源氏の君の失態
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次に会ったのは、十月だったわ。
源氏の君から、連絡が入ったの。
「高田馬場まで来てくれない?ちょっくら、聞いてほしい話があるんだ」
彼の声は、相変わらず甘ったるくて、明るかったわ。
私、高田馬場まで行って、源氏の君と、ニューヨーカーズ・カフェでお茶したの。
「やばいことになっちゃったんだ・・・。僕、バイト探さなくちゃ」
「なによ?一体なにをやらかしちゃったの?」
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源氏の君の話は、こんなだったわ。
彼は、ある中学生の女の子の家庭教師をしていたのだけど、
彼女が、すっかり、源氏の君に夢中になっちゃってね。
「抱いて?」って、言うから、なんと抱いちゃったらしいの!
馬鹿ね!誰も、性教育までしてくれ、って、頼んでないのに・・・。
さらにまずいことには、その女の子のお母さんまで、毒牙にかけてしまったらしいのよ!
あほだわ。そのくらい、少し考えれば、まずい、ってわかるわよ。
しばらくは、そんな関係が続いたらしいわ。
でも、ある日、お母さんとセックスしているときに、
娘さんが入って来て、ばれちゃったのよ!
お父さんまで出てきて、相当もめたらしいわ。
結局、お母さんから平手打ち、お父さんからげんこつをもらって、退散したのですって。
そのご両親が、所属している家庭教師センターに、苦情の電話をかけたので、
センターのひとに、ものすごく怒られて、他の家庭の仕事もみんな、干されてしまったわけ。
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「ひどいよ・・・。僕、一生懸命働いたのに、今月、お給料もらえない・・・」
馬鹿じゃないの?!
そういうのを、自業自得と言うのよ!
さすがの私も、びっくりして、あきれ返ってしまったわ。
なるほどね。それで、今日は、唇の脇に、ばんそうこうを貼っているわけね。
「僕、新しく、バイト先、探さなきゃ。
お金がなかったら、女の子とデートできない・・・」
ええ、ええ、そうでしょうとも!結局、あんたの頭のなかには、女しかないのね。
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私の働いている、イタリア料理屋さんでは、ちょうど人手が足りなくてね。
アルバイトの学生を探してた。
私、ため息をつきながら、言ったわ。
「私の働いている店に来る?紹介してあげるわ。
でも、言っとくけど、店の女の子には、絶対に、手を出さないでね!」
そんなわけで、いまに至るまで、私たちは、同じ店で働いているのよ。