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真冬のレインコート

掲載日:2013/01/04

初短編です。誤字、脱字、読みづらい文章かと思いますが、何卒、ご勘弁下さい。

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「からっぽのまんまでいいんだよ Inside out」 by Syrup 16g

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  鈍い衝撃音。何かが壊れる感じ。あちらには痛みがあっても、こちらには差ほど無い。

和磨が投げた野球の硬球は、ゴミ収集場所に群がっていた烏の一羽に"ボォン"という擬音と共にぶつかった。

 和磨は大層嬉しがっていた。こんなの唯の遊びだ。蟻の行列を踏み潰すことの延長にすぎない。それでも僕は笑っていた。

乾いた笑い方だったと思う。でも、高校生の僕らに"笑い方"なんて理解できなかったし、表現の数なんて数えたこともない。知識の量だって高が知れている。むしろそこから外れている奴は、あの烏みたいな扱い方をされるんさ。哀しいことに。

 でも、それは至極、当たり前のこと。道徳の授業と同じで、善いこと、悪いこと(世間的な意味で)の判断がきっちり決められるように。学校という、教室という社会でどんな風に振る舞い、どんな態度をとれば、自分がどんな立場にいられるかが経験で分かるように。和磨という少年がどんな立場の人間か、経験と肌を突き刺すような冷たい感覚で分かるように。

 僕たちが此処で学ぶことなんてその程度のことさ。要するに、政治のやり方を肌身で学んでいるんだと、夕暮れの教室の中で西日を眺めながらふと思った。

 そんな時だった。日和が放課後の教室に入ってきたのは。彼女は居残りの自主勉強をしている他の生徒たちには目もくれず、僕のところへ一目散に、それでも歩く速度は一定に保ってやってきた。彼女は少し悲しそうな目をして一言告げた。

 「春希くんは、そういうことする人じゃないと思ってた。」思春期だからこそ見せられる、そんな悲しそうな目をして、彼女は哀しそうに告げていった。

 下校途中の帰り道。彼女の言葉が脳内を反復して、僕の足取りを揺らしている。いつもの帰宅時間よりも15分くらいは遅れていると思う。それだけ、人の言動というものが他人に与える影響というものを具体的な時間経過とともに教えてくれた貴重な体験だった。今日の物理の小テストなんかよりよっぽどために為ったと、独り訳も無く愚痴を吐いた。

 

 それから彼女と口を交わすことは殆どなかった。というより、この前のことだって口を交わすというほどの事ではなかったし、日常的に彼女と口を交わすほどの仲でもなかったのだが。何故そんなふうに思ったかといえば、時より彼女と目が合うその刹那が、僕にとって『彼女と口を交わす』程のことに思えてしまった原因なのではないかと思えてしまったからで。

 

 再び、時は過ぎ、1週間後、具体的には8日後、彼女は亡くなった。正確には亡くなったのは昨日なので、"彼女との出来事"からは1週間後ということになる。なんでも、トラックに轢かれそうになった猫を助けようとして、路上に飛び出した彼女は、猫を抱えたまま、その場で蹲ってしまいドライバーは彼女を避け切れなかったという話だ。クラスの反応としては素直に涙する生徒もいれば、「今時、そんなドラマみたいなことあるのかよ~」と彼女の死をまだ受け入れられていない生徒で半々くらいだったと思う。身近にいた生徒がこの学校生活から唐突に席を空けるなんてこと、風邪か急用とかで学校を休むのと差ほど変わらないくらいの感覚なのだ。少なくとも最初の1日2日は。少しだけ卒業アルバムが悲しくなる。

 

 その夜、夢を見た。夢だと思われる瞬間を感じたときにそれを夢だと思えたのだから、それは明晰夢なのかと思った。その夢で僕は烏になっていた。たぶん、あの烏だ。そう直感で思えたのは、いまだにあのことを引きずっていたことと、"彼女との出来事"があったからだと思う。思考がぼやけながらも、直ぐにある視線に反応する。その視線の先にいたのは和磨だった。「へへぇ~ん。殺っちまおうぜ。」あのセリフは覚えがあった。その直後に起こるであろう事も。

 僕の読みどおり、和磨の指先から放たれた野球の硬球はものの見事に僕の(烏の)身体に当たった。本気で痛かった。昔、和磨にプロレスごっこと称して、横腹にくらったミドルキック以上に激痛が走った。あの時は泣きそうになる気持ちを抑えて、半笑のリアクションをとるのに精一杯だったのだが、今はそれどころではなかった。最早、リアクションなどという考えすら浮かび上がらず、激痛の後には眩暈と嘔吐感、例え夢だと分かっていても、痛みはとんだ前触れをつれてやってくるのだ。僕の感じた痛みは僕の経験に基づくものでしかない。実際に烏が感じる痛みなんて理解できないし、この痛みだって、ミドルキックの時の身体的な痛みから、インフルエンザの時なんかに感じる眩暈や嘔吐感など、僕の経験に基づく痛みを脳内のデータベースから引っ張り出してきたに過ぎないのだから。

 「な、なんで、こうなるかな・・・」ニヒルな笑いを心の中で浮かべながら、その原因を何となく考えていた。そんなことはあの時、和磨の隣で乾いた笑いを浮かべてた時から気付いていたはずだった。だけど、あの時は"気付くことに、気付かない"振りをしていたんだ。何せ僕には生活が掛かっていたんだ。高校3年間はそう安く捨てられるものじゃない。僕だって精一杯だったんだ。

 なのに、あそこにいるアイツは違ってた。和磨の隣にいるアイツは乾いた笑いなんて浮かべてすらいなかった。僕を(烏を)痛ましいげに見るその目は悲しみを帯びていた。アイツはそんな目をする奴じゃない。アイツは至って冷静で、その状況から、その場にあった態度をとる奴なのだから。アイツはそんな、そんな正直な目を決して人には見せなかったじゃないか・・・

 

 夢から覚めたときには、背中にびっしょりと汗をかいていた。首筋にもべっとりと、そして、開かれた瞼のその先からはうっすらと涙が流れ出していた。目に映る映像は滲んでいた。それでも、その映像と反して脳内には先ほどの明晰夢が茫然と浮かんでいた。そういえば、あの時、和磨の隣にはもう一人、ぼやけた姿で立っていたのだ。彼女が。そう、あの時の日和が。僕が無意識下に隠していたあの正直な目を、彼女もして・・・

 「なんだよ・・・そういうことかよ。そんな目してないで、はっきり言ったらどうなんだよ・・・」


 

 死にたくなる火曜日、それでも教室に残る、決して埋まらない空席を嫌でも見つけてしまうと、死んでもいいって、どうしようもなく思えてしまうんだ。正直な涙に目を潤ませて。

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