第8話『霧に消えし大鹿との戦い』
スマートフォンで読む方は横向きを推奨します。
「どうだ、いるか?」
「まだ、分からないね」
現在俺たちはヴェルク湖の休憩スペースにやってきていた。
今は昨日の一件で誰1人としていなかった。当然だろう。
俺たちは大まかな情報を貰い、結成されてからすぐに大森林へと向かったのだ。
「ところであんたも狩人なの?」
「まあ、一応そうかな?ルルもそうなんだ」
「この軽装を見れば普通分かるでしょ、すかぽんたんッ!!」
「は~い、すかぽんたんで~す」
「何なのよ、あんた」
「狩人だけど?」
「そうじゃなくて!!」
その一部始終を見ていたジリウスはずっと笑っていた。
「ずっと、弄ばれてんじゃねぇか!!笑いが止まんねぇわ!!」
「うっさいわね!!私が遊んでいるのよ!!」
「仕方がないから、遊んであげていたんだけど…」
「違うもん…私が遊んで……ぐすっ…」
「ほら、2人のせいで泣いちゃったじゃない」
ルルは顔を真っ赤にして泣き始めた。それをグランが「泣かんで、ルル」と励ます。
それに「グランにありがとう……」と涙ぐんだ声でグランに抱きついた。
「大丈夫だとも」とまるで母と子のような関係のようだった。
「母性ならぬ、父性だなぁ」とライトは感じた。
ルルが泣き止んだ後は、もちろんグランに本気で怒られた。
「あんまりいじめるとオラが黙ってねぇっすよ」と言われたときはその場から逃げたくなった。
怒られている様子を見ていた泣き腫らしたルルとジュリアは悪戯な笑みでこちらを見ていた。
「さてと、そろそろ奥地だ。気を締めて行くぞ」
「さっきまでは、グランに~怒られていたくせに~」
「それはそれ、これはこれだろ? 食あたりさん?」
「ん~?な~んのことかしらね~」
「でも、いつ霧に消えし大鹿が来るか分からないからね」
「そうね、一応狩人らしいわね」
「だって、狩人ですから」
「はいはい、また同じことになるってのは駄目よ~」
と緊張感はないが、全員油断しているわけではない。
お互いに気配りをしつつ、慎重に森へと進んでいく。
そこでルルが何かを感じ取った。
「待って、ここから少し離れたところに何かいるわ」
全員立ち止まり臨戦体勢を取ると、辺りは静まり返る。
すると、9時方向から何かが駆け寄ってくる音がした。
「来たわ!! グランお願い!!」
「分かっているだすよ!!」
大盾を構え、その後ろにルルとジュリア。
左右の草の茂みに左がライト。
右にジリウスがそれぞれ自分の経験だけで配置についた。
さすがは上位の探索者ということだろう。
次の瞬間、大盾に向かって何かが突っ込んできた。
(((((来た!! 霧に消えし大鹿だ!!)))))
