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フィジタル大森林の狩人〜青年は戦いの中で微笑む〜  作者: 宵永 青空
狩人と霧に消えし大鹿
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第5話『ヴェルク湖の大鹿』

スマートフォンで読む方は横向きを推奨します。

「ふうぅ……さすがに疲れたな。

 でも、1日でこんなに毒散らす大蛙(ポイズンフロッグ)を殺れるとは思いもしなかったな」


 周囲を見回し、安全の確認をする。

 あれから、ヴェルク()の奥地で、2人はポイズンフロッグと戦いに明け暮れていた。というよりも、蹂躙していたに近い。昼食も忘れて、ライトたちは夢中になって狩り続けていた。


「そうだね…これで8匹目だっけ? 8匹×3で金貨24枚か、いい収穫だね」

「チームで組んでいるときよりも多いな。稼ぎでは、最高記録だ」

「しばらくの間、ポイズンフロッグは見たくないかも。そろそろ帰ろうか」

「そうだな。じゃあ、戻るか」


 2人は来た道を引き帰えろうと、踵を返す。

 深緑に差す光はさらに弱まり、昼でも暗い奥地の漂う暗さは増していた。

 上を見上げれば、木々の間から茜色の光が微かに漏れている。

 本当に充実した1日だったと、ライトは満足していた。

 不意に何か不気味な足跡が遠くのどこかから聞こえてくる。


「ジリウス、止まって」


 唐突に足を止めたライトに、ジリウスも本能的に従った。

 ジリウスは疑問を顔に浮かべつつも、戦闘態勢を構えていた。


「どうしたんだ?」

「何かの足音が聞こえる……こちらに向かっている?

 これは多分俺たちだけじゃ勝てない!! 隠れよう、ジリウス」


 その言葉にジリウスは、素早く草の茂みへと身を屈めた。

 先程といい、ライトのことを完璧に信用してくれている証左だ。

 ジリウスも直ぐに行動を移したことで、ライトも別の茂みに隠れる。

 息を殺し、森の静けさと一体化したかのように、その場は静謐に包まれる。


 近くから何かが駆けてくる音が聞こえ、その場に止まった。

 それは大きな鹿の形をしていた。4つの四肢が非常に勇ましい。

 『煙りを纏いし幻鹿(スモークディア)』よりも一回りは大きい。

 その姿を見た瞬間、2人は背筋が凍った。


(あれは『霧に消えし大鹿(ミストキラー)』!!)


