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感情

「人の物ってなによっ。大体濱本は物じゃないしっ。」


むかむかむかむか。


何もかもに腹が立った。


喧嘩したか何か知らないけど、その事と仕事を混同する濱本の彼女に。

だから女はって言われちゃうんじゃん。恋愛とビジネスは関係ない。

そんな人と濱本を取り合ってるように思われている状況にも腹が立った。


KARIYAの広報部長から抗議を受けて、きっと嬉しそうに兼田部長に報告したであろう川原課長に。

ああ。尻尾振りながら報告したんだろうな。

「このクレームは俺のせいじゃないですよ~。」って。


そしてそれを、わけのわからない質問で確かめようとした兼田部長に。


もう何もかも腹立たしかった。・・・悔しかった。


「怒る所そこ?」


濱本がいつものように穏やかに笑った。


「だって。だって。濱本は腹立たないの?!川原課長にそんなこと言われて。悔しく無いのっ?」

「悔しいよ。」

「だったらなんでそんな平気そうに笑うのっ。」


・・・ぽろ。

あたしの目から涙がこぼれた。一回こぼれてしまった涙はぽろぽろと止める事が出来なくなった。


いつもそうだ。感情が高まってしまうと涙が止められなくなってしまう。


・・・何で涙が出るのかわからない。


「平気じゃないよ。」


そう言うと濱本があたしの右手を取った。冷たい手だな、と思う。


「澪ちゃんに迷惑かけて平気なはず無いよ。ごめんな。」


そうじゃなくて。あたしのことじゃなくて。

自分の為に怒りなよ。


「・・・泣かないでよ。本当にごめん。」


そういわれて、あたしの涙腺は何かが決壊したようで。


「・・・もう。やだ・・・。」

「澪ちゃん・・・」


謝ってほしいんじゃないの。

余計何だか悲しくなるの。


「何で謝るの?濱本が悪いんじゃないじゃん。」

「いや。それは。」

「大体何でそんな事言われて、おとなしく言うこときいてんのよっ。」

「おとなしくって・・・。」

「男として仕事馬鹿にされて悔しくないのっ?!」

「ちっちょっと。」

「何で仕事に恋愛沙汰持ち込むのよっ」

「・・・。」


ぼろぼろ泣きながら濱本に思いつくこと片っ端って感じで。

壊れてる、あたし。でも止められない。


「なんでっ。何であたしがっ・・・。あたしが怒ってるのに濱本は怒らないのよっ。」


その瞬間ぐいっと引っ張られた。


ええっ?


次の瞬間には、あたしの視界いっぱいにネクタイとカッターシャツ。


ほええ?


「俺の代わりに怒らなくていいから。」


聞こえる濱本の声は頭の上からで・・・。


あたしをあやす様に背中をたたく手があって・・・。


これって・・・これって。


「ちょ、ちょっと濱本。」

「ありがとな。」


声がさっきより近いしっ。この声って耳元だよね?

ってか、あたし濱本の腕の中・・・?


「澪ちゃんに迷惑かけたのに、何で俺のために怒ってんの?」

「・・・だって濱本が怒らないから・・・。」

「ありがと。もう泣かなくていいから。」


とんとん。

ゆっくり背中をたたく手が心地よくて。


感情が爆発した反動で一気に気持ちが緩む。


「・・・止め方がわかんない・・・。」


くくっ。濱本の喉が少し笑い声を立てる。


「よしよし。じゃあ泣き止むまでこうしてる。」


背中に回っていた右手があたしの髪をなでた。

よしよしって・・・あたしいくつよ?


「・・・澪ちゃんが泣くの見るの何回目かなぁ。」


え?!

思わず顔を上げたら。


あまりにも至近距離な濱本の顔があって。

いつものように少し笑っていて。


「何回目って?」


こいつの前で泣いたことなんてないはず。

絶対にないはず。

そんな恥ずかしいこと(今はしてるけど)ないはずだ。


「泣いてるでしょ。トイレとか、皆帰った後の喫煙ルームとか。」

「見てたの?」

「何回か見かけたよ。見られたくないみたいだったから声かけなかったけど。」


ああ。あたし格好悪い・・・。

悔しくて泣いたあの時とか、あの時とか、あの時とか・・・。


何回か思い当たるだけにすっげー恥ずかしい。


「さすがにトイレで泣いてたのは見たわけじゃないけどね。それ見てたら俺やばいし。」


そりゃあ、そうでしょう。

そうか・・・・見られてたんだ。こいつに。


って!!!何この状況!!

濱本の腕の中でこの至近距離での見つめ合いは何?!


「涙止まった?」


はい。

今更ながら状況を把握したら、涙がぶっ飛びました。


ひえ~~なんかすっげ~恥ずかしいんですけど。

思わずまた下を向いてしまい、目の前はネクタイとカッターシャツ。


「う、うん。止まった。だからありがと。」


濱本の肩を両手で押し戻す。なのに。

・・・こいつなんでさらに腕に力入れてんの?


「もう大丈夫。だから。」

「ん?だから何?」

「だから離して?」

「無理。」

「なっ!なにいってん・・・」


ふざけてるの?って言おうとして濱本を見ると。

もう笑ってなくて。


なんだか怖いくらい真剣な目をしていて。


「んっ。」


・・・え?


柔らかいものがあたしの声を塞いだ。


・・・唇?

なに?なに?なんで?


それと同時に背中と首筋に回された腕はさらに力強くなって。

胸が苦しくなって目を閉じてしまう。


「・・・んんっ・・・。」


これは・・・あたしの・・・声?

息が・・・苦しい・・・。


やっと濱本が唇を少し離した。


「・・・はまも・・・と」

「・・・そんな・・・顔をするからだ・・・」

「んんっ」


再び温かい唇があたしを塞ぐ。冷たい手があたしの髪をなでる。

そして。


「ん・・・んんっ・・・。」


あたしの中にさらに熱いやわらかいものが入ってきて。

あたしの中にもある熱い舌を絡めとる。


「ん・・・やっ・・・。」


・・・こいつ・・・うまい・・・。

なんて思ってる自分に余計にわけが分からなくなって。

ただそれを受け止めていた・・・・。






























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