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≪連載停止→改稿版連載中≫  作者: 立花詩歌
第六章『桜花双刀』
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(5)決別‐Ein Lacheln des Luxus‐

徒立花詩人あだたちばなしいとです。


新しいキャラクター、シュネーと名も知らない自称賢者ですが、何で二人とも見た目が十歳前後の女の子なんでしょうかね。

私にもよくわからないです。

「ブラズヘル……って、あのブラズヘルか? じゃあ、君ってブラズヘルの……」


「一応……皇族……」


 その瞬間に、一瞬こんな年齢の子供にはありえないぐらい憎々しげな表情になった。怒りを抑えようともせず、視線だけが限りなく冷たい。

 まるで人形が急に感情を持って戸惑っているような、それでいて人が人形にされて怒りを覚えているような、我ながら意味のわからない喩えだがそんな印象を受ける。

 わずかな時間遠い何かに軽蔑の冷ややかな眼差しを送るように佇んでいたシュネーは、再び感情を押し殺した無表情に戻る。


「ブラズヘルの皇族……って確かみんな行方不明だって話じゃ」


「死んだから。私以外は」


 淡々と家族の死を語るシュネーの背中で、金竜のガウルが『クックッキェー』と鳴いた。その金切り声はまるで笑い声に聞こえてくる。


「それで……さっきの『殺して』っていうのはどんな訳が?」


「そのままの意味だよ、アルヴァレイお兄ちゃん。私を殺して欲しい。でも殺されるのは本当は嫌だ。でも自分では死ねないの。他の人でもダメ。薬袋のお姉さんはアルヴァレイお兄ちゃんだけって言ってた。だから私を殺して。早く死にたい。こんな世界にいたくない。自由になりたいの!」


 シュネーは無表情から一転して感情を爆発させた。その表情は必死で、真剣で、それなのにどこか壊れていた。


「会ったばっかりなのにこんな変なお願いをしてごめんなさい……」


 落ち込むシュネーの背中の辺りではガウルが金切り声で笑う。人の神経を逆撫でする不快な音だ。


「へぇー♪」


 突然、ルシフェルが大声を上げた。そこにいた全員の視線がルシフェルに集中する。

 その声色は何かを察し、そして面白がっているようなものだ。

 また心の中を覗いて、話そうとしていることから隠そうとしていることまで全てを知っているのだろう。


『このガキ、本気で死にたがってるよ。なかなか楽しい思い出を持ってるみたいだし? アルヴァレイはどうせ殺してって言われても殺す気ないんでしょ?』


『そもそも事情をよく知らないけど、他の誰にも無理なんだろ? 俺にできるわけない。方法も知らないし、やらないけど』


 ルシフェルとアルヴァレイだけに聞こえる会話なのだろう。ヘカテーも含めて、皆キョトンとした表情でニヤニヤと笑うルシフェルを見つめていた。


『どうせ説得して死なないようにしたいんだろうけど、このガキに限っては話し合いは無駄だろうからさぁ。ここは私に任せて♪』


『何をする気なんだ?』


『死ぬ気がなくなるまで調教する♪』


 そんなことだろうと思った。

 結局ルシフェルはこの状況を楽しんでいるだけだ。自分が面白いと思うことを自分好みにねじ曲げて、さらに面白くなるよう狂わせていく。

 聞いてるだけで気分が悪くなる最悪の趣味だ。


『お前、そうやって何人の心を壊してきたんだ……』


『あはははははははっ♪ 人の過去を詮索しようとするのは悪い癖だよ?』


『どこのお前がそれを言うか』


 俺はルシフェル以上に他人の過去を嬉々として覗く奴を見たことがない。

 その時、ルシフェルの視線が揺れた。


『あれあれ、ヘカテーを忘れてない? ヘカテーだって私と同じぐらいやってるのに。あ、もしかしてヘカテーのことが好きすぎて、都合の悪いことは忘れてるとか?』


『お前以上にだっ。お前は性格が悪すぎなんだよ』


『アハッ♪ ヘカテーが好きってとこは否定しないんだね。でもまあ誉め言葉として受け取ってあげるよ。私っていい性格してるし。例えば調教するとか自分から妥協策を振っておいて、目の前の竜もどきを全力で叩き潰すぐらいには♪』


「は?」


 ルシフェルの口元が鋭く歪む。

 そして気がつくと、見覚えのある短剣を手のひらの上で弄んでいた。

 無駄な装飾はなく、機能性に富んだ細身のフォルム。手頃な大きさの割には扱いやすいようにされた太めの持ち手。表面も日頃の手入れのお陰で新品のように輝いている。それでいて柄に巻かれた布は少し裂け目やほつれが表れ、使い込んであることを証明している。

