表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/66

第二十四話

「マーギスから声が届いたらしい。」

 早瀬(はやせ)の説明に、フェスが「くあ!」と鳴いた。

「マーギスさま……ってルーラが送ってきたんですか?」

 首をかしげる(みやこ)に、早瀬は息子を振り返る。

「都ちゃんにレイユのこと話してないのかい?」

「話しそびれてる。」

 言いながら差し出した手に、フェスが飛び移った。

「レイユ、って?」

「マーギス司教が名付けた銀竜(ぎんりゅう)、だそうだ。」

「えっ!」

 驚く都に早瀬は公安が保護した銀竜のこと、それをマーギスが偶然名付けたことを話した。

「大人の銀竜を名付けるなんて……そういうことあるんだ。っていうか、マーギスさまが凄いのか。リュート!黙ってたの、ずるい!」

「後回しになっただけだ。」

「いっつもそうだよね。わたしに言うの、後回し。」

「たまたま、だ。」

「そんなことない。この間だってリュートが言いたいこと言わないから、こじれたんだよ!」

「あれはもう……済んだ話だろう。」

「全然、改善されてない。」むぅ、と都は頬を膨らませる。

「わたしだって銀竜の主人(あるじ)なのに!」

「今後はちゃんと報告する。」

「信用できない。」

「じゃあ、どう言えば信用するんだ?」

 本気で問いかける息子の姿に、早瀬が笑った。

「笑い事じゃないです!」

「息子の窮地がそんなに楽しいか?」

 悪い悪い、と彼は手を振る。

「いや、都ちゃんも竜杜(りゅうと)に遠慮がなくなったと思ってね。」

「だって遠慮してたら何にも言ってくれないだもん!」

「だからどう言えば……」

 まぁまぁと早瀬は二人をなだめた。

「性分といえば性分かな。エミリアもときどき言葉が足りないから、似てるかもしれない。」

「お母さま、も?」

 そっか、と都は息を吐き出す。

「お母さま譲りなら仕方ない、か。」

「それで……納得するのか?」

「だってしょうがないでしょ。」

 あっさり了解した都に、竜杜は唖然とする。

「しかし、そうか。」ふうむ、と早瀬は腕組みし、

「都ちゃんもこの先門に関わることになるし、銀竜の主人でもあるから、状況は把握しておいたほうがいいんだろうな。竜杜が心配するのもわかるけど。」

「心配?」

「面倒ごとが増えるから、都ちゃんの負担になるんじゃないかと思ってるんだよ。」

 そうなの?と見上げる都に竜杜は「さあな」とそっけない。

 けれどそれがいかにも彼らしい気遣いで、都はなんだか嬉しくなる。

「でもまぁ、ここまで来たら過保護にしても仕方ないだろう。」

「わかってる。銀竜を託すと決めたのは俺だし……」

「反対する人もいなかったけどね。」

 二人の会話に「そうなんだ」と都は呟く。

 フェスが「ぎゃう!」と鳴いた。

「声を伝えたがってる?」

「みたいだな。」

 竜杜は受け取った声を伝えるよう、フェスに命令した。

 銀竜を通じて聞こえるのは、久しぶりに聞くガッセンディーア司教の声。

 レイユと名付けた銀竜の近況や、銀竜の目を使う練習をしていること、そして試しに声を送っていることが語られる。最後にトラン・カゥイが再びホルドウルに行くことが伝えられると、早瀬と竜杜は顔を見合わせた。

 もちろん都は気づかず、フェスが声を伝え終えると大きく息を吐き出す。 

「本当に……マーギスさまだった。銀竜も元気そうでよかった。」

 そうだね、と早瀬も同意する。

「レイユのことは僕も心配だったけど……落ち着いたようで安心した。」

「話に出てきたアデル商会お墨付きの薬師(くすし)……ってルーヴのことか?」と竜杜。

「ルーヴって、アルのお父さん?」

 都はカーヘルの平原で世話になった薬師の家族を思い出す。長男のアルは子供ながら銀竜に興味津々で、それに都のことを『友達』と呼んでくれた。

「ルーヴさんって人間の薬を調合する人だよね?あ、でもフェスのことも診てくれたか。」

 呪術の気に当てられて弱ったフェスの治癒に、一役買ってくれたことを思い出す。

「竜杜が銀竜を仲介したのもあって、最近は銀竜の薬も研究してるようだよ。」

 それに近頃は息子のアルも、銀竜の薬師になると公言しているらしい。

「そんなに銀竜が好きなんだ。でもなんか心強いよね。」

 都はフェスの金色の瞳を覗き込むと、滑らかな背をなでる。

「声を無事に受け取ったと、返事をするべきかな。都ちゃん、送るかい?」

「わたし?」

「うん。マーギスもきっと喜ぶよ。」

 くぅ、とフェスも喉を鳴らす。

 都は小さく頷き、言った。

「じゃあ、そうしようかな。」


 んー、と(さえ)はペンの後ろでプリントアウトを叩いた。

「やっぱ、それなりにかかるのね。」

 そりゃー、と打ち合わせテーブルを挟んで向かい合った三芳啓太(みよしけいた)が苦笑する。

 冴が代表を務める、インテリア設計事務所でのこと。といっても所長以下三名の小さな事務所なので、ワンフロアをパーテーション代わりの棚で区切っただけのアットホームなオフィスである。その入り口近くの打ち合わせテーブルで、二人は先ほどから打ち合わせ中であった。

