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≪連載停止→改稿版連載中≫  作者: 立花詩歌
第六章『桜花双刀』
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(3)双刀‐Die Leute, die keine Person sind‐

どうも徒立花詩人あだたちばなしいとです。


新キャラ登場です(名前はまだですが)。

とても強力な能力ですが、誰かとすごく被ります。

「リィラ!」


 先に幼女と少女の方を片付けようと振り返った瞬間、急に黒ずくめの女がリィラの名前を叫んだ。

 全くの他人に名前を呼ばれるのは今日が二回目だったが、やはりそれで一瞬怯んでしまう。


「違うんだ!  説明するから!  全部説明するから! 少し待ってくれ、リィラ!」


 命乞いをするような調子で黒ずくめの女がそう叫んだ。

 リィラはその様子にことさら腹を立てていた。子供を殺してなお、言い訳を通そうとするなんて、性根が腐りきっている。


「何が説明だ!  貴様が何者かも、なぜ私の名を知っているかもどうでもいい! どうせ悪霊と同じような下らん能力のせいだろうからな!」


 腰の剣を抜き放ち、しゃがみこんだまま動かないその女の喉元に突きつける。


「なぁ黒乃。お前が会いたかったのってリィラ=テイルスティングだったのか? だったら早く言えばいいのに」


 後ろから能天気な声が聞こえてくる。

 振り返ると、地面に転がっていた少女が立ち上がっていて、まだ地面に横たわる幼女の頭を左足で踏みつけていた。


「やっほー、リィラ=テイルスティング。ボクはアプリコット=リュシケー。覚えてくれると嬉しいな。ローアの砦では会えなかったから自己紹介できなかったね。アルヴァレイは元気かな?」


 言った瞬間、ガジャコッと音がして直後にアプリコットと名乗った少女の身体が力無く宙を舞う。その胸には巨大な穴があいて、血がそこから噴き出していた。


「汚い足を私様の頭に乗せる自殺志願者は消し飛べばいいのですよ~」


「何言ってんですか、チェリーさん。ボクは自殺志願なんてした覚えはねぇですし、この程度で消し飛びやしないです」


 再び何事もなかったかのようにアプリコットは立っていた。


「申し遅れました~。私はチェリー=ブライトバーク=鈴音と申します。名前を覚えていただけたら最悪の気分になりますので~。というかめんどくさいから、拘束して話聞かせりゃいいんじゃないのですか~?」


「お前は黙っていろチェリー。リィラは私が説得する。リィラ、まず私は宵闇黒乃、詳しい話もしたいが後回しだ。まず、その子を殺したのは私たちじゃない!」


「どういうことだ……?」


 貧民狩りだ、と黒ずくめの女は少女の亡骸に憐れむ視線を送ってそう言った。


「私が来たのはその後だが……そこのアプリコットとチェリーが来た時、既に息絶えていた。ここにいた連中に暴行を受けていたらしい」


「貴様ら以外に誰もいなかっ」


「殺したんだ、リィラ。今のリィラと同じように。そこのチェリーが皆殺しにして、アプリコットが死体を片付けた」


 黒ずくめの女は立ち上がると、少女の亡骸に歩み寄った。


「私だって、間に合えば救ってやりたかった。知っていればすぐに助けに来た。それはリィラだって同じだろう?」


 少女の亡骸に手を添えて、悔やむように目を伏せる。演技には見えなかった。


「アプリコット。この子の身体を治療できるか?」


「できるっちゃできますけど、私のデバイスじゃ生き返らせることはできませんから、意味ないんじゃねえですか?」


「『できることはすべてやれ。貴様らは私ができないことをできるんだ。それを誇りに思えるようになれ。貴様らは今どこにいる? 今ここにいるだろう。やるべきことを探せ。一つや二つでいいさ。それら全てが救いに繋がるとは限らんが……そうしてくれると私が嬉しい』、自分で言ってみるとかなり恥ずかしいし、冷静に考えれば支離滅裂だが、それでも私の最初の主がくれた言葉だ。今この少女のためにしてやれるのは、あざと骨折の治療ぐらいだからな」


