衛の為とは言え、嘘をついたのは事実だ。
相手に要求を通す前にしっかりと謝るのは筋だろう。
「大丈夫ですよ。私が答えられる範囲であればお答えします。
それと、嘘は良くないですが、奏多さんの場合は仕方なかったと思いますから、今回はお咎め無しです。
でも、これから先嘘はダメですよ?」
俺は、茶目っ気を含んだナタリーさんの語り口調に癒されながら、この世界の事について質問していくのだった。