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移動教室の恋。

作者: みれい

これは私が中学2年生だった時のハナシ。


数学の授業は、テストの成績別にクラスを移動して行われていた。3組の私は1組に移動だった。



ある時、着席すると、机に文字が書かれていた。


〝書いたなら、ちゃんと消してください。掃除のときに怒られます、僕が。〟


細く、薄く並んだ文字。

たぶんHBの鉛筆で書かれたものだ。


鈍感な人は見逃してしまうような繊細な文字で、それは教科書をなぞったみたいに美しかった。


「あ!」と、先日計算式を消し忘れたまま教室を出てしまったことを思い出す。

それは申し訳なかったな…と思って、


〝すいません…次からは気をつけます。〟とお詫びの気持ちを書いて、教室を後にした。



次の日、移動教室。

机には、


〝また書いた!!〟と一言。


そこに私は、


〝ホントだ!ごめんごめん!!〟と二言。



ここから奇妙な机越しのやり取りが始まった。


机の名前シールは剝がれてて、誰の机かわからない。

周りに聞こうかとも机の中を見ちゃおうかとも考えたけど、結局しなかった。

知らないままの方が面白いかなぁって。



文通ならぬ机通を始めて、早2週間が経っていた。

数学の時間は毎日ある。


会話は、ゲームとか漫画の話とか、授業のこととか本当にたわいもないものだった。


『ぷよぷよ』が大好きで、お笑い番組をよく見てて、勉強が凄くできる。


これが会話からわかったことだ。それ以外は知らなかった。

相手も直接何も言ってこないので、恐らく私が誰かわかっていないのだろう。



そんなある日のことだった。

授業の早く終わった生徒たちが、1組前の廊下で待機していた。


(もしこの中に「僕」がいたら、「私」が座っていることがばれてしまう…!)


奇妙なやり取りが3週目に入りかかった頃、

自分の中で「相手に正体を知られてはいけない」という変な使命感が生まれていた。


いるかどうかもわからないのに、顔を見られないように伏せて、身を隠せるわけでもないのに少し縮こまった。


授業が終わると、急いで教室を飛び出した。

すると左腕をぐっと掴まれて、


「こんにちは、はじめまして。消し忘れさん。」と声をかけられた。


顔を上げると、大きな目、筋の通った鼻、上品な口元、凛とした綺麗な顔の男の子がいた。

こんな美男子、学校に居たっけ……?本気でそう思った。


「こここここここっ、こんにちは、、、本当にごめんなさい!」


一番に謝罪の言葉が出てきて、それから頭が真っ白になって……。

手を振り払って逃げた。


私は今まで、あの男の子とやり取りしていたんだと思ったら恥ずかしくなってきて。



次の日、座った机にはいつものように文字が並んでいた。

鉛筆の濃さも筆圧の強さも、綺麗に整った字体も全部昨日と同じなのに、

今日はなんだか何千倍もキラキラして見えてしまう。


〝どうして逃げたの?〟


という質問になんて返せばいいかわからない。


先生の声なんて微塵も頭に入ってこなくて。

聞こえてくるのは、昨日見上げた美しい顔がささやく「どうして逃げたの?」という声とドキドキうるさい心臓の音だけ。


気がつけば1時間悩んで、結局答えは出なかった。

初めて返事ができなかった。



その次の日の机には、もう何も書かれていなくて。

私たちの奇妙な机通は終わってしまった。



名前も知らない、字と顔の綺麗な男の子。

それが私の初恋の相手。

※実はほぼノンフィクションです。

その後も少しあるので、次回書きます。

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