 心の内で、驚きと悲鳴があがる。

 頭が痙攣しているかのように動かない。


 ミストキラーは本来は霧の発生している時しか現れない上位種だからだ。

 それもここはヴェルク湖の奥地とはいえ、休憩スペースとして利用されているところからは30分も掛からないところにある。

 そんなところにミストキラーが現れたとなると、当然驚きたくもなる。

 霧の時にしか現れないのは、霧に含まれる森の魔力を蓄えやすいからだ。


 魔力とは魔物のエネルギー源であり、魔法を使うときに用いられる。

 魔力を得る方法は、食事や睡眠など日常生活で行うことができる。

 いわゆる欲を満たすことで、魔力を貯めることができるともいえる。

 しかし、それはただの仮説であり、個人差があることも分かっている。

 明快なことはまだ解明されてはいないが、時間が経てば回復している。

 まだまだ詳細に解説することは、難解であろう。


 話を戻すが、人間も魔力がなければ生きていけなくなるが、日常の生活で結果的にしっかりと補給できているのである。魔力=生命力という認識でも特段間違いでもない。

 しかし、霧で蓄えられる魔力で充分補給できるため、ミストキラーが魔力を得るために魔物を食べる習性はない。

 ということで、何をしているのかという疑問をライト達は感じていた。


 ミストキラーは、ライト達の倒したポイズンフロッグの匂いをぐいぐいと嗅いでいる。

「俺たちを探している? それとも別の目的が?」と考えを巡らせても分からない。

 ただ1つ言えるのは、いなくなるまでは動いてはいけないことだ。

 物音一つでも、それが自分の人生を終わらせる音になることだろう。


 しばらくの間、ポイズンフロッグやその周りをぐるぐる回っては嗅いでいき、そのまま何もすることもなく去っていってしまった。何とかやり過ごすことができたようだ。

 安全であるか確認し、ライト達はほぼ同時に立ち上がった。


「なんでこんなところに霧に消えし大鹿(ミストキラー)が……」

「ああ、でもまずいな。ここからヴェルク湖は近い。本部に即行で報告だな」

「もう少しで門も閉まるから、急いだ方がいいね」

「そうだな。それにミストキラーもまた戻ってくるかもしれないからな」


 顔を縦に短く振り、同意する。会話を終えると、ライト達は走り始める。

 先程まで爽快だった夕焼けは、不穏な闇に飲まれようとしていた。






 『サリュダル』まで無事に帰ってこれた。

 閉門の時間のため、後ろで門が閉ざれる。

 あれからずっと走り続けたので大体1時間相当だろう。

 膝に手を当て、ぜはぜはと荒らげている息を整える。

 落ち着いたところで、2人は『フィジダル大森林対策本部』へと向かった。


「あれ? 今日は珍しい組み合わせですね。チームでも組んだんですか」


 中に入り、受付に行くと受付のお姉さんがそう尋ねてきた。

 確かに、今日初めて組んだのだから当たり前の質問ではある。


「うちの2人が食あたりにあってな。単独(ソロ)で行っていたんだ」

「はい、それでたまたま会ったので、せっかくだから組んだんです」

「それよりも、ちと困ったことがな」

「困ったことですか? 探索者の死体でも見つけたのですか?」


 受付さんは、さらりと恐ろしいことを告げた。

 フィジタル大森林では、魔物と戦いに敗れて、死ぬことだって非日常ではない。

 その死体の身元確認もすることも対策本部の仕事なのだ。

 しかし、困ったことと聞いて、探索者の死体とは余りにも物騒なことである。

 2人の背中にじわりと冷や汗が滴れる。


「他に死体でも発見されたのですか?」

「ええ、3人組パーティです。全員武器も取ることなく、死んでいたそうです。それに加えて、発見場所がヴェルク湖の近くだということなのです」

「まさか……もう犠牲者が出ていたのか……」


 ジリウスに続き、ライトも思わず口を失ってしまった。

 もう襲われたという報告があることと、もう死者が出ていたからだ。

 ジリウスの零した言葉と、2人の様子にお姉さんは何かを感じた。


「お2人は、もしかして心当たりがあるんですか?」

「はい。俺たちは今日チームを組み、ヴェルク湖の奥地で毒散らす大蛙(ポイズンフロッグ)を狩っていました」

「えっ? 2人だけでですか?」

「そうです」


 中級種とは、熟練の探索者の5,6人程のチームでも苦戦する恐ろしい魔物だ。

 それを、たった2人だけで倒したと聞いたのだから驚くのも無理はない。


「話はここからで、大体8匹目の剥ぎ取りが終わったときでした。

 後ろから何かが速い速度で迫ってきたのが分かりました。

 この速度で上級種ではないかと思い、急いで隠れました。

 その時に現れたのが霧に消えし大鹿(ミストキラー)でした」

「ミストキラーですかっ!! 今日は霧は出ていないはずでしたよね」

「そうなんです。しかし、俺たちの見たのは確実のミストキラーでした」


 ライト達と受付嬢を隔てている右の壁から左の壁まで途切れるこのない木製の長机を、バンっと強く叩き上げ立ち上がる。急に聞かされれば、信じられないだろう。

 それから、ライトが詳細を所々説明して、受付嬢は理解する。


「とんでもないことですね。上級種が出るのは稀に見ない緊急事態ですよ。

 緊急会議をして、どうなるのか……お2人共報告ありがとうございます。

 無事に生還できて、本当によかったです。今日の素材も受け取ります」


 ジリウスとライトはお互いに出し、48枚の金貨を2等分にして24枚ずつ受け取る。ミストキラーで頭がいっぱいのためか、何も言わず淡々と作業していた。


「では、お2人ともまたいらしてください」


 そう受付嬢が頭を下げると、対策本部の奥にある扉の方向へ消えていった。

 それを目で追い、奥のドアに入ったときにライト達も一緒に外へと出た。

 なんとも、いたたまれない気持ちになった。


 まだまだ夜も始まったばかりのため、喧騒や明かりが大通りでは絶えない。

 2人の憂鬱の気持ちなど知らずに、実に能天気であると顔を歪める。

 そんな嫌な気持ちを吐き出すようにジリウスが口を開いた。


「とんでもないことになったな」

「本当にね…3人の探索者が死んだとなるとね」


「ああ」と呟き、沈黙が訪れた。

 それ以外に話すことはなく、お互いに心の整理がついていなかったのだろう。

 住宅街と観光街の分かれ道に辿りつき、お互いに別れの言葉を掛ける。

 ライトは住宅街の道に足を向け、暗い面持ちでポツリと零した。


「俺は、こっちだから」

「そうか……またチーム組もうな。他の2人も含めて」

「こちらこそ、喜んでね。楽しみにしているよ、じゃあね」

「ありがとな。じゃあな」


 2人は別れ、ライトは愛しき妹の待っている自宅へと歩いていく。

 その足取りは重く、とてもいい気分とは言えなかった。

 今は、どうしようもない不安が、全身に纏っているような、そんな感覚だった。

 空の月を白く輝き、爛々としているその様子に、ライトはため息を()いた。

 そして、道端に落ちていた石ころを全力で蹴りたくった。

読んでいただきありがとうございます。

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誤字・脱字、気になったところがあれば感想お願いします。

題名に話数をつけてみました。分かりやすくなったと思います。

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