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アコルデ

 フィルロスとアマディアだが、四六時中一緒という訳ではない。

 初めて訪れる場所や治安の悪い場所ではフィルロスはアマディアに付きっ切りだが、それ以外では自由に行動させる事も多かった。


 その日もアマディアは一人で街中を散策していた。


『ああ、いと高き場所から我らを見守る主よ……』


 歌声が聞こえたのは人気の少ない倉庫街を歩いている時だった。人の少ない所には近寄るなとフィルロスから言われていたアマディアだったが、つい好奇心に負けてしまったのだ。

 響いたのは青い空に溶け込むような、よく通る声だった。男性にしては高いが、女性と判断するには些か低い。

 それなら自分のような子供かなと、アマディアは考えつつ歌声の主を探した。




 歌っていたのは金髪を短く刈り込んだ少年だった。

 予想通り年齢はアマディアと同程度か。


「その寵愛は全てを包み……」


 アマディアの存在に気付いたのか、少年は歌うのをやめて視線を彼女の方に向けた。


「何だよ、チビ」


 負けん気の強そうな少年だった。

 眉を微かに歪ませ、彼視点で突然現れたアマディアを威圧する。


「チビ……」


 一方のアマディアは小声で繰り返す。

 両者の身長は同じくらい、むしろアマディアの方が大きかったのだ。

 ただ、それを指摘しても意味はなさそうだし、男の子は色々な意味で背伸びをしたがるとアデルから聞いていたので、アマディアは無言を貫いた。


「何か用か?」

「えっと、歌が聞こえたから気になって」

「ふーん」


 僅かに警戒を見せながらも少年は倉庫を背にして路地に座り込む。


「邪魔なら……」

「ちょうど休憩しようと思ってただけだよ」


 ぶっきらぼうに言い放ち、


「座れよ。見下ろされると気分わりぃ」

「あ、ごめんなさい……」


 アマディアがおずおずと座るのを確認すると、おもむろに口を開く。


「……ん、その、さっきの歌はどうだった?」

「良かったと思う。透き通るような綺麗な歌声だったよ」

「そうか!」


 歌を褒められ、少年は気分を良くしたようだった。

 自分も褒められた時は同じ反応だったのだろうかと、アマディアは小さく笑った。


「俺はコンスタンティン・シュタム。スタントでいい。お前は?」

「私はアマディア」

「何か音楽やってるのか?」

「うん。色々チャンレンジしてるけど、今はフルートとか」

「フルートかぁ。興味あるけど慣れない事やって歌の調子崩したら嫌だしな」


 喜々として話すスタントとは対照的にアマディアは内心で緊張していた。

 故郷にいた時は別として、旅をするようになってから同年代の相手と接する機会は殆どなかった。

 その上、故郷では物心ついた時からの付き合いなので意識する事なく触れ合えたが、スタントの場合は初対面なので上手く距離感が掴めない。

 先程もつい敬語を使い掛けて咄嗟に修正したのだ。


 そんな事情は露も知らないスタントは話を続ける。

 教会の聖歌隊に所属している事。

 練習は週末に行われるが、上手くなりたいので個人的に練習していた事。

 自分の事ばかりだったが、聞き手に徹すれば良かったのでアマディアとしても助かった。


「頑張ってるんだ」

「ああ。聖歌隊も声変わりするまでだからな。それでまでに実力つけて音楽院に入るんだ。それからプロを目指す」

「へえ……」


 音楽院と聞いてアマディアはリヒターの事を思い出した。

 あの青年は今頃どうしているだろうか。少しは改善出来ているといいが。


「アマディアは何か目標とかあんのか?」

「今のところはフルートの上達かな」

「つまんねえな。もっとデカい夢はないのかよ」

「そんな事言われても……」


 アマディアも音楽を続けるならプロになりたいと漠然とは思っている。

 ただ、それほど情熱がないので言うのが憚られたのだ。

 いずれ本心から目指せるようになればいいのだが。


 アマディアがそんな事を内心で考えていた時、


「スタント!」

「……? げ、兄貴……」


 自分を呼ぶ声に振り返ったスタントは思いっきり顔をしかめた。 

 釣られて声の主を探したアマディアはスタントの向こう側に一人の青年を見た。

 長く艶やかな金髪に、端正な顔立ち。発せられる声は耳に心地良い。

 その佇まいにアマディアは不思議な胸の高鳴りを感じた。


「そろそろ帰ってこい」

「はいはい」


 歩み寄る青年に対し、不満を口の端から漏らしつつスタントは尻を叩きながら立ち上がる。

 それを満足げに眺めていた青年は不意にアマディアに目を向けた。


「弟が世話になったようで」

「な、ちげーよ!」


 弟の反論を無視して兄は顔に笑みを湛えた。


「アロイス・シュタムだ」

「アマディアです」


 アマディアも立ち上がって挨拶をする。


「これからもスタントとは仲良くしてやってほしい」

「分かりました」

「余計な事を言うなよ!」


 アロイスの言葉に子供扱いされたと感じたのか、憤慨したスタントは背を向けて歩き出し、アロイスはやれやれと肩を竦めて後を追う。

 しかしある程度離れてから、スタントは上半身だけアマディアに振り返って手を振る。


「今度フルート持ってこいよ。合奏しようぜ」

「分かった」


 初対面の緊張はあったが、同年代で共通の話題で語り合える相手が出来た事は嬉しかったし、誘われた事は有り難かった。

 故に破顔してスタントの誘いに応じた。


 これが長い付き合いになるシュタム兄弟との出会いだった。

そういえばこれまでの名ありキャラって大体アマディアより年上だなぁと思って書いてみた。

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