第9話『決着と戦いの末』
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(何で私はこんな目に遭っているだろうか)
あの御方の命令には逆らうことはできないが、この仕打ちはあんまりだ。
さっきまでロープに繋がれた足は変な方向に曲がっており、とても完治するとは思えない。といっても目が霞んでいて、もうすぐ自分は死ぬのが分かっていた。
故に、もはやどうでもよかった。
ただ、あのロープを巻きつけた餓鬼だけは一緒に道連れにしてやる。
この辺に良い場所が……ここでいいだろう。
最後に燃え尽きそうな命を滾らせ、霧に消えし大鹿は死に際の足掻きを見せる。
「近い、この辺りのどこかにいるよ。油断はしないでね」
俺たち5人は今、霧に消えし大鹿を探していた。
今回の依頼されたのは討伐だ。瀕死の状態であっても、野放しにしておくことも出来ないため、ここまで追ってくるしかなかったのであるのだが。
この鬼ごっこも、もう少しで決着がつく。
しかし、慎重さを忘れてはいけない。
辺りをよく観察してみると、血溜りがあるところを見つける。
視線をその先に続いている血の痕を追うと、あるところで止まっていた。
どうやら、向こうの草の茂みに隠れているようだ。
目標がいるところが分かれば、狩人の弓矢の見せ所。
『速度上昇』を付与した矢を弓で引く。狙い澄ませて、指を離す。
槍の一閃よりも速く、目標まで飛んでいく。
「キュインィィ!!」
先程よりも勢いがなく、弱弱しい。
間違いなく取り逃がしたミストキラーだと分かる。
「皆、構えろ!!!」
ジリウスが叫ぶのと同時にミストキラーも飛び出してきた。
足は捻じれ、無惨な状態にも関わらず突進してきたのだ。
探索者たちは先程対処した方法でまた迎え撃つ。
グランが大盾を構える。が、それは構えたときには通り過ぎていた。
ジリウスとジュリアの間を抜けて、ルルに向かって来ていた。
弱りきった相手に油断してはいなかった。しかし、まさかここでミストキラーの持つ『速度上昇』を使うとは考えもしなかっただろう。1人を除いては。
決死の覚悟とも思える突進の迫力にルルはへこたれていた。
彼女は死を直感する。
(あ、懐かしい光景が…これが走馬灯っていうのかしら)
動くことが出来ず、ただ目を瞑った。いい人生だったと自分では思っていた。
しかし、幾度待つが、痛さがない。
痛さを感じることなく、死んでしまったのだろうか?
まずは目の前。次に左右から大きな衝撃が聞こえ、それで目を開ける。
「ま、間に合ってよかっ…ぐはっ!!」
左側にライトが血だらけになり、口からも血を吹き出し地面を塗らす。
木に寄りかかっているように見えるが、木は折れており、吹き飛ばされたというのが正確だろうか。分かっていることは凄まじい衝撃がライトを襲っていることだ。
反対に右側ではミストキラーも吹き飛ばされて、そのまま息絶えたらしい。
ジリウスが一応首筋に一太刀入れ、完全に息の根を止めた。
それを見て、安心する。それからライトへと近づいていった。
「ライト、本当にごめんなさい。体は大丈夫なの?」
「何とかね…ミストキラー…は?」
「ジリウスさんが止めを刺したから、安心して」
「なら、よかった……」
「ライト?ねぇ、ライト? ライト起きて!!」
ルルは涙を流しながら、体を揺すった。
ライトは目を閉じ、死んだかのように動かなくなってしまった。
本当に死んでしまったかと思い、ジリウスはライトの首に手を当てる。
「ルル、安心しろ。脈は浅いがちゃんと生きている」
「本当に?」
「ああ、ただすぐに神官に連れて行かないと手遅れになる」
「なら、急ぎましょ!!グラン手伝って!!」
「もちろんだすよ、ルル!!」
ジリアスとグランがライトを担ぎ、街まで運んでいく。
「私は剥ぎ取りは苦手な~んだけど~ね~」と渋々言いながら剥ぎ取りをする。ルルもそれを手伝い、一緒に街へと帰還した。
こうして、霧に消えし大鹿の脅威を5人の上位探索者が討伐に成功した。
フィジタル大森林にまた探索者が挑んでいく日常へと戻っている。
しかし、1人の青年はまだ目を覚まさないままだった。
「兄さん…いつ目を覚ますんでしょうか…」
リナはベッドで眠る兄に向けて、そう呟いた。
大森林に行くときの格好ではなく、無地のシャツと無地のズボンのいつもの部屋着姿。
兄さんが大森林から帰ってきてから5日目。まだ、目を覚まさない。
ずっと付きっきりで看病をしているが、1度も微動だにしない。
神官様の『治療』で命を繋ぎとめた時は本当に嬉しかった。
ジリウスさん達もお見舞いに来て、私に謝っていった。律儀な人達だと感じた。
そんな人達が兄さんを危険に晒したわけなのだけど、怒りは湧かなかった。
ジリウスさん達は兄さんは自分を犠牲に仲間を守ったと言っていた。
怪我をした原因が実に兄さんらしかった。
それでも、目が覚めない。兄さんが大切な人だからこそ、心は落ち着かなかった。
「兄さんと一緒にまた色んなことがしたいのに……」
不意に、小さいときに読んだ絵本を思い出していた。
悪い魔女に騙されて眠らされたお姫様に王子様のアレで目覚めるお話。
(そんなお伽話なことで起きるわけありませんよね)
そう考え、却下しているのだけれど、頭から離れない。
やってみてもいいんじゃないかと自分の悪魔が囁く。
(本当の兄妹ではないとはいえ、兄妹ではあるんですし。けど、普段できませんし、目覚めない今なら……。私の燻る思いを伝えられますよ……ね?)
リナは唾を飲み、口に手を当てる。そして、覚悟を決めた。
「兄さん……ライトお兄さん。私は兄さんが……」
リナはライトの顔を近づき、そのまま……。
読んでいただきありがとうございます。投稿する度に読んでくださる方々に感謝です。
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もう少しで1章が終わります。2章の物語作成のため投稿は遅れると思います。
申し訳ないのですが、ご了承してください。