 三芳は別の紙を示し、

「逆に部数増やせばもちょっと単価安くなりますよ。」

「カンパしてくれた人には配るけど……」

「即完売ってのは無理だけど、内容しっかりしてれば売れると思うけどなぁ。」

「無限大さん以外で委託できるとこあるの?」

「写真関係のショップはいくつか……聞いてみましょうか?」

「そうね。それで目星ついたら数字出すわ。」

「それから現像してないフィルムが出てきたんですよね。」

「フィルム?古いもの?」

 三芳は肩をすくめる。

「現像したほうがいいすか?」

「三芳さんがするの?」

「さすがにラボに出そうかと……」

「ならそうして。もちろん代金はこっちで持つから。」

「了解。それとですね……」

 打ち合わせは続き、結局、三芳が腰を上げたのは一時間後だった。

 彼を見送り自分の席に戻った冴の携帯が、タイミングよく鳴る。

「もっちー?ちょうどいいわ……こないだのカンパの件だけどさ……」

 ”それよか昨日、宅配で本送ったから”

 望月は外にいるらしく、街中の雑踏が背後に聞こえる。

「なによう。こないだ受け取ったじゃない。」

 ”別んとこから出てきたんだけど、あれ、小暮んじゃないかと思ってさ。”

「名前でも書いてあった?」

 ”見りゃわかるって。んで、カンパがどうした?”

 冴はたった今、三芳と打ち合わせた内容を簡単に説明する。

 ”私家版の写真集……そりゃいいね。他の連中も納得するよ。”

 そう望月に言ってもらって、冴はホッとする。細かいことはメールするからと言って通話を切ると、自分宛の荷物が来てないか訊ねる。

 事務担当の菅谷宏枝(すがやひろえ)が会社名の入った書類封筒を差し出すと、冴はその場で包みを紐解いた。

 出てきた数冊の本に「ああ、」と吐息を漏らす。

「これは……どこ探してもないはずだ。」

「なんすか?それ?」

 コピーを取りに来た(はら)がひょいと覗き込む。

 事務所で一番若手……と言ってもすでに三十をいくつか越えている。

「たうと?」

「ブルーノ・タウト?」

 仕切りの向こうからもう一人の所員、横山(よこやま)の声が飛んきた。こちらはすでにアラフォーだが、見た目の若さでは原に負けていない。

「建築史に出てくるだろ!」慌てて出てきた横山が説明する。

「そういやーやったようなやんないような……」

「絶対やってるって。展覧会の図録とか……うわ、この辺、古書でもいい値段ついてますよ。小暮(こぐれ)さんのですか?」

「昔、必要あって集めた資料。引越しのときになくしたと思ったら、朝子(あさこ)が持ち出してたみたい。学生時代の研究室仲間が保管しててくれて……」

 食い入るように頁をめくる横山の姿に、冴は苦笑する。

「そんなに気になるなら、まとめて事務所に置いとくわよ。」

「まじすか?」やった!と拳を突き上げる。

「横山さんのテンションの高さがわからん。」

「桂離宮とか日本古来の建築を評価をしたのが、亡命途中で日本に滞在したタウトなんだよ。」

「桂離宮って京都でしたっけ?」

 そうそう、と横山は頷く。

「高校んときの仲間が京都の大学に行ってたから、転がり込んで何度か見に行ったんだよ。」

「丁寧に扱いなさいよ。」

「了解!」

「なんだか学校の先生みたいですね。」

 皆のやり取りを聞いていた宏枝がくすくす笑う。

「気持ちはわかるけどね。」

 と、電話が鳴った。慌てて宏枝が受話器を取ると同時に、冴は足元に紙切れが落ちていることに気づく。荷物か本からこぼれ落ちたのだろうか。

 屈んで拾い上げる。

 その背後で、元気な声が飛び交う。

「横山さーん、現場からお電話です。」

「うーす。あ、原さっきファックス来てたよな。」

「ええと、この辺に……」

「こっちよこせ!はい、お電話代わりました横山です。」

 プリントアウトを受け取りつつ、受話器を肩に挟んで対応する。

 二十分後、現場との話し合いを終えた横山は、ため息をついて受話器を置いた。

「年末スケジュールきつくなりそうだぞ……って、小暮さんは?」

 さきほどまで背後にいた所長の姿が見当たらず、キョロキョロする。

「なーんか慌てて出てきましたよ。急ぎの用ができたとか。」

「夕方には戻るそうです。」すかさぐ宏枝の声が飛ぶ。

 横山は苦笑した。

「相変わらず、元気な所長だ。んじゃま、それまでにスケジュールまとめときますか。」

予約投稿にて更新です(大丈夫かな?)。次回も火曜日更新予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