〜第二話〜一人の執事と姫様
この小説文には死や殺などのワードが出てきます、ご注意を。
出来るだけ書きたくないんだけどね。
村が襲われてからどのくらい経ったのだろう……
家が燃える音、村の悲鳴、盗賊の笑い声、隠れていた家に火を投げ込まれ生きようと外に出たとき待っているのは。
「一名様発見」
逃げようとしてもすぐに捕まえられて、地面に押さえつけられる。
「男には用はねえ」
振り上げられた斧が薪を切るように振り下ろされる。
「まだ残ってるかもしれねえ、燃え尽きてしまうまえに探れ」
容赦なく物を剥ぐ盗賊達、次々と燃える家、近づく足音。
「お母さん…私もすぐに逝きます」
自分が生まれ、今まで母と二人で育ち、生きてきた家と共に燃え尽きようと覚悟した。「よーし、次これ行くぞ」
「オー!!」
隊のリーダーが命令を出して、後ろの方から部下の松明の火を家に燃え移そうとしている光景を見ながら笑っている。
「ギャーハハハ、やれドンドンやれ、ビバ様に殺されたくなかったらなギャーハハハ……」
「そのビバ様はどこにいるのでしょうか?」
「そりゃあ、あの丘の上…て、誰だ!俺に質問して仕事サボっているのは」
背後から聞こえた声の正体は執事のような服に白髪の男、顔にはシワがありただの老人だと思い、そんな老人が自分の後ろにいたことに対しての怒りがこみ上げる。
「爺、さっき後ろをとった時に俺を倒しておくべきだったな……」
「さて、早速向かいましょう」
更に無視して後ろ姿を見せて歩く、幾多の人の倒した斧を振り上げて、怒りのまま爺を切り刻もうとする。
「この爺が!!後悔しながら死ね!!」
「あなたが…」
振り下ろされた斧は爺の服を掠めることなく地面に刺さり、前屈みになる。
「このクチュール家唯一の執事…」
その前屈みになった男の後頭部に。
「コメルツに勝てるとでも思ったのですか?」
「この爺…何者!?」
殴った位置に戻ってくるほどの重い拳を一撃叩き込んだ。
「おい!あれを見ろ」
「隊長が爺に倒されてる」
突然の隊長倒しに驚いて、松明を投げ捨てそれぞれの武器を構える。
「爺ごときひねりつぶせ」
「そこを動くなよ…すぐに贈ってやろう、婆さんのとこにな」
ザッと見て十人程、ナイフを見せつけるように右手左手と投げながら近づく人や、武器を引きずりながら出てくる者などなど。
「全員相手にしてては時間がかかってしまう」
コメルツは指を使い口笛を吹いた、どこまでも届きそうな口笛に村の外で待たせてある二頭が動いた。
「なんだ?助けでも呼んでるのか?」
「どっちにしろ爺!テメーはここで貧相な老体さらして倒れるんだよ」
前に出ていた三人がコメルツに襲いかかる、しかし、見事な身のこなしで三人の攻撃を避け続ける、そして。
「いい加減に……」
両手で二人の頭を前から鷲掴み。
「しなさい!!」
地面に叩きつけた。
「この爺が!!」
胴から真っ二つに切断しようと真横から振られた剣は空を切り、しゃがんだ体をバネのように伸ばし、相手の顎めがけて蹴り上げた。
敵の体は老人が蹴り上げたのかと思うほど、綺麗に弧を描きながらまだ燃えている家の中に音を立てて入った。
「しまった、姫様に怒られる」
「怯むな!ドンドン切り刻め!!」
その時、焼け炭になった家や木を問答無用で破壊しながらキャリッジが到着した。
コメルツは暴走気味の二頭の手綱を走りながら掴み、飛び乗った。
「こっちに来るぞ」
逃げ回る賊を追いかけ回しながら、先ほど仕入れたビバの居場所を伝えた。
「すみません、賊を相手にしていたら時間を費やしてしまうと思い、呼んだ次第であります」
不機嫌そうに答える姫。
「それはべつにいいのよ、ただ…」
暴れ馬を手綱で抑えようとしているコメルツに一本の矢が屋根からその命を狙っていた。
コメルツに狙い定め、放たれる。
真っ直ぐコメルツの胸に刺さるはずだった、その矢を阻止したのは、馬車の窓を突き破って出てきた黒い物体だった。
「しっかり周りを見たら?案外手一杯なのかしら」
弓を落として絶句する賊。
「なんだ…あれは……」
