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≪連載停止→改稿版連載中≫  作者: 立花詩歌
第三章『マルタ城砦』
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(3)強襲-Der Junge und das Madchen war nachlassig-

十五禁かな~ぐらいの単語を使ってますのでご注意下さい。

 2日後、俺たちは予定通り出港した民間の商船の船室にいた。


「ヴァニパルまではそんなに遠くない。この船でも4時間ほどで着けるそうだ」


 船室に入ってきたリィラはそう言うと、背中からベッドに身を投げ出した。

 あまりしっかりした作りではないのか、ギシギシと危なっかしい音がする。

 それと同時に床で腹筋運動に励んでいた鬼塚が身体を起こした。


「ん? 鬼塚どこにいくんだ?」


「何。腹筋を育てていたんだがな。どうも動きが鈍い。恐らく疲れが溜まっているようだからな」


 汗ひとつかいてない鬼塚に言われても説得力がまるでない。それにしても、スタミナに関しては化け物級の鬼塚が疲れるなんてよっぽどのことだ。

 リィラは怪訝そうな顔で鬼塚を眺めると、ため息をつく。


「それで寝にでも行くのか?」


「む? 寝る必要など無い。甲板で涼しい風にあたりながら背筋を育ててくる」


 さっきの前フリは何だよ。

 疲れたから筋トレって論理の歯車が噛み合ってない。


「アルヴァレイ。この馬鹿に論理性を求めるな、疲れるだけだ」


 この人には俺の思考が見えてるんじゃないかと思う時がたまにある。

 鬼塚が出ていくと、しばらくしてリィラが欠伸をした。それに誘われるように軽い眠気を感じる。


「ふわぁっ……」


「あふっぅ……」


 見ると、ヘカテーとルーナも欠伸をしてしきりに目をこすっていた。


「着くまで4時間か。少し寝ておいた方がいいかもな」


 どうしても眠そうな声になってしまう。


「でも、誰か起きてないと……」


 ルーナもベッドの上で四つんばいになって獣のように伸びと欠伸を同時に済ませた。

 まあ、獣なんだが。


「鬼塚が甲板に行くと言っていたし、問題は……な」


 リィラの意識が途絶え、同時に言葉が途切れる。

 そして俺とリィラ、ルーナは寝てしまったのだ。

 そして、寝息も人それぞれという中で、ヘカテーは頬をつねっていた。


「おかしいわね。恐ろしく眠い……。まさか……」


 ヘカテーはそう呟いた直後に枕に頭を埋め、ルーナの横ですうすうと寝息をたて始めた。


「この船の護衛の方々は、赤子の手を捻るより簡単に終わってしまいましたなぁ。えらい残念で、つまらんわぁ……」


 その部屋に入ってきた5人目の声は、独特なイントネーションが特徴の、妖艶な女性の声だった。







 ……レイ。

 ……きろ…ヴァレイ。


「起きろ、アルヴァレイ!」


 目が、覚めた。

 その瞬間に見たのは、隣のベッドに横たわるリィラの姿だった。


「ようやく起きたか……」


 リィラは不自然に声を潜めていた。

 そこでようやく、自分の置かれている状況に気がついた。


「腕が……」


 頑丈なロープか何かが、後ろ手に俺の手首に食い込んでいた。

 首だけを動かすと、かろうじて部屋の中の様子が見えた。

 後ろにはルーナが同じように縛られて転がされ、リィラの身体の陰には縄でなく、金色の鎖で拘束されたヘカテーが猿ぐつわまで噛まされて、呻いていた。


「いったい何があったんですか……」


 状況を察しつつ、リィラに倣って声を潜める。


「この船が襲われた」


「誰に……?」


「ヴァニパルと対立している国、ブラズヘルの軍艦だ。すでに交戦は終了。船は乗っ取られて、進路を変えたようだ」


 リィラは眉を歪めて、目を伏せた。


「私達が眠らされている間に、な」


「ブラズヘルは何のために? 軍艦でも、軍需物資を運んでいるわけでもないのに! なぜこの船なんです?」


 リィラはわからんといった風に無言で首を振った。


『人質よ』


 頭の中にヘカテーの声が響いた。


『さっきから廊下を通る奴の頭ん中の覗いて回ってるんですけどね。どうやら手当たり次第にヴァニパル関係の一般人攫ってヴァニパルを落とそうとしてるみたいです。ちなみに甲板に鬼塚さんも見つけました』


「あいつは何をやってたんだ……」


『それも聞きました。変なしゃべり方する女に酒に誘われて、アルコール度数、百パーの酒を一樽飲み干して酔いつぶれてたそうです。馬鹿ですかね』


「アルコール度数、百パーセントって言ったら、純アルコールだ! あの馬鹿いったいぜんたい何考えてやがる」


「何も考えちゃいないんですよ」


『ふふ、ふふふ……ふふふふふ。人間の分際で私に手を出したらどうなるか、思い知らせてやるわ』


 あなた一応人類ですよね、ヘカテーさん。ルシフェルはともかく。


「とりあえず、どうするか……」


「このあとどうなるのか、わかってるか? ヘカテー」


『それについてはまだわからない。拠点に連れていかれて幽閉か、悪ければ暇潰しの道具ね』


 バン!


