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旅立ち

59


源氏の君は、とっとと、パスポートを取って、ワーキングホリデーの手続きをしたわ。

パスポート用の証明写真は、六枚写真がついていたから、私、

「一枚ちょうだい?」

って言って、もらったの。私

は、その写真を、お財布に入れた。


60


バイトも辞めて、出発の当日。

彼は、ボリビアに行くことに、決めたらしかった。

車で、成田空港まで、送ってあげたわ。

手続きをみんな済ませて、そう、源氏の君の荷物は、大きな手提げかばん、一個きりだったわ。


私たち、空港のカフェでお茶したの。

そのとき、源氏の君は、こんなことを言ったわ。

「僕、かなちゃん以外の女の子に、好きだとか、愛してるとか、言ったこと、一度もないんだ」

びっくりしたわ。

意外だった。

「じゃ、じゃあ、女の子が、愛してるって言ったら、なんて答えるの?」

「『ありがとう』・・・」


61


やがて、出発の時間が来た。

「手紙、書くよ」

「う、うん」

私、源氏の君に、新品のウォークマンを渡した。

「このなかに、『いきものがかり』の曲、全部、入れておいた。寂しくなったら、聴いてね」

「ありがとう!かなちゃん、大好き!」

源氏の君は、私をハグしたわ。

私も、ぎゅっと、抱きしめ返す。

このぬくもり、香り・・・忘れない・・・。

「もう、行かなくちゃ・・・」

「そうね、気を付けて・・・」

別れがたかったわ。でも、時間だった。

手を振りながら、私たち、別れたの。

また、「キラキラ・トレイン」の曲が、頭のなかで、鳴りだした。

「きらきら、きらきらあ」・・・。


62


やがて、ひとりぼっちのお誕生日。

私、ひとりで、東京タワーを観に行った。

やっぱり、綺麗ね・・・。泣けるわ・・・。


源氏の君のお誕生日の日には、私は、ガジュマルの木を買って、

お隣に行って、彼のお母さんに渡したの。

「源氏の君の部屋の、日当たりのよい場所に置いて、ときどき、お水をあげてください」

源氏の君のお母さんは、

「かなちゃん、ありがとう。きっと、裕、喜ぶわ」

と言って、涙ぐんでいた。


63


源氏の君の、私宛の、お誕生日おめでとう、の手紙は、二か月も遅れて届いたわ。

彼は、ボリビアの湖の近くの家にステイしていて、漁の手伝いをしているのですって。

「夜明け前に、湖に出て、昼には、仕事終わっちゃうんだ。

夜は、たき火を囲んで、家族みんなで、お酒を飲みながら、

ボリビアの楽器で、自分で作った歌を歌う。

僕も、かなちゃんの歌を作って、日本語で歌ってるよ。

湖の朝日も、そりゃ、素敵なんだ。

いつか、かなちゃんに見せてあげたいな」


手紙には、住所が書かれていなかった。

返事を書きたかったけど、できなかったわ。切ない・・・。

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