第6話『生き残る理由』
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月明かりに照らされ、夜の森に光が差し込んでいる。
ここはフィジタル大森林の最奥にあるところだった。
そこには一軒の民家があり、煙突からは煙が立ち昇っている。
民家の窓際に1人の男が立派なロッキングチェアに座り、ゆらゆらと椅子を揺らしていた。
膝に毛布を掛け、手前にある机には紙束と湯気を立てたマグカップが置いてある。
「さて、どうしたものかな?」
男はかなり上機嫌だ。なんと言っても、人間が育っていることに対してだった。
毒散らす大蛙が約10匹程が消えた反応があったからだ。
あれの毒は中々強力の上、高い隠蔽率を誇る厄介な相手だ。
それがたった2人に惨殺されたのだ。
気分が好調だった。調子に乗って、霧に消えし大鹿を放りだしたのは人間には厳しいかもしれない。けれど……
「これくらい越えてもらわないとな、期待しているぞ」
月を眺め、笑みを浮かべる。
マグカップに手を掛け、中に入ってるものを口に運ぶ。
もう1度笑みを浮かべると机の書類に目を通し始めた。
「ただいま~リナ、ご飯できてる?」
「兄さん、おかえりなさい。今日はいつもよりも遅いよ。心配したんですからね」
「そうだった?ごめん、リナ」
「いいですよ、兄さんは頑張っていますから……今日も無事でよかった……」
「ありがとうね、リナ。最後何言っているか聞こえなかったけど」
「別にいいんですぅ!!ほら、着替えてきてくださいぃ!!」
急に大声をあげてポカポカと胸板辺りを叩いてくる。
頬も赤く、熱でもあるのかと思いリナの頭に手を当てる。
急におでこに手を添えられたリナは目をぱちくりさせていた。
「大丈夫か、リナ?熱でも……」
「きゃあああぁぁぁ!! 何触っているんですかぁ!! もう早く着替えてきてくださいぃ!! 準備するので!!」
リナは俺の背中を押して、部屋まで押しやられる。何に怒っているんだか。
部屋に入り、部屋着に着替える。
金貨をいつものところに仕舞い、木箱の蓋を閉じると先程の光景が脳裏を過ぎった。
3人の同業者が死んだ。
探索者をやっていて死ぬということは当たり前だ。珍しくない。
普通に死んだとだけ聞いたら、気にも留めないだろう。
しかし、自分自身も危うく殺されかけたのだ。
(そうなった時はリナは……)
頭を振り、改めて自分は探索者なのだと再確認する。
(俺はまだ死ねない……絶対に死ぬわけにいかないんだ)
胸に反芻する言葉に心臓に脈を打つ。
それを落ち着かせるために、妹がいる食卓へと向かった。
戻ってきて見ると食卓にはもう並べてあった。『虹色ニジマス』の焼き魚を中心にサラダ、パン、スープ。スープには耳長ウサギの肉が使われている。
今日も美味しそうなラインナップに食欲は不思議と湧かなかった。
「森の神秘に感謝していただきます」
「はい、いただきます」
リナがせっかく作ってくれた料理を残すわけにも行かない。
ライトは手も合わせ、食事を楽しむことにする。
虹色ニジマスは魚ではなく、もはや肉の感触だった。
メインに合わせたサラダをセットにすると、いつものなら手が止まらなくなる。
ポトフにパンを浸し、スープの具材と一緒に食べる。美味しい。
(リナの料理は最高だけど……)
ちらりと見るとリナと目が合う。どうしたんだろうか?
「兄さん、何かありましたか?」
「えっ?何もないけど……」
そんな兄のいい淀む声に追い打ちをかける。
「嘘ですよね? それでどうしたんですか?」
「大丈夫、何でもないよ。リナはどうしたんだい?」
「どうしたじゃないですよ、疑問を疑問で返さないでください」
「うーん」と頭を掻き、考えるライト。
それからズボンのポケットからいくらかの金貨を取り出した。
それを机の上に置いた。リナは目を点にした。
「どうしたんですかその金貨は…8枚もありますが!!?」
「チームを組んだ人のおかげで多く稼いだからね」
「だからって……そうですか。だから、今日ソワソワしていたんですね」
「そんな風に見えた?」
「そうですよ。もう心配させないでください。ほら、冷めちゃいますよ」
あげていた顔をまた下に向ける。それに態度に出さずに安堵する。
上手く誤魔化せたようだ。食事の後に渡そうと思ったけど役に立ったようだ。
「森の神秘よ、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
夜はお互いに食べ終わるまで待つと決めている。
昼は森に潜っているので一緒に過ごす時間を大切にしたいと考えているからだ。
食器を片付け、食器洗いを始める。
「別にやらなくてもいいのに」
「いいんだよ。家のことはあまりしてやれていないからさ、これぐらい」
たわしで汚れを落とし、水で洗い流す作業を繰り返す。
皿洗いを行うことで今日1日のこと整理できるのだ。
この行為はライトにとっては大事なことなのである。
手を拭い、席に座る。2人は1日に起きたことの他愛のない話をする。
その時に霧に消えし大鹿のことは話さなかった。