 扉が勢いよく開き、悪趣味な鎧を着た男が入ってきた。

 そして、まっすぐアルヴァレイたちの方へ歩み寄った。そして、赤と青の紙の札を取り出した。


「この小僧はB……こっちの娘はA……と。んで、まあこの女はBでいいか。おぉ、この娘、なかなか……。Aだな。後が楽しみだ」


 アルヴァレイとリィラに青の札。ルーナとヘカテーに赤の札を貼った。

 そして、イヒヒ、と下卑た笑い声を残して、部屋を出ていった。


「ヘカテー、あいつから何か……ぁ?」


 言葉が途絶える。

 ヘカテーの肩が震えていたからだ。

 たぶん怒りで。


「ヘカテー……?」


『ふざっけないでよ!! 人間の分際で!』


 頭の中にヘカテーの叫び声が響いた。

 ヘカテーは顔を青ざめて、怒りを露にしていた。


「ヘカテー、どういうことだ。AとかBとはどういう意味だ?」


 リィラは声を抑えて、そう言った。


『あいつら、捕らえた人質を使って自軍の士気を上げようとしてるの! Bの奴らは広場みたいな所で殺し合わせて、それを高いところから嘲笑うつもりなのよ……』


「なんと悪趣味な……。それでAは?」


「そうだ、ルーナとお前はどうなるんだ? 説明してくれ。」


『あははははははははっ……あはははははははははははははははははっ! Aはね! あいつらはね! 人間の分際で! 私を慰安婦にしようとしてるのよ!』


 ヘカテーはそう叫んだ。

 アルヴァレイたちの頭の中で。


『Bは戦わせて無様な優越感を得るため、Aは! その……性欲を満たすためだけに、私の身体をそうやって使って……あははははははははっ……』


 ヘカテーが壊れた……。


「となると、様子を見てそっちについてから行動した方が良さそうだな……」


『え、ちょっと待って。私は? ほったらかし? 助けてくれないの?』


「今動くのはたぶん簡単だが、今捕まってる人たちも助けなきゃいけないからな。お前は1人でも逃げられるだろう」


『殺してもいいの?』


「相手が相応の下種なら構わん」


「相手が腐っててもやめてください。ヘカテー、いざとなるまで俺たちを待っててくれないか?」


『うっ、ん、あぅ……わかった。アル君を待ってる。で、でも。いざとなったらどうすればいいの!?』


 アルヴァレイは小さな声でハハハと笑う。

 へカテーは涙を浮かべた上目遣いで、しっかりアルヴァレイを睨んでいる。


「まあ、死なない程度に」


 アルヴァレイはきっぱりと言ってやった。ヘカテーもヘカテーで、口の端を歪めるように微笑んだ。

 それからその部屋にはルーナの寝息だけが聞こえていた。







 バン!


 勢いよくドアが開いた。

 中に入ってきたのは屈強そうに見える男の兵士たちだった。

 数分前、船が汽笛を鳴らして停まったのだ。おそらくその拠点の近くの港についたのだろう。


「こいつらが船の護衛の奴らか? 薬袋(みない)1人にやられてんじゃねえか」


「それにしても、ガキばっかだな。お、こいつは……ってBかよ、誰だここ分別した奴。頭おかしいんじゃねえのか?」


「誰だろうが、処理に使えそうなら何でもAにする奴が何言ってんだよ。しかも、こいつ強そうじゃね? 鎧着てるし」


「縛っちゃえば同じさ。薬袋の(あね)さんが作ったこの薬縄(やくじょう)――薬につけて強度を高めた――を切れる奴なんていねえって。こんなガキどもにさ」


 ぶちっ。


「すまんな、アルヴァレイ」


 ぶちっ。


「ごめんね、アル君」


 あーもう。

 何で、カッとなると何でもできちゃう人ばっかり俺の周りに増えてくんだろう。

 リィラとヘカテーは力任せに縄を引きちぎり、目の前の兵士たちが『てめえら』の『て』の字を言う前に2人の意識を奪っていた。

 文字通り、瞬く間に。瞬いたら、ことは済んでいた。


薬師寺丸薬袋(やくしじまるみない)


「ん? ヘカテー、何だそれは?」


「今、『薬袋の(あね)さん』って言ってたでしょう? 人の頭の中覗いてたら度々、出てきてたから覚えてたの。敵の幹部の1人みたいね。私達を眠らせたのもそいつ」


「殺すか」


「殺しましょうか♪」


「お楽しみのとこ悪いけど、やっちゃったのは仕方ないから、早く俺とルーナの縄をほどいてくれ」


「自分でやればいいんじゃないの?」


「できるかっ」


 人外にできることが人にできるとは限らない。それどころか、基本的には人にはどうにもならないだろう。そんな当たり前のことすらわかっていないヘカテー=ユ・レヴァンスさんだった。


「まあ、いいです。さっきの台詞に免じて私が直々にほどいてあげます」


 さっきの台詞……? 何かヘカテーの気になることでも言ったっけ?

