リィズとの出会い -1-
「……なた、そこのあなた!」
女の声がする。なんだ、死に損なったのか、と思った。死後に向けた整理はしてきたが、死に損なった際の未来図は用意してない。厄介なことになったと思った瞬間、全身に衝撃が走った。そのまま余波で体が吹き飛ばされ、数メートル飛んで何回か転がった。
「生きてる? 大丈夫?」
さっきの女の声がした。
「生きてるなら起きて早く逃げて!」
余程切羽詰まっているようで、女の声は鬼気迫る雰囲気だ。だが、体なら動かせるはずはない。ちゃんと死ぬ為に薬を使って簡単に目覚めないようにしてある。声の発しようもない。
足音がこちらへ向かってきた。
「まさかあれで死んでないよね? ほら、起きて」
肩を揺すられて反射で目を開けると、目の前に居たのは知らない女だった。
「お前、誰だ?」
疑問は口を突いて出た。
「よかった、生きてるのね。私はりぃず。とりあえず、ここは危ないから逃げて」
「りーず? 誰だ?」
「だからりぃずだって言ってるでしょ、ほら、立って……ってあぁ!」
りぃずが話してる間に何かが飛んできて、二人まとめて吹き飛ばされた。
「な、何だ?」
「幻獣亜種、地頭竜よ」
「は?」
飛んできた方を見れば、確かに軽自動車サイズの竜とも言えるような生き物が居た。
「こんな所にいるのに知らないの? まあいいわ、逃げるわよ。立って!」
そんなことを言っても、体が動くとは思えないが。
「せぇのっ!」
りぃずに引き上げられて、二、三歩前に踏み出した。
「ほら、走った走った!」
りぃずに導かれるまま、地頭竜の死角を縫うように走ってゆく。目の前を流れて行く風景は空の広い荒れ地と呼べるものだった。ほとんど植生は無く、ゴツゴツした岩が遍在している。ここはどこだ? この女は誰だ? あの地頭竜とやらは何だ? そして何より。
――俺は、どうして生きている?
状況が良く分からないまま、りぃずの手に引かれつつ地頭竜から逃げ続けた。しかし間もなく、次に隠れようと目標にしていた岩を竜の放った咆哮が砕いた。その瞬間、りぃずに抱き留められ、彼女の羽織るマントの中にくるまれた。
りぃずは声を上げたが、悲鳴は上げなかった。
「こいつはちょっとおしまいかもね……」
りぃずのマントの中で、彼女がそう呟くのを聞いた。こうして抱かれていると分かるが、彼女は長身だ。ちょうど目の前に鎖骨が見えるから、かなり背が高いのだろう。
「二人で逃げるのは厳しいし、あれを足止めさせようにもそもそも私の魔力が尽きてしまっているから魔法は使えないし……。観念するしかない……か?」
りぃずは状況の打開策を捜しているようだったが、現実離れのオマケについ聞き返してしまった。
「魔法?」
「あなた、魔法も知らないの? 本当に何なの?」
彼女はそう聞いていたが、俺は別のことが気になっていた。
「お前のマントが光ってるのとか、魔法なのか?」
「確かにこれは魔道具の一種だけど、私の魔力が尽きてるから動くはずは……ん?」
確かに、マントは日の中では微かにわかる程度だが淡く発光してるように見えた。
「あなた、魔力が……?」
光に気付いたりぃずが戸惑ったように言った時、號び声が轟いた。あの竜のものだ。
「ごめん、でも、――」
そんなりぃずの声の途中で、またしても意識は途切れた。