高校時代
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源氏の君は、私に無邪気になんでも話したから、
私は、中学、高校時代の、彼の歴々の彼女を、全部知ってるわ。
印象的だったのは、高校のクラスメイトの北條さんね。
ある日の放課後、北條さんは、私の机の前に立って言ったの。
「かな子さん、源氏の君の幼ななじみなんです
ってね」
「そうだけど・・・」
なんで、北條さんが、裕を、そして、源氏の君というあだ名を、知っているのか、わけがわからなかったわ。
とにかく、北條さんは、私を見下ろして、
「勝ったわ!」
と言ったの。
「なにが?」
わけがわからない。
「私、昨日、源氏の君と、めくるめく快楽の世界とやらに落ちてみたの」
・・・。
もしかして・・・。
「まさか・・・彼と寝た・・・ってこと?」
正直言って、私は複雑だったわ。
だって、源氏の君に、他に五人も彼女がいることを知っていたから。
どこで知り合ったか知らないけど、とにかくやばいわ。
「気をつけたほうが、いいんじゃないかしら。
彼は・・・あなたを愛してると言ったの?」
「もちろんよ!」
北條さんは、細い目を見開いて即答した。
不自然なほど、返事が速い。
「私だけを愛すると言ったわ!こうやって、首筋に吐息を吹きかけて・・・ああ・・・愛してる・・・君だけを愛すると誓う。
僕と一緒に、めくるめく快楽の世界に落ちてみないか・・・?」
言いながら、北條さんは、私を背中から抱き、首元に吐息を吹きかけて、ゆっくりと愛おしむように、私の頭を抱いたの。髪をくしゃくしゃに掻きあげてゆく・・・。
ああ・・・、いい、いいわ・・・。落ちてみたい・・・。
ほんとにあいつ、馬鹿やろう・・・。
「と言ったのよ!」
はっ。
我に返ったわ。
「な、なら・・・私が口を出すことではないわ。
気を付けて・・・」
どぎまぎしながら、急いで髪を直すと、教室を逃げ出た。
ったく、たち悪いわ。
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もちろん、私は口を出した。源氏の君に意見したの。
「北條さんは、私のクラスメイトだわ。軽い気持ちで手を出すのはやめてよ」
「なんで?今までだって、クラスメイト抱いてたじゃない」
「それは、中学校が二人とも一緒だったからじゃない。
高校は別々。彼女は、私のクラスメイトだわ」
「わかった」
言われて、逆に不安になる。
「わかった・・・って、どうするの?」
「かなちゃんは、心配することないよ。大丈夫。僕に任せて」
源氏の君は微笑んだけれど・・・。
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もちろん、大丈夫などではなかったわ。
次の週、北條さんに、屋上に呼び出された。
北條さんは、
私のシャツの首元を思い切りつかむと、
身体をフェンスにたたきつけた。
「あんた・・・なにしたのよ?」
キスをするほどに近く、睨まれる。
「なに・・・って?」
追い詰められて、おびえた目を見開く。
「源氏の君が、『ごめん、もう連絡しないで』って・・・。あんた、一枚かんでんでしょ?!」
馬鹿・・・。あんの馬鹿やろう・・・。
胸で荒く息しながら、瞳を閉じる。
「いいわ・・・」
「あ゛?!」
「殴って、いいわ・・・」
「ふんっ」
鼻で笑われた。
「上等だね!ご覚悟!」
ガシャーン。
フェンスに再び、身体をたたきつけられて、そのままずり落ちた。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ。
大股で去っていく足音。
最後に扉がバタンッ!と閉まると、静かになった。
くっ。
不覚にも、涙が滲む。
「ほらあ・・・あんたのせいで、みんな泣いてるじゃない・・・ばか・・・ばかあ・・・ああん・・・」
大空に顔を向けて、わんわん泣いたわ。
・・・って、
ま、まあ・・・そういうこともあったわね。




