第四話~スープ~
日は暮れ、辺りは真っ暗に、コメルツがランタンに火をつけて照らしている。
「もう少しで到着します」
と、コメルツが入っていった細い森の道を走っていたら、屋敷の扉の前に到着した。
「つきましたよ姫様……」
「寒い寒い寒いよ〜」
「すぐに温かい飲み物用意します、なので部屋に入っていて下さい」
屋敷の扉を開けて入って行ったクチュール、馬を馬納屋に連れて行くコメルツとメイト。
「コレ……もしかして」
「二頭だけの走り場みたいなものです、これぐらい大きくないとすぐに柵を壊して逃げ出す、困った馬だ」
これぐらい大きければ豪邸が数個できてもおかしくない広さ、そこにたった二頭……。
「まあ、他にも馬はいるんですけどね」
だけではなかったが、納屋には三頭がエカシドとバビエルを待っていたかのように並んでいた。
「後は置いといて、縛ったらまた怒るから」
裏口から屋敷に入ったコメルツとメイトはランタンに火をつけキッチンに到着した。
「私はあのわがまま姫に飲み物を作りますので、隣の部屋で待っていてください」
そう言ってコメルツは手慣れた包丁さばきで野菜を切っていた。
メイトは言われたとうり隣部屋に入ると長いテーブルに左右に数脚の椅子がずらっと並ばれている大きな部屋に出た、部屋の中なのに先ほどのキッチンより寒く、外と変わらない寒さだった、吐く息が更に白くなる部屋で、一つだけテーブルと反対方向を向いている椅子があった。
不可思議な事にその椅子だけ他のとは種類が違う、まるで玉座のようにデカい椅子に近づき、後ろから覗いてみると。
「寒い寒い寒いよ〜」
クチュールが火のついていない暖炉に自分のお気に入りの椅子を移動させて、テーブルクロスをかき集めうずくまっていた。
「あの、クチュールさん?」
うずくまっているクチュールはガタガタ震えながら何かを訴えている。
「暖炉…暖炉の……ある意味が…」
メイトは暖炉に灯をともし、少しずつ寒さがやわらぎ、テーブルクロスでうずくまっていたクチュールは顔だけ出して、暖炉をジッと見ていた。
「クチュールさん…」
おそるおそる尋ねるメイト、しかし反応がない、仕方なく暖炉で明るくなった部屋を見渡すことにした。
天井には使われていないであろう数個のシャンデリア、壁には動物の顔だけの模型に家系図らしき絵、テーブルには一カ所だけに蝋燭が立てられ、その蝋燭が立てられている場所には椅子がないが、食器は置かれていた。
「遅い……」
「申し訳ございません、食材が思っていたほど少なかったので」
部屋を見渡している間にコメルツがスープを運んでいた。
「メイトさんもどうですか?野菜だけですけど」
出来立ての暖かスープ、匂いだけでとても美味しそうだった。
「いえ、私は……」
「遠慮なさらずにどうですか?」
「でも……」
しかし、匂いを嗅いでいたら急に空腹感が襲い始め、お腹を押さえ込むメイト。
「大丈夫ですか?」
「はい…大丈夫です…うぅ…」
そんなメイトを横目で呆れながらスープを残さず飲み込み、ようやく体に巻いていたテーブルクロスをテーブルに雑に投げて、メイトの横を通り過ぎて扉に向かった。
「体は正直ね、心配しなくても報酬からひかないから、私が戻ってくる前に食べときなさい」
扉を開けると冷気がドッと部屋になだれ込んだ。
「じゃないと、戻ってきたとき私が食べ……寒いよ〜」
すぐに扉を閉めてクチュールはメイトの報酬を取りに部屋を後にした。
「それでは、寒がり姫を待っている間に自分の分でも食べて待っとくとするか」
コメルツはわざとメイトに聞こえるように声を出して、一つ残ったスープをテーブルに置いた。
「あと一つキッチンに持ってき忘れたのがあるので、私は取りに戻ります、どうぞスープでも飲みながら待ってて下さい」
そう言い残しコメルツはキッチンにスープを取りに戻った。
メイトは置かれたスープを手に取り、一口飲んでみた。
屋敷につく前からお腹は鳴っていたが、メイト自身空腹感は不思議となかった、コメルツが持ってきたスープの匂いで、自分が空腹だった事を思い出した、村が襲われた後、なにもかもが一変した、その一つ一つのことに自分はついていけてなかった。
メイトは今までに起こった出来事を整理しながら、スープを残さず飲み干した。
「そうか……」
そして、飲み干したスープに残った一つの具を見ながら、限りなく小さな声で認めたくない現状を言葉にした。
「私……今一人なんだ……」