全員がその魔物圧倒的な威圧が容赦なく襲いかかる。
ルルの股からは何かが染み出していた。
(な、なんて支配的…漏らしちゃったじゃない……恥ずかしい……けど)
下半身に暖かな感触に包まれていく。
恥ずかしがる余裕なく、すぐに前を向く。
そこにはミストキラーの巨体とグランの大盾が押し合い、激しい攻防が繰り広げていた。どちらも動かず、グランの足は土に減り込んでいた。
それでもグランは構えを崩すことはなく、後ろの2人を守っていた。
「ぐががっ…今がチャンスだすよ!!」
「了解」
「任せな、グラン」
ジリウスが一気に距離をつめて、腹におもいっきり蹴りを入れた。
「キュイイイインィィィ!!!」
大盾に気を取られ、あっさりと奇襲に成功する。
怯んだ隙を逃す探索者達ではない。
ライトは危険に躊躇わず、ミストキラーの足にロープを括らせ、木に繋げる。
ジリウスは鬼神の如く、振り回し笑みを零している。
『速度低下』と『攻撃低下』の魔法を唱え、徹底的に相手を弱らせていく。
実はこの人Sなんじゃないかと、ライトは一瞬恐怖を感じた。
グランは大盾を使い、頭を全力で殴打する。自慢の長い角の1本が折れる。
ルルは矢で確実にダメージを与えていた。
ここまでの攻撃をすれば、中級種はもう死んでいるだろう。中級種なら。
「キュイイイイイイィィィ!!!」
甲高い声が森に響いた。耳を手で塞いだ。
鳴き止むと、逃げ出そうとするがライトの結んだロープで逃げ出せない。
出血が激しく、ロープを解く余力もないだろう。つまりこれは…
「俺たちの勝ちだね」
ライトはそう呟いた。それを見た探索者たちは勝利を確信する。
全員がそう思っていた。瀕死のミストキラーの首筋にジリウスは剣をかけた。
しかし、結んでいたロープが切れた。切れたというよりも結んでいた木がけたたましい音と共に折れたといった方が正確だろうか。
理解が追いつかない中、ルルが誰よりもいち早く我に返る。
「皆、避けて!!」
はっと他の四人も我に返り、すぐに飛びのいた。
着地した瞬間に再度けたたましい音が響いた。土埃が舞い、治まるまで動かない。
土埃が治まるとそこには昨日散々逢った魔物が現れる。
「あの髑髏のマークは、毒散らす大蛙か…」
ジリウスが先日戦った魔物を口にした。
そこにはジリウスの言ったとおり、ポイズンフロッグが鎮座していた。
それも3体。その内の1体が木をへし折ったのだろう。
周りを見渡すが、ミストキラーはもうすでにこの場からはいなくなっていた。
「くそぉ!!魔物のくせに巧妙な真似をしやがるなぁ!!」
「落ち着いきなよ、ジリウス。まずはこいつら蹴散らさないと」
「そうだな…悪い。俺が1体とグランが1体で食い止める。
他の3人はもう1体を確実に潰していけ。それじゃあ、頼む」
「了解」「は~い、ジリィー」「任せなさい」「頑張るだすよ」
ジリウスはすぐに立ち直り正確に指示を飛ばす。
他の4人も一斉に動き出し、それぞれの役割通りに動く。
ジリウスが1体を翻弄し、優位に戦いを進めている。
グランはしっかりと毒を回避。のしかかりの予備動作をしっかりと見極め、隙が出来たらすかさず盾で殴打する。こちらも問題なさそうである。
もう1体はというと…
「鈍いわね、この毒蛙!!」
もう動いていないのではないかというくらいに遅い。
それもそのはずである。ジュリアの『速度低下』にライト特製『毒散らす大蛙の毒矢』を使っているのだ。状態異常の効果が強力すぎて何も出来ずにいるだけであるが、ルルはそのことに一切気づかなくらい必死のようだ。
ルルの放った矢が刺さり、耐えきれず息絶える。
「よし、次はグランだ!!」
2体目のポイズンフロッグを俺とルルの援護射撃を行い、弱っているところをグランが叩き潰す。
それから2度と動くことはなかった。
「ラストはジリウスだ!!」
「もう終わったぞ」
そう雄たけびをあげ、援護に向かおうとした時にジリウスは戻ってきていた。
「えっ?ジリィー、1人で倒したの?」
「ああ、見てみろよ」
ジリウスが指した方を見ると、無数の斬撃が残っていた。
ポイズンフロッグの傷痕はその凄まじさを際立たせていた。
「それより、ミストキラーを追いかけないとな」
「了解。血の痕が残っているから、これを辿れば分かるだろうね」
3体の毒散らす大蛙を難なく倒した5人は逃げた霧に消えし大鹿を追いかけ、森を駆けてゆく。
読んでいただきありがとうございます。投稿する度に読んでくださる方々には感謝しかないです。
気に入ってくれた方はポイント評価・ブックマークお願いします。
誤字・脱字、気になったところがあれば感想お願いしますね。




