第一話「異世界への旅たち」
ー魔法、錬金術、科学、剣術、ありとあらゆる戦力が分かたれてはいなかった頃、世界はいくつかの国に分かれていたー
ふと、気づくと羽立紅月の目の前には水にインクを落としたようなグラーデーションの空に、時折雲が流れていた。
「あれ…俺ここで何やってんだろう…」
起き上がり辺りを見渡すと、辺り一帯膝よりやや低い程度の草が生える草原地帯で、遠くを見るとこの世のものとは思えない程の大きさの大樹がそびえ立ち、その周りに一帯を覆い隠すようなブナの木のような物が生えた原生林があった。
「…え?あれ…俺は確か学校からカラオケ行って帰る途中だった筈…」
そう呟いた瞬間、あることが頭をよぎる。「これって、よく漫画とかアニメで見る異世界に入ったってやつなんじゃ…」と思ったのと同時に「じゃあ俺ってもしかして何か特別な力持ってたり世界を救う運命を背負わされてたりして」
無意識のうちにニヤニヤしていた。
その後、幾らか思いつく詠唱をしてみるものの何も効果は無く時間が過ぎるばかりだった。
ふと、何かが近くを歩いていることに気がついた。
徐々にこちらに接近し、姿が見えた。
その容姿は金髪に碧眼、尖った耳が目立ち、幼さを残しつつも美しい顔立ちだった。
その姿は、図らずもエルフを想像させるようなものだった。
「ねぇ君。話したいことがあるんだけど」
俺からそのエルフに話しかけた。
「は?気安く話しかけないでくれない人間風情が」
うっ…と声が漏れた。
見た目と性格が違い過ぎだろ!と思わず言いそうになったが、彼女が発する冷ややかな視線を感じ、口を結んだ。
と、遠くからもう1人エルフがやって来るのが見えた。
「お姉ちゃん早すぎだよ…」
その姿は一人目のエルフの姿とほぼ一致しており、エルフの姿は全部これなのかとさえ思うほどだった。強いて違いを挙げるならばそれは大きさだろう。
後からやって来たエルフは「はぁはぁ…」と息を切らしながらこっちを向きこう言った。
「あなた誰?お姉ちゃんの知りあい?」
首を傾げながら言うその姿は人形のようで実に可愛らしかった。
が、目の前に居るもう1人のエルフはその問いに対し
「こんなゴミみたいなやつがわたしの知りあいな訳ないじゃない。」
「あ〜腹立つ」と、言わんばかりのセリフだった。
ふと、人形さんがこちらを見ているのが分かった。自己紹介しろってことか
「はじめまして。俺は羽立紅月です。」
姉の方は嫌悪の視線を向けていたが、妹の方は真剣に聞いていた。
「うん。それでそれで!」って感じだったが、特に特技も無ければ趣味もヲタク系で紹介出来るものではなかった。
少ししてその事が分かったのか、バツが悪そうにしながらも人形さんはこう言った。
「わたしはシノ。こっちは姉のレイラだよ。」
シノにレイラか、何かファンタジーっぽいなぁ、と思いながらふと疑問が浮かんだ。
「シノとレイラはエルフだよね…?」
と、問うとシノが頷いた。
「エルフって羽根とか生えてないの?」
はぁ?と言わんばかりの顔でレイラはこう言った。
「エルフとて羽根を維持すんのは面倒なんだよ。魔法とか使わない時に維持すんのは魔力の無駄なんだよ」
どうやらエルフの羽根というのは元から生えてるものでは無く、魔法によって生成されるもののようだった。
そうやって、俺が考えているとシノがレイラに質問しているのが耳に入った。
「なんでそんなにこの人の事嫌うの?」
俺もずっと聞きたかったことだったが、視線があまりにも怖くて聞こうにも聞けなかった。
その質問に対するレイラの答えは実に明白であった。
「こいつがあまりにも弱すぎるからよ。魔力なし身体能力2特殊能力なしで、合計戦闘力が2ね。特訓してもどうにもならないわね」
今までの俺最強説が根本から折られ、目から涙が出そうだったが何とかこらえ、目から汗が流れた。