3.村人と話すらしい
町に着いて、この後の行動について逡巡する。
「やっぱり誰かに声かけんとなー、やけど絶対無理やわー、コミュ障やし」
ブツブツと独り言をつぶやく変な格好をした少年。周りが心なしか距離を取っている様に感じるのは気のせいではないだろう。
彼は上下鼠色のスウェットに裸足である。寝巻きだ。しかしそれも仕方ないことだろう、寝て起きたら転異していたのだから。
「おっ、黒髪おるやんっ!」
100メートルほど通りを進んだ先に腰まである黒髪を後ろで縛った少女がいた。向こうを向いていて顔までは分からない。
「まあ行動するなら早いほうがええよな、こっちのことなんも分からんし、ワンチャンボディーランゲージで何とかなるやろ」
少女の元まで一直線に通りを馳ける。
すぐに少女の近くまで来れた、体が軽い。
彼は気づいているのだろうか。
遠くのドラゴンや少女の後ろ姿がはっきり見えることの異常さに。
ここまで裸足だった彼の足裏には傷一つないことに。
傾斜がある道を歩き続けて一切の疲れがない体の変化に。
「え、えくすきゅーずみー?」
振り向く少女。
「ん?・・・ひぃっ」
変な格好をした若い男に怯える少女。
「おー、そーりーそーりー、あいどんとあやしい。あやしくないまん、おーけー?」
拙すぎる英語を話す変人。
「あなた、誰ですか?」
まさかの日本語だった。
だが、それ以上に驚いたのはその少女の可愛さだ。
顔立ちは、やはりと言うべきか日本人ぽくはない。
優しげな印象を与える大きくて少し垂れた目。瞳は綺麗な空色をしている。すっと筋の通った高い鼻の下には可愛らしい唇がある。
今はその可愛い顔が怯えと戸惑いで引き攣っているが、それでもやはり可愛い。
お人形さんの様だと形容する事もあるが、違う。芸術だ。
「あー、えっと、実は僕、かなり遠いところから来まして・・・と言うか、寝ている間にですね、連れ去られて気づけばその辺の高原に捨てられてたんです。」
「はぁ、、それで?」
どうやら話は聞いてもらえそうだ。
「いきなりで申し訳ないんですが、僕と結・・・失礼しました。ここが何処で、貴女の趣・・・この辺りの情報を少しでも教えて頂きたいなと思いまして。」
「あら、それは大変ですね。
だからこの辺では見ない服装に、裸足なんですね・・・。
分かりました、私も人の子ですのでその様な事情であれば出来るだけ力になります。
もし宜しければ家まで来ませんか?
すぐそこなので、そこで色々とお話ししましょう。
それに、ちょうどお昼ご飯にしようと思っていたので、ご一緒にどうですか?」
「なんだ、ただの女神か。」
「はい?」
「いや、何でもないです。」
女神だった。