第4話『毒散らす大蛙』
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「ジリウス、中級種の何を狩るんだい」
ライトはすっかり打ち解けてしまい、丁寧な口調から普通の口調へと戻ってしまっている。それに対して何も咎めることもなく、ジリウスは考える素振りを見せる。
「そうだな……前衛と後衛の2人だからな。お前って前衛行けるか?」
「短剣を持っているから、いざという時は前に出られるけど期待はしないでよ」
「なら、大丈夫だな。うんとそうだな、『ヴェルク湖』の『毒散らす大蛙』ってのはどうだ?」
「金貨6枚か…2等分して、3枚。俺はオッケーだよ」
「決まりだな、北西に進むぞ」
ジリウスを先頭に、森の北西部へと向かう。
フィジタル大森林の北西に『ヴェルク湖』という湖がある。
湖の底には女神ヴェルクが住んでいると言われ、湖の水は解毒剤の材料としてよく使われている。
ここで疑問があると思うが、そんな場所に何故ポイズンフロッグが住んでいるかというと自分の毒で死んでしまうからだ。この湖の水を飲むことで体内の毒を中和させる。
この方法で生命を延ばしているらしい(諸説あり)。
毒はいくらか軽減されているのだが、触れるだけで体の自由奪う程の猛毒だ。
だからこそ、対策本部は中級種として認定している。
ヴェルグ湖まではそう離れていなかったため、予想よりも早く着いた。
だから、近くて狩りやすいポイズンフロッグにしたんだと納得する。
澄き通る水は美しく、手に掬い上げ口に運ぶ。
喉を潤し、水分を補給する。ひんやりとした感触が爽快さを感じさせる。
湖の畔では、下級種『大蛙』が群れで戯れている。温厚な性格でこちらから何もしない限り何もしてこない。襲ってくるのは本当に稀だ。
そのため、ここは探索者の休憩場所として、よく利用されている。
数十人の探索者の姿が見える。
やはり多いのはチームを組んでいる探索者だ。
単独の探索者は数える程しかいない。
「今日も多いな、ここは。俺たちは、ポイズンフロッグ狙いだからもっと奥だな」
「了解。休憩してく?」
「俺は大丈夫だ。今日はあのキノコしか殺ってないからな。まだまだ行けるぞ」
「俺も大丈夫。なら、早速行きますか」
湖の畔に沿って歩き、煌々と反射する湖の水が眩しい。
首を上へ巡らせると晴れ渡る美しい空が見える。天気は良好だ。
湖であるからこそ、木の枝や葉で視界が開けているからだろう。
普段は単独で狩りを行っているライトは、滅多にこちらへは来ない。
そのためか、空の青さに感動を覚えていた。
途中に耳長ウサギを何頭か狩り、昼ごはんにしようと剥ぎ取った。
奥地へと近づいてきたので、いくつかある道具の1つである解毒剤をすぐ飲めるように手前へと移動させる。
「そろそろ、着くからよ。臨戦態勢で頼む」
「うん、了解。準備は万端だよ」
「よし、油断しないで行くぞ」
周囲には全く人気の無い奥地に、たどり着いた2人。
先程の場所よりも日の光が入りにくく、薄暗くじめじめとしている。
そんな中を警戒しながら、黙々と緊張した面持ちで進んでいく。
ここまで、まだ脅威になる程の魔物とは出会っていない。
狩人であるライトが前を歩いており、不意に足を止める。
それに合わせて、後列に並んでいたジリウスも立ち止まる。
ライトの目線の先には、岩のような大きな物体がある。
後ろを振り向き、何かに気づかれないように小声で話しかける。
「あの模様はポイズンフロッグなんだよ」
「ん? ただの岩にしか見えないが」
「いや、よく見ると薄っすらと髑髏の形をした模様があるのが、特徴だよ」
「そうなのか。確かに髑髏っぽいのがあるな。お前のことは信頼しているから、今後、参考にしよう。それで作戦の算段はあるか?」
「俺がポイズンフロッグの毒で動きを鈍らせるから、その間に気を逸らすことはできる?」
「あいつは遅いから問題ない。しかし、自分自身の毒で倒せるものなのか?」
毒耐性があるから無理なのではないかとジリウスの顔から伺えられる。
しかし、ライトは問題ないと確信をもってジリウスに軽く説明をする。
「毒耐性があるのは口回りと体内だけで、体にはちゃんと毒は染み込むんだ」
「なるほどな……分かった。囮は引き受ける。合図頼む」
ちゃんと通用するのかと怪訝に見つめていたが、視線を逸らし合図を待つ。
こちらを信じてくれたことに、ライトは感謝を心の中で送る。
期待に応えられるように右手を手のひらを広げ、前に出す。合図だ。
次の瞬間、ジリウスは勢いよく前へと飛び出した。
それと同時に飛び出した矢が岩のような物体へと突き刺さる。