 八年以上もずっと愛用している、アルヴァレイの短剣だった。

 そこからのルシフェルの動作はあっという間で、止めに入る余地すらなかった。

 ルシフェルはその短剣をシュネーの顔めがけて投げた。

 いや、投げたなんて生易しい速さじゃない。大砲を打ち出すよりも速い。それ以上にルーナの足よりも速いかもしれない。今までに感じたことのない恐ろしいまでの速さだった。

 響く轟音に思わず目を閉じる。

 そして気がつくと、小屋の入り口側の壁は割れるように崩れ、壁の木材は破裂したように散乱していた。そして何より、皆の目の前にいたはずのシュネーの姿が忽然と消え、壁の無くなった小屋の外では、大量の土煙が舞い上がっていた。


「あ~、アハハ♪ ゴメンねシャルル。小屋の方は後で直すから許して」


 茫然と立ち尽くす面々を振り返りもせずに、ルシフェルは壁の残骸を飛び越えて外に飛び出した。そして右手をこきりと鳴らして、砂煙に近づいていく。


「ル、ルシちゃん!」


 シャルルが我に帰って叫んだ。ローブの下から毛の逆立った尻尾が飛び出し、手をぎゅっと握っていた。

 シャルルの声にルシフェルの指がピクリと反応した。そして振り返った。


「何? シャルル」


 口元こそ笑っているが、目は全然笑っていない。その視線はただ冷たく、感情の起伏を感じられない表情だった。


「な、何てことをするんですかっ!」


「何って……調教だけど」


「だからって殺すなん」


 シャルルの言葉が途切れた。

 砂煙の中。

 小さな人影が映っていた。


「キキククゥウェエエエエエェェェェ!」


 甲高い咆哮が響いた。

 竜族にしては非常に弱々しく聞こえる声だったが、それでも大気を震わせて砂煙を吹き飛ばすほどの破壊力を持っていた。


「お姉ちゃんの名前は知らないけどお姉ちゃんが人じゃないことはわかるよ」


 ルシフェルがバッと振り返る。

 何事も無かったかのように、シュネーはえぐれた地面に立っていた。


「お姉ちゃんは私を殺してくれる?」


 屈託のない笑顔で首をかしげ、躊躇いのない言葉で死を望み、淀んだ瞳でルシフェルを見つめていた。

 ルシフェルはただ黙っていた。口をつぐんでシュネーとガウルを睨み付けていた。

 その表情は険しく、身体も微動だにしない。ただ思考を巡らせて時間を費やしていた。

 誰も動かなかった。

 シュネーもガウルも、ルシフェルも、アルヴァレイもヘカテーもルーナもヴィルアリアも紙縒も康平も、そしてシャルルもただ立ち尽くしていた。


「アハハハハハハハハハハハハハハ♪」


 ルシフェルが突然笑いだした。その笑い声に俊敏に反応したガウルが、シュネーの身体を覆うように巻きついていく。


「気に入らない! 気に入らないけど、すごく楽しい気分だよ♪ いいよいいよ~やってあげるよ。このガキ、死ぬ気が失せるまで調教してあげるよ♪」


 ルシフェルは振り返って、アルヴァレイに視線を合わせる。そして、文句は言わせない、と叫びニッと笑った。


「おいでよ、実験動物! 私がお前の過去を全部破壊し尽くしてやるから♪」


 シュネーの目が丸くなった。想定外の反応を示した相手に対する戸惑いを隠しきれず、よろけるように一歩後ずさる。


「…………」


 シュネーの視線が辺りをさまよう。

 ルシフェルからシャルル、さらに小屋の中で呆気にとられている6人を順番に流し見て、最後にアルヴァレイと目を合わせた。アルヴァレイは、虚ろだった瞳に生まれたものに気づき、うなずいて見せる。

