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番外編 ~おくりもの 前編~

「ほんとにここ?」

「間違いないわ。」

 手にした紙片と扉に書かれた文字を見比べたネフェルが、大きく頷いた。

「どう見ても、女性向けの店じゃなさそう。」

 リィナはきょろきょろ辺りを伺う。

 ガッセンディーアの旧市街でも古い路地が続くこの辺は、表通りと違いリィナとネフェルのような若い女性の姿は見当たらない。

 そもそも、リィナはネフェルが何を捜し求めているのか知らない。「付き合って欲しい」と言われてついて来たに過ぎないし、それも一度はお断りしたのだ。

 理由はいろいろ。

 ガッセンディーアの神舎(しんしゃ)乗っ取り事件に弟が関わったショックも引きずっていたし、兄の婚約者が一族の長に就任したことで今なお、家中が慌しい。なにより大好きな友人が実は異国でなく異世界の人だったこと。それを自分が知らされていなかったことに、リィナは落ち込んでいたのだ。

 そんな様子を彼女の兄がネフェルに伝え、それを受けたネフェルがダール家を訪問したのだが、最初断られたのは前述の通り。しかしリィナの母親がそれをたしなめ、渋々、外に出たのである。数日振りに歩くガッセンディーアの街は夏の明るい日差しに満ちていた。窓辺を彩る鮮やかな花、そして友達とのおしゃべりにリィナの気持ちも軽くなって行く。

 そうこうしているうちにネフェル本命の店までやってきたのだが、ここは自分が入っていい場所なのかと首をひねる。

 ネフェルがクスリと笑う。

「リィナが気乗りしないの当然よ。だってここ本屋だもの。」

「本屋ぁ?」

「ええ、そう。」

 ネフェルは頷くと「入りましょ。」と言って扉を押した。

 薄暗い店内は、外から想像するより奥が深い。まるで店自体が通路のようで、その両脇に書棚が並ぶ。

 ほとんど無意識に、ネフェルは書棚に並ぶ背表紙に目を走らせた。

 どうやら扱っているのがノンディーア連合国のいろいろな地方に関する本……特に南のホルドウルに関する物が充実しているようだ。

 と、素っ頓狂な声がした。

「これ、ニススの銀細工?」

 リィナだ。

 慌てて店の奥に行くと、リィナが大きな机を真剣に覗き込んでいた。

「お嬢さん、よく知ってるネェ。」

 机の向こうから小柄な老人が声をかける。

 頭のてっぺんが薄く、分厚い眼鏡をかけているが、声は明瞭で良く通る。傍らに帳簿のような物を広げているのを見ると、どうやら彼が店主らしい。

 リィナが見ていたのは、小さな銀色の細工だった。

「ニススって、ホルドウルの港街?」

「南の海沿いで一番大きくて、一番古い街よ。」

「昔っから海の向こうの国と交易してたんで、土産の銀細工工房が多いんだ。」と、店主が付け加える。

「すっごく細工が細かくて、それに軽いの。工房の刻印入ってるけど……この説明、まったくわかんない。」

 リィナが指差したのは小さい文字が書かれた紙で、どうやら銀細工の由来を説明してるらしい。

「この髪飾りは、歴史的な意匠を取り入れてる……ですって。」

 すらすら読み上げたネフェルに店主が驚く。

「お嬢さん、こいつが読めるのかい?」

「だって語り部だから。」

 得意そうにリィナが言った。

「若いのに語り部とは優秀だ。とすると……コンロッドの知り合いかね?」

「ご紹介くださったのはトラン・カゥイさんです。」

 ほ、と老人の目が丸くなる。

 古い文字を読むことを生業としているコンロッド・シィガン、それに教師で銀竜の研究者でもあるトラン・カゥイは同じ教授の下で学んでいた頃から、この本屋に通っていると、ネフェルは本人たちから聞いていた。本以外にも面白いものがあるからと言われて来てみたが、まさか南の銀細工だと思わなかった。

 そう言うネフェルに、店主は大きく頷いた。

「そりゃあ、そうだろう。こいつを扱ってるのはガッセンディーアでもうちだけ。アデル商会にだってない。」

「どうして本屋さんに銀細工があるの?」リィナが首をかしげる。

「兄貴がニススにいるんだ。それでときどき、南の本と一緒に持ってくる。」

「ついで?」

「んなこたない。良いものは良い。だから置いてる。」

「たしかに綺麗だ。凄く細かいのね。」

 ネフェルが手にしたのは細い銀線を寄り合せ、線画のように幾何学を形作った襟留め。

「ねぇねぇ!この緑の石、ネフェルの瞳の色と同じ!」

 リィナが示したのは同じような銀線を使って花を描いた髪留め。花の中心に、磨かれた緑の小さな石が嵌め込まれている。

「色違いもあるよ。」

 店主は足元から箱を引っ張り出すと、細工物を包んだ柔らかな布を開いた。現れた繊細な小物に、少女達の吐息が洩れる。

「すてき!」 

「花の形も少しずつ違うのね。この明るい黄色、リィナ好きそう。」

「すっごく好き!これ銀色?」

「もしかして花貝かしら?」

「貝?海のもの?」

「向きによって色が変わるはずよ。」

「ホントだ!ねぇ、これミヤコに似合いそう。」

 思わず言ってから、リィナはネフェルと顔を見合わせた。

 言葉は発せずとも、二人同じことを考えているのは明白だった。

 それからしばらくのち、二人は弾むような足取りで店を後にした。

 ネフェルは買い物が入った手提げを腕にしっかり抱え、リィナは満面の笑みでネフェルを振り返る。

「お揃い、買っちゃった。ミヤコ、気に入るかな?」

「きっと気に入るわよ。」

「だといいけど。」そう言って、ふとリィナは表情を曇らせる。

「ミヤコ、ガッセンディーアに来ないとか、ないよね?」

「議会が出廷を求めたら来るはずだって、お祖父さま言ってたわ。それに契約の儀もあるし。今までどおり、ミヤコはガッセンディーアに来るわよ。」

「でもあたしたちに会いたくない……とか。」

 まさか、とネフェルは笑う。

「リィナのお兄さまは全部知っていて、ラグレスさんやミヤコとお付き合いしてたのよ。だったら私たちも、それに倣えばいいだけじゃない?」

「ネフェル……なんか強気?」

 リィナは目を丸くして年上の友人を見た。

 だって、とネフェルは笑う。

「ミヤコがどこの人だろうと友達は友達だもの。私がオーロフを名乗るようになっても全然変わらなかったし、逆にミヤコが急に変わるとは思えないから。」

「あ……」

 リィナも気づく。

 確かに。

「ミヤコはミヤコだもの。」

 そう笑顔で言うネフェルに、リィナは頷いた。

「そうだよね。」

 そして笑顔。

「それ渡すとき、二人で渡そうね!」

ささやかながら番外編をお届けします。

後編は2016年内に投稿する予定(もちょっと待っててください)

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