「……人ってやっぱわかんないね。意味がないってわかってるのに。その身体を使う魂はもう存在しないってのにさ」


 アプリコットはブツブツと何事か呟きながら、少女の亡骸を肩にかつぎ上げる。

 私様が目立ってない、とチェリーが切実な悩みにぶち当たっているが、誰も気にしなかった。


「仮想空間展開」


 アプリコットが呟く。その瞬間、アプリコットの下半身がさらさらと砂のように崩れ始める。そして、その粒子は発光しながら空気中に散らばった。


「生体治療シーケンス起動」


 無数の粒子が再び一つに集まり始める。瞬く間に、目の前に半透明の大きな物体が現れた。リィラには馴染みがないが、第三世界で用いられている軽傷治療用カプセルだ。


奇跡薬(エリクシール)注入。Passcodeパスコード【*****************************】認証」


 発音不可能な機械音が響き渡る。


「ほいっと」


 アプリコットが少女の亡骸をカプセルに放り込んだ。その瞬間、半透明だったカプセルが真っ黒になる。


「終わったよ」


 カプセルが砂のように崩れ、アプリコットの下半身の辺りに集束される。

 後には、見違えるように綺麗になった少女の身体が残った。やはり先ほどまでと同じように、その身体には何の力も残っていなかったが。


「血色も少し良くなったようだな……」


 リィラが抱き上げると蒼白していた肌は少し朱がかった肌色に戻っていた。


「二百っ」


 その時突然控えめに元気な声がした。

 そう言えば、完全に忘れていた。

 たったった。

 軽快な足音を響かせて、路地に入ってきたのは案の定、神流だった。


「う~、黒乃……」


 入ってきた途端、神流は唇を尖らせて、黒ずくめの女の足下まで駆けていく。


「ごめんごめん、神流」


 甘噛みするような声で、神流に謝る黒ずくめの女。


「お前が神流の母親なのか?」


「え? あぁ、いや母親ではないが保護者のようなものだな。おっと、申し遅れました。リィラ。私は宵闇黒乃」


「そして私は闇桜影乃」


 突然黒乃の隣に現れた人影に驚いて、一歩後ずさる。


「「私たちは人ではなく、その中身は二振りの太刀。妖刀『桜花双刀(リヒティーリューゲ)』と申します。お久しぶりです。我が初代主、リィラ=テイルスティング様」」


 完璧に言葉を重ねながら、黒乃と影乃はその場で膝を折り、片膝を突いて腰を折った。そして黒乃が右手を、影乃が左手を胸の辺りに当てた。


「「ずっと、再会を夢見ていました。リィラ様」」


「待て待て待て待て! 何だそれは! 私は貴様らなど知らんぞ」


「当然です。この時の貴女は私たちのことを知りません。私たちを使うようになるのは、今から約三年後のことですから」


 黒乃は立ち上がりながら、刀に戻った影乃を腰にさし直し、顔を上げる。


「貴様らはいったい何なんだ!?」


「詳しくはお話しできませんが、未来から来たとだけ言っておきます」


「そんな馬鹿げた話が信じられるとでも思うのか?」


「私たちの知るリィラは細かいことは笑い飛ばす、大変豪胆な方でしたから」


 的を射ているが故に、鬼塚と似た扱いが腹立たしい。


「ハハッ、まぁいい。後でたっぷりじっくりねっとり聞かせてもらう」


 たぶん説明されても面倒なだけだろうとご要望通り笑い飛ばしてやると、黒乃は安堵の表情になり強ばっていた肩から力を抜いた。

 そこまで話したくない事情なのか、何となく聞き出したくもなるが、本気で困りそうな顔をしていたのでやめた。


「ところで全員人じゃないのか?」


 足元で黒兎のぬいぐるみと戯れていた神流を抱き上げると、再び『ふわぁっ』と可愛らしい声をあげる。


「貴様らの挙動や話を聞いている限り人が一人たりともいないんだが」


「私様は兵器格納庫ですから~。『戦々狂々(ドッペルシュナイデ)』とお呼びくださいね~。くれぐれも名前で呼ぶな~」


 呼ぶ機会があったらチェリーと呼ぼう。


「私と影乃はさっきも言った通り、太刀だからな。人ではない」


「ワシは一応人だがの。永きを生きてきたからその境は曖昧というものよ」


「ボクはアプリコットでお願いしましたよね。他にも要らねぇ二つ名が腐るほどあるんですが、まあ気にしなくていいです。ボクもカテゴリ的には機械ですから人ではないですね、あははははは」


