破壊
「で、無断欠勤の理由はわかったけど。」
あえて「体で払う」はスルーしてあたしは話を続けた。
体で払うってなんだよ。それなら部屋の大掃除でもさせるぞ。
・・・何か違う気はしないでもないが。
「携帯君をぶっ壊したっていうのは何?」
「ぶっ壊したんじゃなくて、ぶん投げたら壊れた。」
濱本は何かを投げる動作をすると両手を開いて見せた。
「ぱあんって」
「それは壊れたんじゃなくて、壊したって言うの。」
「そうとも言うね。」
そうとしかいわねぇよ。
「・・・聞きたい?」
「聞きたくないような気がする。聞いてしまうと、また何か巻き込まれそうだ。」
あたしがそう答えると、濱本は悪戯っぽく笑った。
さっきへこんだカラスがもう笑うのか。
「聞きたいくせに。素直じゃないなぁ澪ちゃん」
「君が言いたいんでしょ?んで、何?」
ああ。こうやって聞いてしまうのが、あたしの悪い癖だ。
ほっとけないんだよな。どうしても。
「澪ちゃんって、彼氏の携帯見る人?」
「・・・何のために?」
「ん~なんのためだろ?」
はあん。女か。
濱本は結構もてる。185センチだという身長と、見ようによっては知性的に見えるルックスとで目立つのもある。
実際185センチって街中で結構目立つよね。待ち合わせするのも見つけやすくていい。
なんか話がずれたが。
それに営業マンだから人当たりもいい。何よりマメだ。
そんな上辺の優しさを(あえて上辺って言っちゃうけど)自分だけのものだって思って近づいてくる女の子がいるんだよな。
んで、断らないんだ。こいつ。
「彼女に見られたの?見られてヤバイ事でもあったんだ?」
「やばいことなんか無いし。もう彼女じゃねぇよ。」
ふてくされたような顔をして濱本は初めて煙草を取り出した。
マルボロを咥えると、いつも持ってるシルバーの細身のジッポで火をつける。
そして一息吐き出すと。
「俺を信じられないなら、俺も信用できない。」
こいつって結構こういうとこ頑固なんだよな。
一見ソフトで優しげに見えるのに、小林さんの件でもわかるように、濱本は結構熱いし頑固だ。
「昨日、俺んちにあいつが来てたんだよ。そこに小林さんから電話あって30分ぐらい話してたんだ。むかついたから川原に電話かけたけどでねぇしさ。」
・・・ある意味出なくて良かったかも。出てたらその場で言いたい放題言ってただろうし。
「んで、そのあと風呂はいって出て来たら慌てて俺の携帯戻しやがんの。」
はぁ。こっそり見たか、見ようとしてたか、か。もう少し上手く見ようよ。
「前々からあいつ、こっそり俺の携帯見てたんだよね。俺も気付いてたんだけど昨日はその場見ちゃったからさ。『そんなに見たけりゃ見れば良いだろっ!』って投げたら、壁にぶつかって、ぐしゃ。」
ちーん。ご愁傷様。
「あいつは何か、自分が一緒にいるのに長電話してるし疑っても仕方ないでしょうみたいなこと言ってたけど。何かもう面倒くさくなって。俺ちゃんと会社の人でって話したしさ。」
「面倒くさいって。濱本もてるからな。彼女心配で堪らなかったんでしょ」
「もてません。・・・もういいんだ。俺疲れた。」
ぐしゃ。煙草を灰皿に押しつぶしながら濱本はそう言った。
そして頬杖付いたまま、外に目を移した。
もう良いなんて言いながら、実はへこんでんじゃん。
あたしはそう思ったけど、口にせずに同じように頬杖付いて濱本を見ていた。
誰だって疑われたらへこむよな。でも、それを言ったらもっと威勢張るだろうし。
・・・男って大変だね。
「携帯ってもう完全にだめなの?」
「液晶がいっちゃったからメールも何も見れない。どこか電話しようにも番号が出せない。だから今日会社にも電話しなかったっていうのもある。」
「あらら。・・・ん?じゃあさっきどうやってあたしの携帯に電話してきたの?」
「だから昨日そのまま、あいつほっといて連れんち行ったから、そこからかけた。」
「いや、そうじゃなくて。番号見れないのに良くあたしの携帯にかけてこれたな・・・と。」
「それは・・・」
濱本はあたしを見て言った。
「愛の力じゃん?」
・・・そりゃ彼女も心配するわ。
「・・・馬鹿?」
「馬鹿馬鹿って何回言うんだよ。失礼だな。本当は澪ちゃんの名刺が財布に入ってたの。前になんかメモしてくれたじゃん。あれ。」
そんなこともあったっけ。
確かに名刺にはあたしの携帯も書いてあるわな。
ん?だったら・・・
「あたしの名刺持ってるなら会社の番号そこに書いてあったでしょ?」
「あ・・・そか」
あたしは本日何十回目かのため息をついた。
「・・・ほんとに・・・馬鹿?」
濱本は真っ赤になるとまた煙草を咥えた。
「馬鹿馬鹿いうなっ!」