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試練

53


休憩時間が終わりに近づいていた。

お店につくと、私は、以前と変わらない自分になれていたわ。

ちゃんと、ブレーキ、かけられた。

良かった・・・。事故らないで済んだわ。

心に、なんの傷もない。

胸に残るのは、恋の喜びと、幸せな記憶だけ。


その日は、本当に忙しかったから、余計な雑念の入る隙もなかった。

源氏の君も、まるでなにごともなかったように、さわやかに、テキパキ仕事をこなしたわ。


54


その年は、そのまんま暮れて、新年が訪れても、私たちは、友達の域を越えなかった。

バイトが一緒だから、会うには会うし、話もするけど、

相変わらず、源氏の君は、女を抱いて過ごす生活をやめなかったし、

私も、別にそれで構わなかった。

こんな男に本気で恋に落ちた日には、ろくなことがあるはずがないわ。


55


そう・・・。

そんな感じで、春の足音が聞こえてきて、

大学に、新入生たちがやって来て、にぎやかになり、私たちは、二年生になった。

そんなときに、源氏の君に、耳打ちされたのよ。


56


「かなちゃん、僕・・・大変なことしちゃった・・・」

やっぱり、女の話なのね?

私、あきれ返って、

「あんたの話は、聞かなくてもわかるわ!少しは、人生のお勉強をしたら?」

って答えた。

源氏の君は、

「違うんだ・・・。いや、そうなんだけど、そうではない、って言うか・・・」

って、口ごもる。

「なによ!うじうじ、うじうじ・・・。時間、ないわよ?」

「待ってよ、かなちゃん。ちゃんと、お話するから・・・。

あの・・・あのね。僕、女の子、殺しちゃった・・・」

は?!なんの話?!

「それ、どういう意味?!ちゃんと、一から説明しなさいよ!」

「わかった・・・。あのね・・・去年の秋、話した、家庭教師先の女の子・・・。中学生の・・・。

あの子、死んじゃったんだ・・・。首、吊っちゃったんだって・・・」

私、びっくりして、口もきけなかったわ!

自殺?!源氏の君のせいで?!

「僕、家庭教師センターのひとに、その話聞いて、お葬式に行った。

そしたら、お母さんが、泣きながら、思いっきり、僕にお塩を投げつけるので、

お寺に入るに入れなくて、そのまま、帰ってきたの・・・」

源氏の君の唇は、相変わらず、微笑みを浮かべているよう・・・。

でも、その唇は、震えていた。

大きな瞳に、涙が溜まっていたの・・・。

かわいそうに・・・!傷ついたのね・・・。

私、源氏の君に、心から同情してしまったの。

そりゃ、死んだ女の子は、かわいそうだけど、源氏の君は、ショックだったでしょうね・・・。


57


よくよく考えれば、いままで、好き放題やってきて、

大きなトラブルをこうむらなかったことのほうが、不思議だったわ。

でも・・・仏様のバチって、なんてきついのかしら・・・。

「かなちゃん・・・?また、泣いてるよ・・・?」

甘い、優しい声・・・。

「そんなこと、わかってるわよ!あんたの心を思うと、泣けちゃうのよ!」

「かなちゃん・・・大好き・・・。僕も、一緒に泣くよ」

なんなのよ!まるっきり、あべこべじゃない!

でも、私たち、誰もいない休憩室で、抱き合って、わんわん泣いたの。


58


「僕、このまんまじゃいられない・・・。大学を休学して、どこか、一年、海外に行くよ」

「いったい、どこに・・・?」

「わからない・・・。でも、僕、生き直さなきゃ。なにもないところから、人生、やり直す・・・。

だから、今年の、かなちゃんのお誕生日、一緒に祝ってあげられない。

ごめん・・・ごめんね。かなちゃん・・・」

なんだって、こんなときに、ひとの心配してるのよ!

ちょっとは、自分の心配しなさいよ!

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