 シュネーはもう1歩、よろけるように後ずさった。そして、ルシフェルを再び見つめた。まるで何度も確かめるように、視線が揺れ動く。


「お姉ちゃん……名前は何て言うの?」


「……ルシフェル=スティルロッテ。他にもいくつかあるけど、今はそれ」


 そう言ったルシフェルの声はそこはかとなく恥じらいを含み、隠す気もなく楽しげだった。


「ルシフェル……お姉ちゃん……」


 シュネーの呟きにルシフェルの耳がピクリと反応する。


「私はそう簡単に死なないから、そいつが暴れたとしてもどうってことない。だから近くにいても大丈夫よ」


 ルシフェルは躊躇いがちに、視線を逸らしてそう言った。

 シュネーは素直にうなずいて、ガウルがやかましい金切り声をあげる。ルシフェルは完全に無視しているが。


「あ、そうだ。ちなみに……」


 ルシフェルは振り返ってアルヴァレイに視線を送る。ルシフェルは目にいつも以上の光を宿し、意味ありげな笑みを浮かべてルーナを指さした。


「あれは殺しても死なないから、好きにしていいよ、ガウル」


「ふぇっ!?」


 涙目になってヘカテーの後ろに逃げ込むルーナを見守ると、ルシフェルの頭に無言の拳を振りおろす。

 しかし、ルシフェルは振りおろした拳をいとも簡単に避け、バランスを崩して転んだアルヴァレイの隣でケラケラと笑った。


「子供にそんなこと教えるな!」


「私はシュネーじゃなくてこの金竜に言ったんだからね♪」


 ルーナがヘカテーの肩をぎゅっと掴んで、カタカタと震えている。ヘカテーはため息をついて、肩に置かれた右手に自分の左手を重ね、慰めるようにポンポンと叩く。


「ルシフェル、あんまりふざけないでよ。せっかく一件落着したのに、またそうやって。ルーナちゃんが可哀想じゃないの?」


「ん~別に? ていうか一件落着って笑うところかな? ヘカテーこそ昔はそんなこと死んでも思わなかったじゃない。『可哀想なんて笑わせないで、私が一番可哀想よ』ってさ♪ 今さらいい子ぶっちゃってどうしたの? 何か悪いものでも食べた? それとも……」


 ルシフェルはアルヴァレイを一瞥し、ヘカテーを睨み付けた。

 そして、言った。

 悪い虫でもついたの、と。


「アル君の悪口言わないで! どうしたのルシフェル。なんか変だよ?」


「私は昔からこうだよ。変わったのはヘカテーだし。よかったじゃない、いい子になれて。本当は思ってたんでしょ? ガダリアからその鎖をもらった時から私はもう要らないってさぁ。それさえあれば呪いを消せるし、話し相手も友達もヘカテーが望んだモノはいくらでも手に入るんだし」


「なに……言ってるの……?」


「挙げ句の果てにただの神族に戻れて喜んでるし、その男にうつつを抜かしてかつての見る影もない。私はヘカテーが大好きだったけど、今のヘカテーなんか大嫌い」


 ルシフェルは笑った。


「じゃあね、ヘカテー。自分だけ都合よく幸せになればいい。私はそれを心から望んでるよ。私にそんな心は必要ないけどね」


 ルシフェルの姿が一瞬ぶれて、シンシアの姿が重なった。同時にルシフェルの足元に紫色の魔法陣が現れる。


「どこいくの、ルシフェル!」


「ごめんねシャルル。ずっと友達だよ」


 ルシフェルがヘカテーを無視した。

 誰よりもヘカテーに近いあのルシフェルが、ヘカテーを拒絶した。

 ルシフェルはシュネーの服を掴んだ。

 そこで急に頭を押さえた。


「うるっさいな、"鳴けない小鳥(レジストハート)"は。そんなに嫌なら、ここに残れば? 私は優しいよね。ほんとに妹思いの姉だよね。いいよいいよ~アハハハハハ!!」


 ミシ、ブチィッ。


 ルシフェルが、突然自分の左腕を右手で掴んで千切った。そして、よろけながらその左腕をアルヴァレイの目の前の地面に放り投げる。

 その腕から魔法陣が広がる。

 緑色の眩い光が、その場にいた全員の視界を遮る。思わずアルヴァレイが腕でかばいながら目を閉じた時、耳元でルシフェルが囁いた気がした。

 ヘカテーをよろしくね、と。

 寂しげに聞こえたその声はすぐにかき消えてしまった。

 目を開ける。

 ルシフェルとシュネー、ガウルの姿は既に無かった。代わりに、アルヴァレイの前には"鳴けない小鳥(レジストハート)"、ティアラが座り込んでいた。


「お姉さま……ルシフェルお姉さま……」


 ティアラはルシフェルの名前を呼びながら泣きじゃくっていた。


「ル……」


 背後から聞こえるヘカテーの声に、アルヴァレイは振り返る。

 ヘカテーはうつむいて、拳を強く握りしめ、涙を流していた。


「ルシフェルの馬鹿……なんで? 意味わかんないよ。どうして……急に……」


 アルヴァレイは何もできなかった。

 ルシフェルを止めることだけではなく、ヘカテーやティアラを慰めて、泣き止ませることすらできなかった。


「ルシフェルの……バカァーッ!」


 ヘカテーは叫んだ。

 届かないとわかっていても、そうするしかなかった。

またまたまた……ルシフェルが暴走気味ですね。

かなり脈絡が無いように見えますが、一応理由があるのです。

それはまたおいおい明かしていきます。

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