私の死について
「では、次のニュースです。数々の名作を生み出した巨匠の宮城氏が引退を表明しました。引退会見で氏は『これまで自分は、この世は生きるに値すると見た人が思えるような作品を作ってきた。これから自分の後進達もそんな作品を作ってくれることを願っている』と発言し、今後の映画界で尽力する人々の手助けをしていきたいと語りました。では、次のニュースです」
そうか、あの監督、引退するのか。
薄れゆく意識の中で、耳に届くニュースの内容を意味もなく聞いていた。テレビをつけていたのは、飢餓状態から意識を逸らすためであったし、最後に見た時間を覚えておきたかったからでもあった。これから死ぬというのに、死ぬ時の時間を覚えておこうというのは滑稽かもしれなかったが、自ら設けた生の刻限迄に死ねたかということはとても大事なことであった。そしてその試みは成功しようとしている。
私は死ぬところであった。自殺である。理由らしい理由は特になく、強いて言えばそれが理由であった。私のような理由を持たぬ人間を、これ以上この世にのさばらせてはならぬ。そんな使命感のみでこの一月生きてきた。そして諸々の準備のおかげで今、こうして最期の時を迎えようとしている。
大学関連のものは察しのよい友人がおり、彼に向けて一筆したためてあるから問題なかろう。ささやかな友人関係に関しては、私の持ち物から彼らに必要そうなものを何でも一つ持っていけるようにと書いた。ネット上で私が持っているアカウントは不要なものは消したし、不用意な投稿も消した。皆が持つような連絡用のアカウントだけ残してあるし、そのパスワードも机の上に置いてある。通帳、判子、その他諸々のカード類はまとめて置いた。
ひとつひとつ、死ぬ為にやった準備のことを思い返していると、テレビから聞こえてくるニュースの声色が変わった。
「臨時ニュースをお伝えします。先程、戎国から発射されたミサイルが航路を逸れ、昇へ向かっているとのことです。通過予定地域は西域中央部、該当地区にお住いの皆様は速やかに避難の後――」
目の前が白い光で満たされ、意識が一度途切れた。