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≪連載停止→改稿版連載中≫  作者: 立花詩歌
第八章『竜乙女の里』
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(8)会議‐Eine Bombe nur vor der Explosion‐

今回は会話が主軸で、「」が多いかもしれません。

「で、何処に船があるって?」


 何もない岩壁の前で立ち止まり、キョロキョロと周りを見回し始めた薬袋みないに俺が切り出すと、


「船()うんはあくまでも例えどす。こんな内陸に船を浮かせられるところがあるわけないやろう」


 薬袋(みない)は俺や紙縒が懸念していた疑惑を真っ向から肯定し、


「そもそもウチの『神より賜った泥舟シュラム・ファイアーリヒ』は水に浮かべたら溶けてなくなるさかいに、むしろ内陸でしか使えへん言うんが正しいんよ」


 それ、比喩でも船って言えるのか?


「それにしても変やなぁ。この辺りで待っとる言うてたはずなんやけど」


 薬袋(みない)は首を傾げ、岩壁にもたれかかるように背を預けると、


「ウチはちょい辺りを探してくるさかい、ちょっとの間ここでおとなしくしとるんどすえ? もっとも、ウチを信用してへん子ォらもおるさかいに、無理な話かもしれへんけどなぁ。それはそれやし、ほな」


 薬袋(みない)は妖艶な笑みを口元に浮かべて一瞬俺の方に視線を向けると、そのまま薄れるように姿を消した。マルタ城砦でも似たようなことをやっていたし、俺自身船上で体験している。本人(いわ)く『外れた』ということなのだろう。


「アル君、さっき薬袋(みない)と2人っきりの時、何があったの?」


 ささやくような声に振り向くと、ヘカテーが口元に右手を添えて顔を寄せてきていた。形のいい眉はわずかに歪み、ヘカテーの今の感情が見てとれる。


「別に何もないってば。裸云々(うんぬん)薬袋(みない)の悪ふざけだよ」


 実際はあながち間違いでもないのだが、わざわざ口に出したのは間違いなく悪ふざけだから嘘はついてない。


「それならいいんだけど……、そうだ。なんかわからないけど紙縒が呼んでる。なんか話したいことがあるって言ってた」


「紙縒が?」


 薬袋(みない)のことだろうか。

 紙縒の姿を探すと、リリスやチェリーと共に皆の輪から少し離れたところにいた。何かを話し合っているようだ。

 下手にその輪に突っ込む気はなかったので手前で足を止める。向こうの話が聞き取れないくらいのちょうどいい間を空けて、紙縒の視界に入るよう少し立ち位置をずらすと、


 クイクイ。


 気づいたらしい紙縒が手招きした。


「何か用なのか?」


「うん、単刀直入に聞くけど、最近ルシフェルに会ったのはいつ?」


「は? ルシフェル?」


「うん、正直に答えてね」


 言うべきなのかどうかを迷った時、紙縒に釘を刺された。どっちが怖いかと言われればルシフェルだが、どっちを敵に回したくないかと言われれば紙縒だ。ルシフェルはいつでも味方っぽくないからな。かといって敵っぽいわけでもないけど。


「さっきかな」


「さっき!?」


「ふふふ~となれば結構近くにいそうなのです~。私様(わたしさま)のアルテミスのレーダーに映っていないのは驚きですが~ヘカテー=ユ・レヴァンスを人質にとれば(あぶ)り出すのは簡単そうです~」


 炙り出す……?


「チェリー、バカッ……」


 今チェリーは何て言った? ヘカテーを人質にルシフェルを炙り出す……?


