【後編】
現在の時刻は3時。龍実中との試合が終わってから、約1時間がたった。
そして、アナウンスが入る。
「玉聖中学校、花泉中学校の選手は、11・12コートに入ってください。」
みんなは、それぞれの持ち物を持って観客席から試合のコートに下りていく。
今回のオーダーは、さっきと同じ。相手のこれまでの試合の組み方から、相手のエースは2番にくると分析した。
相手のエースは蛇駆真でも勝てないから、2番にはあえて鋼平を入れさせてもらった。ハズレ役だが彼は自ら引き受けた。あいつには悪いけど、ここは勝が優先だ。
相手チームは、もう待ていた。キャプテン同士のオーダーの確認。そして、整列。
「これから、玉聖中学校対花泉中学校の試合を始めます。気をつけ、礼!」
「「お願いします!」」
試合が始まった。考えに考えたオーダーは、幸運な事に上手く嵌ってくれた。ヤッパリ鋼平は負けてしまったけど、蛇駆真は3対2でギリギリ勝てた。蛇駆真から2セット取るとはたいしたものだ。
3番のダブルスは、いつもの嵩本遅田ペア。今回も持ち前の粘り強い卓球で、勝利を手に入れてくれた。
4番目は俺。相手は花泉中の3番手で、田村って言うやつだった。特筆する事も無くストレート勝ち。どうやら、相手の一番下の選手だったみたいだな。
結果は3対1で俺達玉聖の勝利。今回は、読みがあたってくれたおかげで、結構楽に勝ててしまった。
15分ほどの休憩をはさんで、決勝トーナメント第二回戦が始まる。相手は事浦中。県大会の団体戦予選で、4位になった学校だ。ここは、派手に突出した選手がいない代わりに、全体のレベルが結構高いのが特徴で、顧問の岩杉先生によれば、極端な話、俺たちと虎斗浦中との試合は、
「全員勝つか全員負けるか」
といった厳しい試合になるのだと言った。岩杉先生は、とても卓球に詳しく、同時に上手い。前任の先生がなぜか何も言わずにやめてしまってから俺たちにの指導をしてくれている。先輩たちがこの大会で3位になれたのも岩杉先生の力は大きかった。その岩杉先生が言っている。これは気合をいれなくちゃいけない。
今回のオーダーはこうだ
1番 守童 拳太
2番 御傍 蛇駆夜
3番ダブルス 嵩本 龍矢・ 遅田 翔騎
4番 雄野 舞姫
5番 浜星 鋼平
先に俺と蛇駆真と俺がとって、あと1セットを3人はのうち誰かがとると言う形だ。
試合前の練習が終わり、ついにゲーム(試合)が始まった。俺の隣では、蛇駆真がゲームをしている。隣のゲームは頭から放り出し、俺は、自分のゲームに集中する。
1セット目は今回も様子見だ、蛇駆真が、逆横回転のサーブが効くのだとアドバイスをくれたから試してみる。逆横フォア側へ。おお、見事に嵌った。ついでにフォア側へのロングサーブ。よし、これも効くな。相手は、フォア側のサーブが苦手のようだ。途中まで負けていたが、相手のミスでドドっと点が入ったのでそこから逆転して、いい流れののままこのセットを取った。
2セット目は相手もだんだん調子が上がってきた。現在の点数は9対9ここで俺が連続で取れば俺の勝だ。サーブは俺。ここで、あの逆横を使った。左回転が強くかかったボールは、相手のラケットに当たってネットに届く前に相手コートに落ちた。俺の得点だ。
10対9
もう一本俺のサーブ。俺は思いっきり下回転のかかったロングサーブをバック側に出した。
相手は強引にバックドライブで返してくる。しかし緊張のせいか、ボールはネットにあたり、俺のコートには落ちなかった。
11対9
このセットも俺の勝だ。ああ、危なかったな。もし俺のサーブじゃなかったらどうなっていたことか。ラケットを台に置いて、自分のチームの場所にいき、飲み物を口に含みながら、よし!後もう1セットこのまま取ってやる!と気合を入れなおす。
第3セット。相手の先制攻撃にあって、序盤は崩れかけて今は3対6、ここは絶対に負けられない。昨日も2セット取ってからの気の緩みで、負けてしまった。あれと同じ事は絶対に繰り返さない!
心のなかで誓い、相手の弱点を思い出す。逆回転のサービス、それに急にフォアハンドへボールがいった時の対応の遅さ。これを中心に試合を組み立てていく。そして
9対9
やっと追いついたサーブは相手。相手の下回転サーブ。俺は回りこんで渾身のドライブを相手のフォア側に向けて放つ。ボールはきれいな孤を描き相手のコートに入る。
「っしゃああ!」
俺の得点。後一点、後一点で俺が勝てる。
相手のサーブ。今度は俺と同じ逆横サーブ。ふん自分が取れないから俺がそのサーブを取れないとでも思っているのか。そのサーブは蛇駆真のおかげで余裕で取れるんだよ!!
