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受信

「・・・昨日寝てないんでしょ?」


右手で頬杖ついて、少し覗き込むように濱本は言った。


眠れなかったなんてなんだか素直に認めたくなかったけど。

・・・地下鉄の中で寝ちゃったもんな。認めざるをえない。


地下鉄ってどうしてあんなに座席の足元があったかいんだろ。

眠りを誘ってるとしか思えないっつーの。


「・・・ん。」

「寝ないとお肌に悪いよ。」

「誰のせいよ。」

「俺のせいです。」


・・・素直でよろしい。ふっと思わずいつものノリになりそうになってしまう。

あたしはそれを押しとどめて、もう一度煙を吐く。


「昨日は、ごめん。」


あたしは左手を思わずぎゅっと握った。

・・・謝って欲しいんじゃない。むしろ謝られたくない。


「あのね。今のごめんは、なんて言ったら良いんだろ、貴女を動揺させてごめんってことで。」

「・・・意味が良くわからない。」

「いや。だから。」


濱本はレモンティーを一口飲むと、ふと思いついたように言った。


「澪ちゃんもしかして俺のメール見てない?」


めーる?

いきなり変わった話に、とっさにそれが携帯メールのことだとはわからなくて、あたしはぽかんと濱本を見た。


「・・・見てないのね。俺の超大作。」


・・・なんだよ超大作って。長いメールは超大作なのか?


「・・・そうか・・・見てないのか。だからああいう反応なんだな。」


濱本はぶつぶつと呟いていたかと思うと、いきなり椅子にかけていたダウンジャケットを持って立ち上がった。

・・・え?ちょ、ちょっと濱本?


「えーと。俺公園の入り口にあったコンビニに煙草買いに行ってきます。」


ほえ?たばこ?


「煙草ないならあたしの吸えば?メンソールだけど。」


何故今いきなり煙草買いに行くことになっちゃうわけ?


「いや。んーと。行ってくる。」

「そうですか。」


あっけにとられて、あたしの返事もなんか間抜けだ。


「でさ。その間に・・・。」


ダウンジャケットを着ながら背中を向けて濱本は言った。


「一番長いメール。読んどいてくれよ。」

「メール?」

「そ。読んどいてね。」

「う・・・うん。」

「んじゃ。いってきます。」

「はぁ。いってらっしゃい。」


そのまま振り向かずに濱本は店を出て行った。

行ってらっしゃいって・・・なんともおかしな会話だ・・・。


残されたあたしはとりあえず珈琲を口元へ運びながら携帯を取り出した。


メールって・・・確かに長くて読んでないけど。

それが何なの?


帰ってきてから見れば良いんじゃないかと思うし・・・。

それに今目の前にいるんだから、伝えたいことが書いてあるなら言えば良いじゃん。


そう思いながらあたしはメールを開いた。


Re:(いつも濱本のメールはタイトルがない)


ちゃんと家には着いてる?


澪ちゃんは怒るかもしれないけどやっぱり・・・今日はごめんね。

いろいろ澪ちゃんに迷惑をかけてしまった。

これは謝りたいことだからしつこいかもしれないけど。

本当にごめん。


あと、俺のために怒ってくれて有難う。

喜ぶところじゃないかもしれないけど嬉しかった。

俺のために怒ってくれる人がいるってすっげー嬉しかった。


澪ちゃんって泣いたりするとき人に見せないイメージだったから・・・。


いつも話聞いてくれて、さくっと俺が気付かないようなこと言ってくれて

なんて言うかな

いつも助けられてる

そう思います。


いつも頼ってばっかでごめん


でもいつも冷静に聞いてくれる澪ちゃんが泣いてるのみたら

泣かせたの俺なんだけど・・・

一人で泣くなよなんて思っちゃってああいうことになったわけで


馬鹿だな俺


うまく言えない


とりあえず泣きたくなったら俺の傍で泣いてほしいとか思う


きっと酔ってるんだな俺


明日また話します


おやすみ




「・・・酒飲めないのに酔ってるわけないじゃん。」

読み終わってあたしの口から出た言葉に思わず自分で笑って。


「何が言いたいのかわかんねーよ。」

もう一度一人で呟いた。


まだ濱本は戻ってこない。


そりゃこんなメール目の前で読まれるのはこっぱずかしい・・・かも。

でも。何かわかんないけど。


あたしは何で笑えてきちゃうんだろう。

このメールが届いてるのが夜中の4時ごろってことまでおかしくて。


夜に書くメールは違う意味で酔っちゃってやばいよね、なんて思って。

またおかしくなった。


ふと窓の外を見ると。

池の向こう側を歩いている濱本が見えた。


・・・コンビニはそっちにはね~よ。

タバコ買ってくるなんてのも、メール読んでる間逃げ出す口実だったわけね。


あたしはくすくす笑いながら、もう一度珈琲カップを両手で持ち上げて流し込んだ。

一人で笑ってる自分に自分で(怪しいよお前)って突っ込みながら。


携帯をもう一度開いて。着信履歴を出して。

一番上にある名前に発信をする。


池の向こう側でポケットから携帯を取り出す濱本が見える。


ツーコール目で昨日耳元で聞こえた声が携帯から聞こえる。

「・・・メール、読んだ?」


あたしは笑いながら答える。

「読んだ。」


そして。

「コンビニは池の向こう側にはないと思うよ」

「・・・あ。」


















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