「お前ら、何考えてるんだよ……!?」


「アル、違うの。チェリーの言い方が最悪だっただけでちゃんと理由が……あーもう! チェリー、アンタ発言禁止! アルも怖い顔しないで! こんなシビアでシリアスな空気にはならないはずだったんだから!」


 うぎゃーと大げさに頭を抱える紙縒とチェリーの口を力ずくで塞ごうとするリリスから、とりあえず1歩距離をとる。


「私達はルシフェル=スティルロッテと協力関係を作りたいの。第一世界(ファースト)にいる以上は他の誰を差し置いても彼女をこっちに引き込んでおきたいのよ」


「なんでルシフェルにこだわるんだ?」


「それは言えない。でも信じて、じゃないと私もアルに立ち入った話もさっきみたいな戦略的な相談もできなくなる」


 そう言う紙縒の目は、怖くなるほど真剣だった。今までの紙縒を見ていた感想として、悪いことをするような奴でないことはわかっている。


「じゃあ……さっきのヘカテーを人質にするとかって話は」


「友達なんだから、そんなことするわけないでしょ。というかルシフェルを敵に回したら瞬きしてる内に死んでるわよ」


 ごもっとも。


「ヘカテーには話し合いの時に一緒にいてもらおうって言うだけなの。その方がルシフェルの方も話しやすいはずだから」


「本音としては、ルシフェル=スティルロッテのような性格破綻者とまともなコミュニケーションをとれる人材が必要だっただけなのですが~」


「黙ってろって言ったでしょ、チェリー」


 紙縒に睨まれて愉快そうに笑った性格破綻者(チェリー)は、リリスの不意をついて跳ねるように後ずさった。


「ふふ~。衣笠紙縒~。お前が誰を使おうと私様(わたしさま)の知ったことではないですが~。1つだけこれだけ忠告、いえいえ『忠』など元よりないですが~、勘違いしないでほしいのです~」


 ジャキンッと手品のように現れた大鎌をくるくると回し、


私様(わたしさま)は誰の味方でもなく、誰の敵でもあるのですよ~」


「はぁ? アンタいきなり何言って――」


「まあまあ衣笠、落ち着いて。妹のことはお姉さんにまかせなさいな。初めから喧嘩腰じゃ字の(ごと)く喧嘩になっちゃうよ? 喧嘩越しに友情エンドってのも悪くはないかもしれないけどこの中途半端な局面じゃ選択肢分岐も起きないし――」


 リリスは紙縒をなだめると、チェリーの方に向き直る。


「――珍しくもなく強がってんじゃん、チェリー。ついさっきリュシケーとバトルイベントで健全無難に友情エンドルート入ったんじゃなかったの? お姉ちゃん、てっきりそれで改心したと思ってたんだけど」


「慣れないお姉ちゃん(づら)(さら)して戯れ言語るなゲーム脳、です~」


「おおぅっ、お姉ちゃん相手になんで毒舌全開なんだよぉ。昔はこんな風じゃなかったのに……誰の影響だろ?」


「お・姉・サ・マ・方ですが、何か~? 特に初対面の顔触れがいるからって猫被って、白々(しらじら)しく首を傾げてるお姉ちゃんの影響なのです~」


「駄目だよ、チェリー。まったくまだ世の中をわかってないね。どんなに需要があろうと、どんなに人気投票で上位に名を連ねてようと関係なく、毒舌キャラは何を言っても許されるってわけじゃないんだよ?」


 内容こそ少し気になるが、妹をさとす優しくも厳しいお姉さんの典型的な図式だった。俺の場合、アリアとは10代から離れていた上、昔から手のかからないいい子だったのも相俟あいまって叱った経験など1回もないのだが。


「お前の都合など知ったことではないのです~。『毒性言語(テンツァーギフト)』リリス。そもそも私様わたしさまがどうだろうとお姉ちゃんにはまったく全然関係ないのです~」


「関係ないとか傷つくこと言わないでよ。お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。それに根拠もなく改心とか言ってるわけじゃないの。私には取って置きの切り札が――」


 あえて言葉を切ったリリスにチェリーが首を(かし)げた――瞬間、


「『私様(わたしさま)第三世界(サード)には帰らないのです~。アプリコット~、私様(わたしさま)が知らないとでも思ったのですか~? ここまで言って理由も原因もわからないのなら大人しく帰ってもいいですが~』」


