第2話『朝の日常』
スマートフォンで読む方は横向きにすることを推奨します。
朝目が覚めると、美味しそうな匂いがお腹を鳴らした。
ベッドの上で欠伸と一緒に伸びをして、ゴシゴシと目を擦る。
ベットから這い出て、食卓へと向かおうとドアのノブに手を掛ける。
「あっ」と何かを思い出したかのように声を上げ、手を離した。
「そういえば、昨日の貨幣分けないと…」
寝ぼけた頭で思い出し、机に放り置いていた麻の袋を逆さにする。
お互いに弾きあい金属音が響き渡る。
ぼんやりと寝ぼけた頭の中で妙に甲高く聞こえ、顔を顰める。
この貨幣は、昨日売った素材で得た貨幣。
それを昨日貰った金額と同じであるかを丁寧に確認する。
確認を終え、再び麻袋へと適当に入れる。
それから、部屋の隅に置いてある正方形の木箱へ移動し、蓋を開ける。
形が整っている木箱の真ん中に木の板が置かれ、2つのスペースができている。
右のスペースには銅貨。反対のスペースに銀貨と、金貨の入った小さな木の箱が入っている。
これはライトの全財産であり、この世界ではなくてはない物だ。
区別されたスペースに1枚1枚確認しながら、ひょいと投げ入れていく。
最後に、残っていた金貨を小さな木の箱に大事に入れて、左のスペースに置いた。
分別作業の終わりを表していた。
作業で凝った首を回し、木箱に蓋をする。
すると、後ろからノックの音が聞こえた。
返事を返そうとし振り返るも、勝手にドアが開いていく。
ドアの向こうから、妹のリナがこちらをそおっと覗いていた。
「兄さん、起きていますか。今日はちゃんと起きていますね。
もう寝ぼすけさんは嫌われますよ……
でも、私にだけはいいんですけどね……」
「おはよう、リナ。今日の朝ごはんは何?」
「もう、兄さんは……」
ブスっとした顔でこちらを睨んでくるリナ。
何か悪いことをしただろうかと考えたが、妹は兄の疲れ具合を心配してくれているのだと思い当たる。
「体調は全然大丈夫だよ。今日も頑張ってこられるさ。
お腹が空いたからさ、朝ごはんが楽しみなんだよ」
「そういうことでは……いえ、体調が良いことは良いことですね!!」
じゅっとドアノブにある両手を握り締め、空元気な風に見せるリナ。
そんなリナに対して、ライトは気づいた素振りもない。
お腹を擦りながら、朝ごはんの確認を再度問う。
「それで、今日の朝ごはんは?」
「はう……今日は『食用ミミズ』の佃煮と『兎を狩る大鼠』の揚げ物です」
「朝から随分とボリュームあるね。大丈夫、リナ?」
「何がですか?」
「体重とか?」
「兄さん!! デリカシーというものはないのですか!!
何という恐ろしいことを!!
それだから、1人の姫君も見つからないのですよ!!
私は食卓の椅子に座って待っているので準備が終わったら、来てください!!」
怒声を放ち、パタパタとスリッパの音が遠ざかっていく。
なぜ急に怒ってしまったか分からず、首を傾げる。
あんなに怒らなくてもいいのにと、女心は分からないライト。
急に落ち込んだり、いきなり怒り出したり、色々と忙しい妹。
それでも、一緒にご飯食べるために待ってくれる。
「俺には、もったいないくらいの妹だ」
幸せにしてくれる人を無事に見つけてほしい、と感じている。
ライトとリナは、本当の兄妹ではない。
リナが幼い頃に両親が亡くなり、親戚も遠くの街住んでいるということだった。
そこでライトの親父が引き取り、兄妹のように育てられた。
リナは兄さんと呼び、同様に俺も妹と思い、リナと呼んでいる。
だからこそ、幸せになってほしいものと感じているのだ。
しかし、その反面男を連れてきた日にはその男を血祭りにする予定だ。
「だって、リナは可愛いしね。連れてきた男は……死ね」
そんな戯けごとをほざきながら、大森林に潜る準備をしていた。
弓の弦を取り替えたり、足りない持ち物は大抵は、ここで補充できる。
それでも無かったら、森に入る前に買い足しに行かなくてはならない。