俺はテイクバックを取ってバックで思いっきり振りぬく。
ブンッ...コン。
地味な音を立てて、ボールは相手コートにはいるが、相手は一歩も動く事ができない。
「しゃあああああぁぁぁああ!!!」
これでこのゲームの勝者は俺に決定した。
チームの応援席に行くと蛇駆真も余裕で勝って帰ってきていた。「パンッ」2人でタッチする。ここまでは俺たちの作戦は、上手くいっていた。ここまでは。
次は3番のダブルスと4番の舞姫のゲームだ。もちろんダブルスは、嵩本遅田ペア。
だがここで大きな誤算が出てしまった。舞姫の相手が強すぎたのだ。相手は見たことが無いから1年生だと思うが、メチャクチャ強い。多分蛇駆真とやっても勝てるんじゃないかってレベルだ。
結局、舞姫は負けてしまった。悔しがる舞姫に声をかける。仕方が無い、あんな強い奴がいっるとは思わなかった。しかも誤算はここでは終わらなかった。なぜか分らない、ダブルスまでもが負けてしまったのだ。粘りの卓球が持ち味の龍矢たちが負けたのだ、きっと完全な実力があったのだ。
何はどうあれ勝負は、鋼平にまかされた。その鋼平の相手は、カットマンの浅井君。前に一回やったことがあるが、3対2でギリギリ勝てたくらいだ。あの時は調子がよかったから勝てたが、もし調子が悪ければ負けていたかもしれない。
最後の試合が始まった。
相手がカットしてきたボールを、一球一球丁寧に返していく。そして隙を突いてドライブ。返ってきた高いボールをスマッシュ。
“パァーン”
「しゃあああああ」
決まった。1セット目は鋼平が取った。適度な緊張と、力の入れ具合の調整がしっかりできている。
ゲームが再開する。今度も相手のボールを丁寧に丁寧に返していく。そしてドライブ。スマッシュ。
カットマンを相手にするときには、この方法しかない。打ち急いではいけない。打ち急ぐと相手のペース身巻き込まれてしまうカットマンは、ドライブをカットする練習ばかりしているだからドライブを打っても打っても返ってくるそしてこちら側がミスをしてしまうそして負けてしまうのだ。これは、カットマンの基本的な戦い方だ。だからこれに飲まれないように、ツッツキをする相手の下回転をひたすらツッツキをする。そして、あまいボールが返ってきたら、一発で決める。もし返ってきたらまたツッツキをする。こうして、またあまいボールが返ってきたらドライブをするのだ。もっと俺たちのドライブが強ければこんなことしなくてもいいのだが、それには、かなり高度な練習が必要となるから無理である。 (だいたい玉聖にカットマンはいない。)
敵と味方の歓声が交互に聞こえている。今は第4セット。セットポイントは1対2で鋼平が負けている。点数は7対7押されているけど鋼平粘っている。「頑張れ!」「まだいけるぞ!」と声をかけ味方ベンチも応援する。8対9。
丁寧に、丁寧に、鋼平は返していく。10対10。追いついた!
ここからだ、相手も鋼平も緊張している。サーブは鋼平。
鋼平がトスを上げる。落ちてきたボールとラケットが重なる。相手の真正面に飛んでいくのはナックルボールだろう。よし、あれはカットで取るのは難しい。相手はカットをするか、祖もまま打つかを迷ってしまい、得点は鋼平にはいる。
二球目、今度はバック側への強烈な横回転サーブそれもメチャクチャ浅く。返ってきたボールは、適度に高い最高のスマッシュボール。「バシン!」強烈な音と共に、最高のスマッシュが相手のコートに突き刺さる。
「ッシャァァァァアアア!!」
鋼平がこのセットを取った。これでセットポイントは2対2だ並んだ。あと1セットでとで3位確定だ!
「集中な、集中。お前なら行ける。絶対にいける。サーブとレシーブを考えてしっかりやってこい!」
鋼平に声をかける。ムードはいい。このまま押し切りたい。
運命の最終セット。
丁寧に丁寧に、一球一球。鋼平は返していく。
パンッ..........!?
相手が突然打ってきた。これまではカットするだけだったのに......。
鋼平!崩れないでくれよ。今回だけでいいから。鋼平はこういった変化に弱い相手が攻め方を変えてくるとなかなか勝てない。予想できていたことなのに。一言言っておけばよかった。4対6。点数はどんどん動いていく5対8そしてどんどん追い詰められていく。6対9このまま負けてしまうのか。
「っしゃああ」
鋼平の叫ぶ声。鋼平はまだあきらめていない。俺たちがあきらめてどうするんだ。
「いけぇ!まだまけてねーぞ!」
「あきらめんな、まだいけるぞ!」
みんなと一生懸命応援する。頑張れ。勝てる。お前なら勝てる。先輩と一緒の銅メダルまであと少し、あと一歩だ!
「いけえええええええええええええええ」
「「ありがとうございました」」
勝負は着いた。俺たちは頑張った。持てる力のすべてを出した。だけど、だけど勝てなかった。
2対3
俺たちは負けた。完敗だ、実力が足りなかったのだ。最後の大会。先輩たちとの思い出の大会だった。
ああ、勝ちたかったな。
歓声の聞こえる体育館で、みんなはただただ呆然と立ちすくしていた。
つまらない文章、最後まで読んでくださってありがとうございました。
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