第10話『笑顔』
スマートフォンで読む方は横向きを推奨します。
春の暖かな日差しが眩しく、ベッドの上でぼやけた目を擦る。
親父は仕事で朝早く出かけたはずだ。朝食を食べに、食卓に向かうと最近引き取ったいう女の子がいた。台所で料理をしているようだが、目には涙が浮かべていた。
少年特有の明るい声で優しく話しかける。
「えーとっ、リナヴィーゼ?何で泣いているの?」
「なにか役に立つことをしようって……でも全然うまくいかなくて」
両親が亡くなった悲しみがあるはずなのに。急に今まであった幸せが消え、新しい生活に変わってしまった。普通は受け入れることはできないだろう。
しかし、彼女は自分を受け入れられようと必死に頑張ろうとしている。この頃の少年にはそんな考えはない。
ただ泣いている新しい家族が笑って欲しい。ただそれだけがこの時の願いだった。
「最初はだれでも失敗するよ」
「でも、うまくやらなくちゃ」
「じゃあ、うまくできるように2人でやろうよ」
人間は1人でできないことは協力すれば、できるようになると親父が言っていたことがあった。少女は首を勢いよく横に振った。
「でも、それじゃあ迷惑がかかっちゃうよ」
「迷惑をかけるのが家族でしょ?当たり前じゃん」
にっこりと笑う俺に少女の顔をきょとんとさせていた。
「かぞく?私も家族でいいの?」
「うん、俺たちは兄妹だよ」
「きょうだい?」
「俺が兄で、リナヴィーゼが妹だよ」
理解するよりもはやく、自然に頬に滴れる。
悲しませるつもりはなく、笑わせるつもりだけなのに慌てて謝った。
「ごめん、泣かせるようなこと言った?」
「ちがうよ…ぐすっ……ちがくて…」
溢れ出す心の雫を拭うと、春の日差しのような笑顔を見せた。
「ありがと、にいさん!!」
顔の辺りに暖かな感触。目を開けると、本当の目の前にリナ。
何でこんなに近くにいるのだろうかと思ったが、身体中に痛みが走った。
「痛ッ!!なにこれ、あれ?霧に消えし大鹿は?」
「おおお、落ち着いてってくだちゃい!!にいしゃん!!」
「リナこそ、落ち着きなよ」
「だって、急に起きるものですから」
むすっとした頬を赤くしているが、声に喜びがこもっていた。
「兄さん、何か食べられるものを持ってきましょう」
「悪いね、リナ」
「いいんですよ。今作ってきますね」
部屋から出て行くリナを見つめ、窓の外側にある空を見ていた。
懐かしい夢を見たものなぁ~と昔の記憶を呼び出された。
リナが家族になろうと一生懸命に頑張っていたのは今でも覚えている。今じゃ、家事は何でもこなせているけれど、最初は何にも出来なかったことが本当に懐かしいものだね。
あの頃からリナを悲しませたくないと思ったんだと今更ながら気づいた。
それを思い出し笑っていると、料理を持ってきたリナは「眠りすぎて、頭がおかしくなったんですか?」と気味悪がれる。料理は胃に優しく、小麦粉と野菜を混ぜた汁物だ。口の中に入れると、胃がヅキヅキと痛みながら体の中へ吸収されていく。
食事を終えると、リナが眠っている間のことを話してくれた。
霧に消えし大鹿は無事に討伐されたこと。他のジリウスたちの4人がここまで運び、神官を連れてきたくれたこと。5日間目覚めないので、リナも皆も心配していたこと。
「その…ごめん、リナ。心配させちゃって」
「いいですよ。でも、これからずっとこんな危ないことしないでくださいね」
喜んだり、悲しんだり、怒ったり、俺を許して綻んだ表情。
感情豊かなリナを見ていると幸せな気持ちになる。
先ほどの夢の余韻が残っているのか、ある約束を思い出す。
「リナ、そういえば忘れてたんだけどさ」
「何ですか、兄さん?」
「まだ言っていないことがあったな~って」
「言ってないことですか?」
首を傾げるリナ。
そりゃ、分からないだろうなって思う。
だって、これは忘れていた俺たち兄妹の原点だからだ。
何故かリナはそわそわと落ち着きがないが、分かってしまったんだろうか?
それでも言わなくちゃいけない。この言葉は。
「遅くなったけど。ただいま、リナ」
リナは少し困惑したかのような顔をすると、それから顔を俯いた。
俺は待ち続けた。この後の言葉は知っていたけれど、それでも…。
それから、リナは顔上げると目に雫が浮かんでいた。
それから一言。
「おかえりなさい、兄さん」
その発した出迎える言葉と笑顔は暖かな春の日差しのような眩く、昔と変わらない笑顔だった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
気に入ってくれた方はポイント評価・ブックマークお願いします。
誤字・脱字、気になったところがあれば感想お願いしますね。
これで1章が終わり、2章へと続く予定です。
しばらく投稿はできないかもしれないので、ご了承してください。
2章も引き続き、読んでいただけたら幸いです。