 正直、あまり覚えていないってのが本音だ。

 ヘカテーは俺の後ろに回る。その縄の結び目に指がかかったのを感じる。


 ぶちっ。


 それは解くではなく、千切ると言う。


「はー、すっきりした。ずっと窮屈だったんだよね。さてと」


 ベッドの上にはない。下……も無いな。どこだろう。


「アルヴァレイ。何を探している」


 リィラさんはドアの向こうを警戒しながら、小声で俺に言った。


「いえいえ、ヘカテーの猿ぐつわが無かったもので、どうしたのかなと……」


 作者の書き忘れじゃないかと。


「それと、鎖はひきちぎる時に、ぶちっっていうのかなって思ったんですよ。金属音はしませんでしたので、もしかしたら鎖じゃなくて、縄だったのかと……」


 作者の無知だったのかと。

 作者のミスを拾い上げるのも、主人公の重要な役目だと思います。


「そんなどうでもいいことは気にするな。早く行くぞ。途中であの馬鹿も回収しなきゃいけないし」


 すっかり忘れていた。

 鬼塚石平だ。

 問題はどこにいるかだが、すでに船を出ていたら厄介だ。探すだけで手間取ってしまう。

 できればそんな手間をとられたくない。となると鬼塚については船内を探すのが無難だ。だとしたら、船内ぐらいなら届くだろうヘカテーのテレパシー(?)に頼るのが一番合理的な選択肢だった。


「ヘカテー、あの馬鹿に『筋肉神はお前を見ている』と言ってみてくれ」


 リィラの提案に、ヘカテーは目を閉じた。

 次の瞬間。


「貴様ら、そこに並べ!! 貴様らの生温(なまぬる)ぬるしたウナギのような筋肉を鍛え直してやるから覚悟しろ!」


 甲板の方から、叫び声と共に、複数の兵士の悲鳴が聞こえてきた。


「鬼塚め、例え方が意味不明だ」


「今、窓の外を人が落ちていきましたよ。皆さん、あまり慌てないんですね」


 もちろん俺は他人事のように傍観していた。







 港を一望できる海に面した高台に、1組の男女が立っていた。

 その内の1人、男の方は赤い騎士甲冑に身を包み、ヘルムの間から鋭い眼光が船を見据えている。

 そして、女の方は、着物を着崩し、長い髪を後ろで束ね、白い布が目を隠すように頭に巻かれていた。


「ええんどすか? リクルガのにいさん。あのえらいごついお人を止めんでも。あんさんの部下もぎょうさんやられとりますえ?」


「私が手を下すまでもない。部下なら大丈夫だ。貴様に心配されるなど屈辱の極み。貴様はとっとと城に戻れ」


「えらい嫌われ様やねぇ。ウチ、悲しいわぁ。あんさんと仲ようしたいと思うとりますに。何もかも拒むのはあかんえ?」


「ええい黙れ薬袋。貴様に構っている暇など、私には無いのだ」


「そんなら、部下を助けに走ればよろしおす。ウチは先に戻りますよって」


 リクルガと呼ばれた男は舌打ちを響かせると、目の前の崖から空中に身を投げ出した。

 そして、海の中に吸い込まれるように消えた。いや、海の上で止まっていた。

 リクルガは崖上を見上げた。

 薬袋と呼ばれた女が、身を乗り出しながら、何かを崖から投げ捨てた。

 日の光を反射しながら落ちてくるその物体、その形がはっきりと見えたとき、リクルガは水面を蹴って、その物体の着水点に跳んだ。しかし、その物体には手が届かず、着水。

 その物体は沈んでいく。


「くそっ……あの女……」


 水面地魔法を解除し、海に飛び込む。

 騎士甲冑を着たまま海に潜るなど、自殺行為にも成りかねないが、リクルガには迷っている暇はなかった。

 何とか沈んだ目当ての物を見つけると、それを拾い上げ、一息に浮上する。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 比較的平らな岩の上に這い上がり、荒い息を整える。そして、海底から拾い上げたものを眺めた。

 さっきまで腰にさしていたはずの先祖伝来の宝刀アポルオン。

 あろうことかあの女はそれを海に投げ捨てた。リクルガに気取られないような圧倒的な力量差をもって何の理由もなく、ただリクルガで暇を潰すためだけに。


「あの女、悪ふざけが過ぎる……!」

薬師寺丸薬袋は京都弁ですが、正直よく調べもしないままイメージだけで使ってますのでご容赦をお願いします。いつかちゃんと調べて書き直します。


薬師寺丸薬袋……読み方は『やくしじまる みない』です。

        『やくしじがんやくぶくろ』じゃないですから!


主人公の作者云々発言は一時の気の迷いです。

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