「ギャアアアアァァ!! ギィヤアアアァァ!!」
悲痛な雄たけびが森中に響き渡る。
痛さで気を逸らしている間にジリウスはポイズンフロッグに斬りかかる。
1、2、3と三斬撃。それに気づき、2度目の雄たけびを上げる。
「ギィイヤアァ!! ギィイヤアァ!! ギィヤアアアァァ!!」
明らかにダメージを与えられているが、これだけでは致命傷にはならない。
ポイズンフロッグは、問答無用に暴れだす。
毒をジリウスに向かって吐き出すが、直ぐに飛び退き、回避する。
ジリウスがさっき程まで居たところは毒沼へと変貌している。
着地すると、上からポイズンフロッグがのしかかる。
しかし、寸でのところで前に転がり込みポイズンフロッグの股を通り抜ける。
背中に回り込んだジリウスは、再度思いっきり、一撃を斬りつけた。
「ギィイヤアァ!!」
上を向き、再び雄たけびをあげる。
刹那、ポイズンフロッグの喉元に矢が生えた。
そのように見えたといった方がいい。
熟練の探索者であるジリウスにさえ、理解するのに時間が掛かった。
音が無く、見えることもなく、突然現れたそれは、ライトの放った矢だった。
「ギィイヤ……ギ……」
少しもがいていたが、かなり衰弱していた。毒の循環が異常に早いようだ。
毒蛙の腹にとどめに剣を突き刺し、やがて動かなくなった。
怪我をすることもなく、2人の体は無傷のまま戦闘は終わった。
結果は、ライトの作戦勝ちだった。
パーティで組んでいるメンバーよりも、早く終わってしまったことにより、
「本当に毒は廻っていたのか!!」と、ジリウスは興奮しながら語りかけてくる。
「本当にお前の作戦通りだな。いろいろと凄すぎるぞ、ライト」
ポイズンフロッグの毒が効くことを知っていること。弓矢の精度が高すぎること。
この2つのことに対し、ジリウスは、
「本当に俺は必要だったか?」
「何言ってるのさ。あの斬撃でこんなに早く毒が回ったのはジリウスがダメージを蓄積してくれたおかげなんだから。必要に決まってるよ」
興奮していたジリウスも面を食らい、思わず仰け反ってしまう。
それから、こちらにまた向き直り笑顔で言葉を返してきた。
「そうか、ありがとよ。それに弓矢の技術はどうなってやがる!!
さすがの俺にも見えなかったぞ、何をしたんだ!!」
またもや興奮しながら、ライトに問い詰めてくるジリウスを何とか宥める。
「まあ、剥ぎ取りでもしながら落ち着こうよ、ジリウス」
「あ、すまんな……お前が凄すぎて、ついな……」
ジリウスが冷静さをとり戻し、周りの安全を素早く確認し、剥ぎ取りに取り掛かる。
ここは、臨機応変ができる熟練の探索者の切り替えだ。
ナイフでポイズンフロッグを切りつけながら、ジリウスはライトに話しかける。
「聞きたいことはたくさんあるが、まずあの矢は何なんだ」
「あれは『速度上昇』の薬を矢に全体に軽く塗るんだよ」
「あれは飲むと効果出るアイテムじゃないのか?」
「塗っても効果があるんだよ。他の上昇系の薬でも実験したら、『攻撃上昇』だと貫通力が上がって、『防御上昇』だと折れにくくなることが分かったんだ。これは剣とかにも利用できるから、ぜひ試してみてよ」
ライトは、さも当然のごとく淡々と言っているが、ジリウスは驚いていた。
それは、フィンダル大森林対策本部でも分からない情報だからだ。
対策本部は探索者の支援のために、情報を一般に全て公開している。
その中に、ライトの言っていたことは書かれていない。
本来飲んで使用する薬を物に使おうとは、普通は考えないだろう。ライトを除いては。
それに、こんな重要なことを今日逢ったばかりのジリウスに言っていいものだろうか。
「そんなこと教えてもいいのか? お前の見つけたことなのに」
「ジリウスはそういうこと言う人だからだよ。
仁義に厚いっていうのかな?
それに広めるつもりはないって思ってるからかな? まあ、信頼だよ」
「そうか……あ、ありがとな」
急騰するように頬を赤めさせるジリウス。
それをライトは声を殺し、小さく笑う。
お互いに剥ぎ取りを終え、2人はほぼ同時に立ち上がった。
暗い奥地だが、太陽の位置くらいは把握できる。
まだ正午を過ぎていない頃で、帰還にはまだまだ早いだろう。
「もう1体狩りに行くか?」
「そうだね、夕方まで狩れるんじゃない?」
「何体殺るつもりだよ」
「5体くらい……俺たちならいけると思うけどね」
「それも信頼か? でもまあ、挑んでやるとするか」
無邪気に笑い合うライトとジリウス。
それから、また違うポイズンフロッグを探しに森の中に溶け込んでいった。
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