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夏の花火

37


その後、しばらくは、源氏の君との連絡は途絶えたわ。

私は、学業とバイトに忙しかったし、

源氏の君は源氏の君で、学業はともかく、バイトとサークル、そして恋に忙しかったに違いないわ。


再び、私たちが出会ったのは、地元の夏祭りだったわ。

源氏の君から、一緒に行かない?って、誘いがあったの。


38


私は、お母さんに着付けてもらって、黒の地に、赤い牡丹の柄の浴衣を着たわ。

髪もアップにして、かんざしをつけた。

玄関を出ると、源氏の君が、にこにこして、待っていた。

「うわあ!綺麗だね!妖艶って言うの?なんか、セクシーだ。惚れちゃうよ!」

あんたのそのセリフは、聞き飽きたわ。

歩いて、近所の夏祭りの公園へ。

その途中、源氏の君は、私のうなじに、いきなりキスをしたの!

「な、なにするのよ!馬鹿!」

「だって、かなちゃんのうなじ、透き通るように白くて、色っぽかったから・・・」

言い訳になってないわよ!

言い寄る女性が、やまほどいるのに、私にまで、リップサービスは結構だわ!


39


公園には、すぐに着いた。子供たちとカップルでいっぱいだったわ。

朱色に連なる提灯の灯り、的屋さんの元気な声、道行くひとびとのざわめき、笑い声・・・。

私たちも、自然に手をつないでいた。

金魚すくいをやったり、リンゴ飴を買ったり。

源氏の君ったら、金魚すくいすら、上手なのよ。

私の紙は、すぐに破けてしまったのに、彼は、ひょい、ひょい、と、次々と金魚を捕まえるの。

金魚でさえ、源氏の君の色気にやられちゃうのかしら。

感心を通り越して、飽きれてしまったわ。

彼は、結局、八匹も捕まえて、的屋さんに言って、四匹ずつ、ビニール袋に入れてもらったの。

「はい、これ、かなちゃんの分」

源氏の君は、金魚の袋をひとつ、私にくれたわ。

「ありがとう。まったく、あんたの才能には、ほんと、飽きれるわ」

「え?どういう意味?」

「なんでもないわ。さ、行きましょ」

私たちは、リンゴ飴をなめながら、公園の少し高台へ登ったの。


40


ここって、穴場なのよ。

ドーン、って上がる花火が、一番綺麗に見える場所。

あまり、知られてないから、ひとけもない。

岩に腰かけて、ふたり、真っ暗な虚空に咲く、花火を楽しんだわ。

綺麗だった。

私の好きなのは、金色の、糸になって、降りかかるような花火。

「知ってる?花火って、青色のやつが一番、値が張るんだよ?」

ろくでもないこと、知ってるのね。

花火は、使う金属によって、色が変わるの。

源氏の君は、いろいろ、金属の名前を教えてくれて、

赤色はなに、青色はなに、と説明してくれたけど、もう忘れてしまったわ。


41


やがて、祭りも終わり。

花火も終わって、的屋さんが、片付けを始め、ひとも散り始めたわ。

私も、帰ろうと思ったら、源氏の君が、

「大きな花火も素敵だけど、僕が好きなのはこれなんだ」

って、ポケットから、線香花火を出したの。ライターも。

ふたりで、線香花火で遊んだわ。

確かに素敵ね・・・。

チリチリチリチリ、といって、小さな金色の火花を散らす、はかない花火。

オレンジ色の玉が、大きくなって、ぽとん、と落ちる。

「ねえ、競争しようよ。長く花火を落とさなかったほうが、長生きできる」

「いいわ。面白そう」

一緒に、花火に火をつけたわ。

でも・・・不思議ね。

私の線香花火は、とっても長生きしたのに、

源氏の君のは、あっという間に落ちてしまったの。

ただのゲームよ?お遊びだわ。

でも・・・私、胸騒ぎがしたの。

源氏の君を、失ってしまう・・・?

彼は、早く死んでしまうの・・・?

アフロディーテのことが、ライトのことが、脳裏をよぎる。

「やあ、かなちゃん、ずいぶん長生きだ!この分だと、百歳まで生きそうだね」

源氏の君は、笑ったけれど、私、笑えなかった。

「源氏の君・・・?長生きして。絶対に絶対に、長生きして・・・」

「大丈夫だよ、僕、すんごい健康だもの」

源氏の君の笑顔に、なんだか、涙が溜まってしまったわ。

源氏の君は、私のまぶたにキスをしてくれたの。

しずくが一滴、頬を伝う。

「泣かないで。こんなの、お遊びだ」

「そうだよね。お遊びだよね」

ふたり、手をつないで帰ったけれど、私はその晩、眠れなかったわ。

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