いつもの軽装に、一応中には鎖帷子を装着している。少し重いが、致命傷を防げるなら軽いものだ。腰にバッグ、背中と肩に矢筒を背負い、弓を手に持ち、準備を終えた。
妹の待つ食卓へと向かった。
食卓の机には先程のメニューに、昨日の残りのシチューとパンが加わる。
いつものところに座り、目の前にリナがいる。
笑顔を浮かべている。
しかし、それは偽りで張り付いた笑顔だった。
「怒ってる?」
「何のことですか?」
「えっと、たいzy」
「に~いさん? 何のことですか?」
「あー今日も美味しそうだな~、森の神秘に感謝していただきます」
圧倒的威圧感の前に、すぐさま愚行に走る口を閉ざす。
手に汗が滲み、顔を渋らせてしまう。
「今日の朝ごはんも、美味しそうだなぁ」
愚行に走らないように、他愛のないことを話す。
ちらりとリナを覗くと、目が合った。
ビクンと背筋を伸ばすが、リナは諦観に似たため息を吐いた。
どうしようかと思っていると、リナから話しかけてくれる。
「料理が冷めるので、早く頂きましょう、ね?」
「うん、森に感謝していただきます」
「いただきます」
食事中は、険悪な雰囲気にもならず、会話を楽しんでいた。
最後の一口を入れ、握っていたスプーンを静かに置いた。
「森の神秘よ、ごちそうさまでした」
無事に食事を終え、内心で安堵するライト。
せかせかと自分の食器を台所の洗い場に片付ける。
「そういえば、昨日の分渡しておくよ」
「え、今月は間に合いますから、要りないですよ」
「まあ、これで何かしてくればいいよ。年頃の女の子なんだし」
「でも……」
「自分にご褒美をあげてもいいんだよ」
「でも兄さんが死ぬかもしれない森で稼いだお金ですし……」
謙遜するリナに対し、悪戯心が好機と告げる。
ライトは目を光らせ、さっきのお返しとばかりに口を開いた。
「今さっき食べていたものは俺が稼いだものだよね?」
「それは……」
「なら、いいんだよ。はい、手を出して」
「むむっ……分かりました。ありがとうございます」
手に金貨2枚を握らせると「こんなにいいのですか!!」と驚いていた。
金貨2枚なら欲しいものは大抵買えるだろう、と見込んでいた。
(別にいいんですよ。リナが喜んでくれるなら死んでもいい。
死ぬとリナを悲しませると思うので、意地でも死ぬ気などないけどね。
さて、今日も俺とリナのために森へと向かおうかな。
そして、生きて帰ってこよう)
改めて、自分に目標を唱える。
軽く息を吐き、吐いた分だけ息を吸った。
「じゃあ、リナ。俺は行ってくるよ」
「気を付けてくださいよ。いってらっしゃい」
リナの声を背に玄関を後にする。
心配そうに見守るリナを直視できないライトは家を出た。
路地から大通りに出ると、朝の街の通りは市場で賑やかだ。
まだ日が出始めたばかりだというのに溢れかえる人々が通りを埋め尽くしていた。
喧騒が飛び交ういつもの光景を通り抜け、サリュダル城門へと辿り着いた。
城門には2人の衛兵がおり、魔物が攻めてきた時に門を閉めるためだ。
2人の内の1人、歳こそは老いているが現役の老年の衛兵に話しかけられる。
「坊主、おはようさん。今日も大森林にお勤めか?」
「はい、妹と生活を支えるために仕方なくですが」
「ははっ、その年でよく言うもんだ。中級種に勝ったからって油断はするなよ」
「ご忠告ありがとうございます。倒したのは、本当に運ですから。
油断なんかしてられないですよ。では、行ってきますね」
「おう、気をつけることだな。じゃあな」
いつもお世話になっている老年の衛兵のおじさんが景気よく、話しかけてきてくれる。
これ日常の恒例の1つになっている。手を軽く振り、門と一緒に後にする。
「今日も帰ってこれるかな……」
そう不安げに呟き、鬱蒼と生い茂る大森林へと歩みを進めた。
引き続き読んでいただき、ありがとうございます。
気に入ってくれたら、ポイント評価・ブックマークお願いします。
誤字・脱字、気になったことがありましたら、感想お願いします。




