幼き日々
8
中学二年生までの間、ライトの存在は、私たちの未来を、明るく照らしてくれた。
けど、
彼もまた、死んだわ。
その夏、馬場から抜け出したライトは、転落して、岩に落ち、骨折した。
骨折したライトは、銃殺するしかなかったわ。
もちろん、ライト自身の幸せのために。
でも、そんなことが、中学生にわかると思う?
理解はできても、判らないわよ。
9
その頃から、私たちは、互いにどことなく、距離をとるように、なっていったの。
同じ幼稚園、同じ小学校、中学校に通ったけど、
高校受験で、源氏の君は、男子校を、私は女子高を受験した。
無事、合格したわ。
でも、やっぱり、大きくは、離れられないのね。
私、彼を見失うのが怖かった。
たぶん、源氏の君も。
受かった高校は、姉妹校みたいなもんだったわ。
同じ市内で、仲が良い高校同士、交流も盛んだったの。
高校に行く電車ですらも、私たちは一緒だった。
10
源氏の君は、文芸部に入っていて、私は軽音楽部に入った。
源氏の君が、
「かなちゃん、僕の小説読んでよ!」
って言うので、私は、彼の小説や詩は、欠かさず目を通していたわ。
村上春樹風のファンタジー。
文章が繊細で、ロマンティックで、素敵だったわ。
しかも、源氏の君の小説や詩は、タイプじゃなくて、手書きなのよ。
「そのほうが、落ち着くんだよね」
って、言っていたわ。
彼は、すごく字が上手だったから、余計素敵だったわ。
彼のペンネームは、「光源氏」。
もしも、私じゃなくて、源氏の君がこの小説を書いていたら、
もっと魅力的だったでしょうね。
源氏の君は、私の軽音の演奏を聴きに来てくれた。
私は、ドラムの担当だったわ。
男勝りに、思いっきりドラムを叩いて、女子高時代は、女の子によくモテたわ。
11
実は、源氏の君は、私の初めての男なの。
まだ、小学校五年生だったわ。
私、まだ生理も始まってなかったのよ?
ある日、私たち五年生は、体育館に集められて、性教育を受けたの。
でね、一緒に家に帰りながら、源氏の君が言うことには、
「ね、やってみない?セックスってやつ」
ですって。
馬鹿ね。ほんと、馬鹿!
先生の話を、一体どう聞いてたのよ!
12
私の家の両親は、共働きだったから、昼間は誰もいないのよ。
で、私の部屋で、やってみたの。
セックスってやつ。
もちろん、源氏の君だって、初めてだったわ。
でも、ぞくっとしたわ。
彼が、初めて首筋にキスしてくれたとき。
全身を稲妻が走るように、感じちゃって。
あの、甘やかな、魅惑的な体臭・・・。
いっくら、頭では、源氏の君は女ったらしだって、わかっていても、
惚れないわけにいかなかったわ。
どこで覚えたのか、彼は、愛撫でさえ、とても上手だったわ。
こういうのを、天性の才能というのね。
無駄な才能だわ。
13
とにかく、私ったら、すっかり、彼の色香に酔っちゃって。
でも、まあ、いざ、というときに、ひどい激痛が走ったのは確かね。
「い、痛った!!なにするのよ!この馬鹿男!そんなに激しく動かないでよ!」
私、枕で、裕の頭をなぐったわ。
「ごめんね、ごめんね!かなちゃん」
って、源氏の君は言ったけど、さすがにチェリーボーイね。
「う、うわあ!気持ちいい・・・!かなちゃん、僕・・・!」
って叫んで、あっという間に果てたわ。
14
私は、血のついたシーツを、急いで洗ったの。
源氏の君は、私を愛していたわけでもなんでもなかったわ。
ただ、セックスがしてみたかっただけよ。
なんだか、ことが終わった後、むなしくてね。
いま、私は、大学二年生だけど、それ以来、男のひとに抱かれたことはないわ。
15
でも、だからこそ、あんなにフェロモンまき散らしてる裕に惚れずに、
男女の友情を、保って来れたのだとも、言えるわね。
一度は一線を越えなければ、性別を超えた友情は生まれない。
少なくとも、私はそう思ってるわ。