 硬直した。と同時に左手で(もてあそ)んでいた大鎌を取り落とした。

 口をパクパクと動かして、わけがわからないといった表情がありありと見て取れる。そして、ギリッと歯を鳴らした。


「『第三世界(サード)に帰るくらいなら~、変態(グリモア)()びる方が数倍気が楽なのです~』……よっぽどの覚悟だねぇ、チェリー。もうリュシケーにデレデレじゃん。もしかしなくても友情じゃなくて愛情の方だったのかもね」


「なんでそれを……」


「リュシケーに会話記録(ログ・C)を貰っただけだよ」


「あ……のッ……コウモリ女(フレーダーマオス)ッ! ……ぶっ壊してやる(ツァシュトゥーレン)!」


「チェリー、落ち着きなさいよ。見苦しいし、アルもワケわからないって顔してるし。それはそうとして、リリス、後でその記録ログ私にもちょうだい。あの時、何があったかも気になるし」


うるさい(ラウト)うるさい(ウンルーイヒ)う・る・さーいッズィー・シュヴァイゲーン! お前に見せるくらいなら、ここでリリスと第三世界(サード)のアプリコットをぶち壊して秘密保持をはかってやるのです~!」


 チェリーはそう叫んで、ヒュンヒュンと大鎌を振り回す。危ねぇ。

 しかし、リリスと紙縒が瞬く間に動き、紙縒の手によって小さい手から奪い取られ、リリスはチェリーを羽交い締めにする。


「放せ、バカ姉ッなのですー! お前にはデリカシーというものがないのですかーッ!? 私様(わたしさま)に構う前に機能停止しろ、この時代的遺物(フォッシル・パーツ)ッ。お前などとっとと廃品回収でも圧縮処分(スクラッパー)行きにでもなればいいのです~! そもそも半人半機(メカニック・ハーフ)の分際で、私様(わたしさま)に指図するななのです!」


 ヤケクソ気味に背後のリリスに言い放ち、興奮を抑えるように息を荒立たせるチェリーに絶句していた紙縒が、


「ちょっ、アンタそれは言い過――」


 慌てはじめて、急に言葉が途切れた。


「ほゥ、貴様今なんと言ったチェリー……? 怒ってるだけでもう怒らないから言ってみろ、さァ」


 既に口調がおかしいんですけど、リリスさん!


「む、無駄なのです。シ、恐怖支配シュレッケンヘルシャフトなど今のわた、(わたし)……(さま)にはその……通用しないと思いますのです……たぶん」


 声がどもり不憫に思えるくらい尻すぼみになっていく。顔は青ざめ、手足はプルプルと震えている。

 たぶんとか言っちゃったし。どこかルシフェルに通じるところのあるチェリーが。

 薄ら笑いを浮かべたリリスは羽交い締めを解き、逃げられないよう抱きつくようにチェリーの首に腕を回した。


「ねェ、チェリー、今私とってもイイ気分なんだけどサァ。久しぶりにやろっかァ、アレスクリーク(ヽヽヽヽヽヽヽ)


 ビクンッ。


 リリスに耳元で囁かれ、その腕の中で一瞬だけ激しく身を震わせたチェリーは、引き攣るような作り笑いを浮かべた。

 間違いなくチェリーの姉だ。壊れっぷりすら壊れている。


「紙縒、アレスクリークって何なんだ?」


全面戦争(アレスクリーク)よ。総力戦って言えば話が大きすぎるように聞こえるかもしれないけど、要するに姉妹喧嘩ね。周囲は巻き込むけどね」


 どんな姉妹喧嘩だよ。既に喧嘩の域じゃねえぞ。少なくとも周りに迷惑をかけないようにやれよ。


「2人ともやめなさい。こんなトコであんなのやったら焦土じゃ済まないわよ」


「済まないのか!?」


「当たり前じゃない、周囲数キロは火の、もとい下手したら血の海ね」


 戦争級の大惨事を引き起こす姉妹喧嘩って想像もつかないんだけど。

 紙縒はあえて能天気な言い方をしているように聞こえた。


「わかってるよ。こんな好戦的な直情暴走機械、いくら毒舌気取りが気に障るからってAS(イージスシステム)は出さないさ。コイツの視覚センサーに映す手間も惜しいし、、そもそも倉庫が人化してもらった(ヽヽヽヽヽヽ)程度のポンコツ、勝ちを狙いにいく価値もない。ナンだっけコイツがパパから貰った……そうだそうだ漆黒暗器ブラック・アトラクター! アレの耐久テストに付き合わされたの私なんだけどさぁ。間違えて全力全開出しちゃって全壊。パパには悪いことしたなァって思ってるんだよね、ざまあみろ変態クサレ外道って感じ?」