いや、話せなかった。
自分が死にかけたと知ったら、泣いてしまう。
長年一緒に家族をしていれば、それぐらいは分かる。
リナのことはもう悲しませたくなかった。
「じゃあ、俺はもう寝るよ。おやすみ、リナ」
「はい、兄さん。おやすみなさい」
ライトは自分の部屋へと戻り、ベッドに潜り込む。
そして、息を吐いた。
何だかソワソワして、眠りに落ちるまで時間がかかった。
リナは兄であるライトが食卓から自室に戻る背中を見ていた。
部屋のドアが閉まる音がすると、呟いた。
「本当のこと、教えてくれなかったな……」
寂しい声は食卓に響き、それは呟いた本人以外に聞かれることはなかった。
翌朝、食卓でリナはご飯の準備をしていた。
玄関のドアからノックする音がした。
新聞は外の箱に入れられるはずなのに何故と思ったが、それでも待っている人はいるので慌てて、鍋の火を弱める。
それからドアを開けた。
「は~い、どなたですか?」
「朝早く、すまないな嬢ちゃん。ここはイザベリア・ライティストの家であっているか?」
「はい、ライティストは兄ですが…兄に何の御用で?」
「俺はジリウス・ドーズル。昨日ライトとチームを組んだんだが、聞いていないか?」
「はい、ジリウスさんと一緒に毒散らす大蛙を狩ったと聞いています」
「そうかい。ところでライトは居るか?」
「兄はまだ寝ています。起こしてきますので、そちらの椅子で待っていてくれますか?」
「ああ、ありがとな。お言葉に甘え、待たせてもらう」
リナはパタパタとスリッパを鳴らして奥へと行ってしまった。
ジリウスは椅子に座り、食卓を見ていた。
(ここに住んでいるのか。新しくはないが、綺麗に保っているな。よく出来た妹だな)
とリナを褒めていると兄妹が揃ってこちらにやってくる。
「兄さん、早くしてください」
「ちょっと待ってよ。寝起きは辛いものだよ」
「全く、兄さんは…ジリウスさん兄を連れてきました」
(仲も悪くないか……ライトも探索者なんてやるもんじゃないよな)
探索者はいつ死んでも不思議ではない。探索者なら誰だって思うだろう。
ライトは席に着くと、重い瞼を必死で開かせてジリウスを見た。
「おはよう、ジリウス。今日はどうしたの?」
「兄さん!!年上の方にそんな態度は…」
「いいだ、嬢ちゃん。俺が呼ばせているから、大丈夫だ」
「そ、そうですか、すみません」
「謝らなくてもいい。朝食の準備もあるだろ?俺たちのことは気にせず再開してくれ」
「では……はい。ありがとうございます」
一礼してから、再び台所へと戻る。ジリウスはライトに向き直る。
「おはよう、ライト。少し外に出てもらっていいか?」
「うん、こちらこそそうしてもらいたい」
2人は家の前に出た。
早朝の閑散とした雰囲気に、特有の心地よい肌寒さが出迎える。
太陽は控えめに空で輝きを放っている。
「お前、妹に霧に消えし大鹿のこと言ってないだろうなと思ってな」
「な、何で分かるの?」
「あんな出来た女の子がミストキラーに襲われたって聞いたら俺のことも心配してくれるだろう。なのに、ポイズンフロッグは狩ったというんだから気づくに決まったんだろ」
「うん、妹に死にかけたなんて言えないからさ…」
「そうか。まあ、探索者をやめろとは言わないが、死んだら俺が面倒見るぞ」
「ありがたいけど、死ぬつもりはないから大丈夫だよ」
2人で笑いあう。緊張は解れただろう。
そう思い、ジリウスは本題に入る。
「昨日のミストキラーの件が決まった。お前を連れてこいと言われたんだ」
「そう、今からかな?」
「できれば、すぐに来て欲しいらしい」
「分かったよ、準備してくる。なら、少し中で待っていてよ」
そう言い、自室へと戻るといつもの如く準備を始める。
弓の弦を取り替え、足りない持ち物を補充。いつもの軽装に、鎖帷子を装着する。
腰にバッグ、背中と肩に矢筒を背負い、弓を手に持つと、部屋に「生きていたら戻ってくるよ」と言った。
それから、ジリウスとリナのいる食卓へと向かった。
「もう出来たのか、早いな」
「それほどでもないよ。それと、リナ。悪いけど対策本部へと行ってくる。
今日は遅くなるかもしれないからご飯だけ準備したら、寝ていてね。分かった?」
「はい、そう言ってまたいつもの時間に帰ってくるんだから。無事に帰ってきてくださいね」
「そうだといいね。よし、ジリウス行こうか」
ジリウスと共に外を出ると少しづつ太陽が明るさを増してきている。
ライトたちは横に並んで、フィジタル大森林対策本部へと歩き始める。
「生きて帰らないとな、嬢ちゃんのために」
「もちろんだよ。あの家にただいまって言ってやるさ」
「お互いに頑張ろうな」
「うん、頑張ろう」
そして、霧に消えし大鹿との戦いの幕が上がる。
読んでいただきありがとうございます。
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誤字・脱字、気になったところがあれば感想お願いします。
今回は会話が多かったのでその中で人物の味を出そうと思ったのですが、難しいものですね。
まだまだ自分なりに模索しています。