「お主の腕におるその幼女は見たところ釘の化身のようじゃな」


「よくわかりましたね。正確に言えば化身っつーか呪われた方ですから。可哀想っちゃ可哀想ですけどね。」


「何!? 神流も人ではないのか?」


「お主、気づいておらんかったのか……。まあでも仕方あるまい。ここまでうまく子供を演じとる人外も珍しいからの」


「神流は演じてるんじゃなくて本当に精神年齢が低いんですよ。ね、黒乃」


「(ふるふる)」


「おいおい神流。否定しても無駄だっつーかその動きが可愛すぎてお願いだから抱かせて、むしろ抱い……(ザクッ)」


「いい加減にしろアプリコット。神流が怯えとるだろうが」


「目の前まで近づいてた顔がいきなり左右に両断されたんじゃ、怯えるのも無理はないと思うのじゃが……」


「な、泣くな。神流。私が悪かった」


「泣いて……ない……(ふるふる)」


 涙を目にいっぱい溜めてすら否定しようとしている。

 将来かなりの大物になれるかもしれないな、神流は。


「ちょっと……」


「どうした? チェリー。お前がそんなか細い声を出すなんて珍しいじゃないか」


「何でそいつ生きてるの?」


「は? 何を言って……」


 全員の視線が、そこに立つ小さな身体に集中した。その少女を認識したのは総員ほぼ同時であり、全力で飛び退く。


「何なんだ、貴様!」


 リィラは思わず叫んでいた。

 そこに立っていた少女はほぼ肌着だけというような格好の幼い女の子で、外見年齢だけならチェリーと同じくらいだろう。長い栗色の髪にダークブルーの瞳は子供らしさを強調するように顔の中で閉める面積が大きい。要するまでもなく、先ほど身体の治療を済ませた、亡骸だった少女だった。


「日常会話からの自然な導入で掴みは上々と思っていたのじゃが……それ以上にお主らアホじゃよな。ワシと自然に言葉を交わしておいて今ワシに気づいたとか言うのではあるまいな」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……(うるうる)」


「なぜ微妙な空気になるのじゃ……? 人がこの騎士のような女しかおらんかったから正体を明かしたというのに……。主ら、他に人外を見たことはないのか?」


「そうでもないが……」


「むしろたくさんいるよね」


「鬱陶しいぐらいに~ですね~」


「……(うるうるうる)」


「なら何故? ……お主らほど反応の薄い奴らは初めてじゃ……」


「不可解ですね。ボクのデータベースに乗ってない上に、先ほど生命活動の完全停止を確認済みですから。死なない能力者は結構な量見てますが、死んでから生き返るなんて初めてですよ」


「んむ? ワシは別に生き返っとるわけではないぞ。生き直しとるだけじゃ。輪廻転生って知っとるか? 死んだ者は別の個体で別の生を送るあれじゃ。ワシの『自演の輪廻(デッドエンド・パラドックス)』はそれをこの身体だけでぐるぐる回しとる感じじゃな。お主ら人の話を聞く気ないじゃろ……」


 見るとリィラだけではなく、こういう『旧き理を背負う(エンシェントルーラー)』やそれに準ずる何かを専門とする黒乃やチェリー、アプリコットですら考えるのを放棄して、じっと神流を眺めていた。


「ワシはこう見えても、主らの数十倍は生きておるのじゃからな」


「……」


「何が言いたいかと言うとじゃな。ワシの方が主らよりずっと大人で、ずっと多くのことを知っておる。全知と言っても過言ではない。助けてもらった礼じゃ。このワシに頼るがよい」


「私様的にはすでに婆さんですよ~」


「どうしてそんな能力があるんです?」


「知らぬ。覚えておらんのじゃ」


「自分の言葉に責任を持て」


「ワシをバカにする気か!」


 そう言うや否や唇を尖らせ、うつむいて道端の石を蹴り始める有り様。


「ガキか」


 誰ともなく呟く。

 不機嫌そうに頬を膨らませ、手持ちぶさたに指を絡ませては、無意味に服の裾を引っ張ってみたり、髪の毛先をいじってみたりしている。

 そのまんま拗ねている子どもにしか見えん、と口に出すと本気で怒りそうだから。


「拗ねている子どもにしか見えん」


 口に出してみた。

 その方が可愛いんじゃないかと思ったからだが、結果的に予想と期待を裏切られる形になったのが残念でならない。


下手(へた)下手(したて)に出たのが間違いじゃったか……次からは気を付けよう」


可愛さの欠片もなかった。


「お主、金を持っとらんのか?」


「突然何なんだ?」


「金じゃ。腹減った」


 このガキ、と思ったが、考えてみれば目の前の見た目幼女、不安になるほど痩せ細っている。栄養失調なんだろうが、どうにも見てて気分が悪くなる。

 何か食わせてやらないと、今にも倒れてしまいそうだった。


「しかし、残念だな。金がない」


「役たたずめ」


「このガキっ」


 思わず子ども相手に食って掛かりそうになるが、なんとか理性で押し止めた。


「安心せい、金が無いなら稼ぐは道理じゃ。このワシの知識を持ってすれば、飯代ぐらい三十分もあれば稼いでやるわい」


「任せた。賢者殿」


 金が稼げるのなら、こいつに頭を下げるぐらい造作もないが、面倒だからおだてるだけにしておこう。


「大風呂敷に乗ったつもりで任せるがよい。手伝いはしてもらうがの」


 信用して大丈夫なのか……?

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