 ケラケラと笑いながら悪意たっぷりの台詞を言い切ったリリスは、チェリーを後ろから突き飛ばす。そのままバランスを崩したチェリーはつんのめり――どんっ。


「キャッ」


 俺と紙縒を巻き込んで、盛大に地面にひっくり返った。


「何処触ってんのよ、アルバカ!」


 だから偶蹄目ラクダ科の何かと被るからその呼び方はやめいと。

 倒れ込む時に無理な方に曲げられ、痺れ以外の感覚がない俺の右腕がいったい何処に触ってるのか俺にも教えていただきたいのだが、どうにもまずいところに触っていたようで後頭部に激痛が走る。


「アルヴァレイ=クリスティアースッ! 私様(わたしさま)の胸を左手で撫で回すのはやめるのですーッ!」


「あ、すまん。気づかなかった」


 多少の罪悪感はあるが、チェリーの大きさもとい幼さだとあまり気にならないのはなんでだろうな。


「なっ、速答、即答!? 私様(わたしさま)に対する侮辱と認定し、貴様を骨の髄まで破壊します~ッ!」


「は? えっ、ちょっ!」


 チェリーから感じた鋭く尖った殺気に地面を転がって素早く身を起こす。見ると、さっきまで俺のいたところに巨大な鎌の刃先が突き立っていた。


「落ち着きなさいってば。私だって触られたんだからイーブンでしょ」


 俺が言うのはおかしいかもしれないけど、そういう問題じゃないだろ――ってあれ? やけに他の皆が静かなのは何でだろう。いつもならヘカテー辺りが必ず突っ込んでくるのに、今回は何も……。


「紙縒、お前あっちの皆に何かやったか」


「ううん、何も」


 紙縒も異変に気づいたのか、声が若干うわずっている。


 異変。


 結構な騒ぎをこっちで起こしていたのに、シャルルもヘカテーも、ティアラもルーナもアリアも、ティアラもインフェリアも鬼塚もリクルガも気づいていない。皆それぞれ談笑したり、ルーナの上に乗っかって足をブラブラやっていたり、拳と拳で語り合っていたりと、各々不自然に気づいていなかった。


 その時だった。


「アハッ♪」


 聞き覚えのある笑い声。


「典型だね~天恵だね~」


 聞き覚えのある耳につく口癖。


「いいよいいよ~、話は聞いた、わけじゃないけど面白くもなんともないかは話を聞いてから決めようじゃないか未来人ども。私も用があったわけだしこの機会はまさに好機、私は昔から未来人はいつか来るって信じて、は別にいなかったけど」


 フェイント混じりの破綻した喋り方にも聞き覚えがある。


「アハッ、アハハハハハハッ♪ やっぱり人が驚く顔は最高だね! ルシフェル=スティルロッテに用がある無礼者は誰?」


「ルシフェル。なんかテンション高いな。何か面白くないことでもあったのか?」


「は? 何言ってんの? 面白くないことでテンションが高くなる奴なんかいるわけないじゃん」


 ルシフェルに合わせようとした俺が間違いだった。所詮、コイツに調子を合わせられる奴なんていないんだ。


「他が気づかないのは、私の『理を逸脱した表裏一体エーンリッヒ・ドゥンケルハイト』が効果を持ってる証拠だよ」


 やっぱお前か。


「ルシフェル=スティルロッテ。私たちは貴女の――」


「ちょっと待ったぁ♪ まずやることがあるからさ」


「やること?」


「うん、アハッ♪ さぁ皆さん、私と一緒に――」


 パチンッ。

 ルシフェルが指を鳴らした途端、地面がカッと光った。


「おい、まさか……」


「――失踪しよーッ!」

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