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高校時代

16


源氏の君は、私に無邪気になんでも話したから、

私は、中学、高校時代の、彼の歴々の彼女を、全部知ってるわ。


印象的だったのは、高校のクラスメイトの北條さんね。

ある日の放課後、北條さんは、私の机の前に立って言ったの。

「かな子さん、源氏の君の幼ななじみなんです

ってね」

「そうだけど・・・」

なんで、北條さんが、裕を、そして、源氏の君というあだ名を、知っているのか、わけがわからなかったわ。


とにかく、北條さんは、私を見下ろして、

「勝ったわ!」

と言ったの。

「なにが?」

わけがわからない。

「私、昨日、源氏の君と、めくるめく快楽の世界とやらに落ちてみたの」

・・・。

もしかして・・・。

「まさか・・・彼と寝た・・・ってこと?」


正直言って、私は複雑だったわ。

だって、源氏の君に、他に五人も彼女がいることを知っていたから。

どこで知り合ったか知らないけど、とにかくやばいわ。


「気をつけたほうが、いいんじゃないかしら。

彼は・・・あなたを愛してると言ったの?」

「もちろんよ!」

北條さんは、細い目を見開いて即答した。

不自然なほど、返事が速い。

「私だけを愛すると言ったわ!こうやって、首筋に吐息を吹きかけて・・・ああ・・・愛してる・・・君だけを愛すると誓う。

僕と一緒に、めくるめく快楽の世界に落ちてみないか・・・?」

言いながら、北條さんは、私を背中から抱き、首元に吐息を吹きかけて、ゆっくりと愛おしむように、私の頭を抱いたの。髪をくしゃくしゃに掻きあげてゆく・・・。

ああ・・・、いい、いいわ・・・。落ちてみたい・・・。

ほんとにあいつ、馬鹿やろう・・・。


「と言ったのよ!」

はっ。

我に返ったわ。

「な、なら・・・私が口を出すことではないわ。

気を付けて・・・」

どぎまぎしながら、急いで髪を直すと、教室を逃げ出た。

ったく、たち悪いわ。


18


もちろん、私は口を出した。源氏の君に意見したの。


「北條さんは、私のクラスメイトだわ。軽い気持ちで手を出すのはやめてよ」

「なんで?今までだって、クラスメイト抱いてたじゃない」

「それは、中学校が二人とも一緒だったからじゃない。

高校は別々。彼女は、私のクラスメイトだわ」

「わかった」


言われて、逆に不安になる。

「わかった・・・って、どうするの?」

「かなちゃんは、心配することないよ。大丈夫。僕に任せて」

源氏の君は微笑んだけれど・・・。


19


もちろん、大丈夫などではなかったわ。

次の週、北條さんに、屋上に呼び出された。

北條さんは、

私のシャツの首元を思い切りつかむと、

身体をフェンスにたたきつけた。


「あんた・・・なにしたのよ?」

キスをするほどに近く、睨まれる。


「なに・・・って?」

追い詰められて、おびえた目を見開く。

「源氏の君が、『ごめん、もう連絡しないで』って・・・。あんた、一枚かんでんでしょ?!」

馬鹿・・・。あんの馬鹿やろう・・・。


胸で荒く息しながら、瞳を閉じる。

「いいわ・・・」

「あ゛?!」

「殴って、いいわ・・・」

「ふんっ」

鼻で笑われた。

「上等だね!ご覚悟!」


ガシャーン。

フェンスに再び、身体をたたきつけられて、そのままずり落ちた。

ダッ、ダッ、ダッ、ダッ。

大股で去っていく足音。

最後に扉がバタンッ!と閉まると、静かになった。

くっ。

不覚にも、涙が滲む。

「ほらあ・・・あんたのせいで、みんな泣いてるじゃない・・・ばか・・・ばかあ・・・ああん・・・」

大空に顔を向けて、わんわん泣いたわ。


・・・って、

ま、まあ・・・そういうこともあったわね。

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