それは、馬車の屋根、窓ガラス、床などをぶち破り、馬に切りかかろうとする賊、弓矢、飛び移る賊を黒い物体一本一本が的確かつ素早く捕らえて放り投げる。
「化け物馬車…いや、人喰い馬車だ!」
「物なんて捨てて逃げろ!」
武器を捨て、盗んだ物を捨て、とにかく遠くえ逃げようとする賊と何度も挑む賊に分かれた。
「コメルツ…そろそろ私はビバのもとに行くことにする、二頭を貸しなさい」
「姫様、お分かりと思いますが、この二頭、姫様では扱えないかと」
「それぐらい分かってる、だからこの二頭の性格に任せるのよ……」
馬車の中から喋っているクチュールが喋っている途中で、屋根から飛び出している四本の物体が二頭の馬の首に巻きついた。
「あんた達よく聴きなさい、いっつも自分勝手に走り回ったあんた達に自由な時間をあげてあげる、その代わりにあの山に向かって走りなさいバビエル、エカシド!!」
コメルツが抑えようとした二頭は首に巻きついた物体を振り解こうとせずにただ黙って、立ち止まった。
そして、姫の言うとおりにビバのいる山に向かって走り出した。
「コメルツ!あんたは村を全力で守りなさい、脱ぐのを許可します」
「分かりました、姫様の為に村を守ります」
ネクタイを外しながら馬車の屋根から飛び降りるコメルツ、姫を乗せた馬車はビバのもとに走って行ってしまった。
「爺…覚悟しろ…手加減せずに叩き倒してやる」
先程の出来事で逃げ出した賊もいたが、あまり数は減っていなかった。
「それはそれは、大変に結構なことで、こんな事で逃げ出す賊には興味ありません」
コメルツは群がる賊に話しながらタキシードを脱ぎ捨た。
「えっ…なんだ…その体は」
「まさか…あんたは……」 鍛え上げられた鋼の肉体に多数の名誉の傷、タキシードに隠されたその肉体が解放された。
「さあ…姫様の服になる可能性のある人は誰かな?」
「ぶっ叩き殺せ!!」
弓を構える、武器を突き出す、地面を踏みつける、執事コメルツが立ち向かうのはビバの兵士それを一人で挑むコメルツ。
「お前たちの品質はどんなかな?」
その頃、ビバは村から逃げ帰ってきた兵に罰を下していた。
「ビバ様お許しを……ヒッ」
男の胴体を薪のように切り裂いたのは、三メートルあると思われる巨体にその肩まである剣が真っ二つにした。
「ぺっ…何も持たずに逃げ帰った無能はこの俺様が暖炉の薪にしてやる…次!!」
次々と二人係で両手を押さえ込み、逃げ帰った無能を真っ二つにしていくビバ。
「逃げてきた者は全てこうなる、こうなりたくなければ金貨の一枚でもブン取れ、服の一着でも剥ぎ取れ、女の一人でも連れてこい」
高笑いをしているビバに慌てた表情で連絡隊が戻ってきた。
「馬が…馬が二頭…」
「ほう、馬を捕まえたのか、それはどんな馬だ?」
すると、村の方向から蹄と馬車の荒々しい音が迫ってくる。
槍を突き出し、構えたが、その馬車は道なき道を駆け走りそのまま木製の塀を突き抜けてきた。
「あの二頭です」
「なかなか生きのいい二頭じゃねえか…だが、馬車が邪魔だな」
賊を跳ね飛ばしビバに突っ込む二頭、ビバは肩ほどある剣を縦に振りかぶり二頭の馬の間をすり抜けて、馬車は真っ二つに切断された。
二頭の馬は自由になり、抑えようと首に縄を掛ける賊に対しては容赦なくその蹄で踏みつけ、振り飛ばした。
「この馬、疲れってものを知らないのか!」
「いづれ鈍くなる、さっさと捕まえろ」
そう言い残しビバは自分のテントに入り、誰も邪魔されないよう締め切り、剣の手入れを始めた。
馬に気を取られて、だれも繋がれていた馬車に近づかない、ようやく数人が命令されて物色するために馬車の中を覗こうと近づいた。
「てえしたもん入ってねえよどうせ」
「でも、もしかすると宝石箱とかあったりして」
「それとも美人なご婦人とか」
一つは斬った側が空を向いていたが、もう片方は地面を覆い被せるように倒れていた。
そして、扉の意味をなくした戸を引き剥がし、一人が中をのぞき込んだ、中は引き剥がした所からしか光が入っていなかったが、戸を境界線に光が入っていない、そのとき。
覗こうと頭をいれた賊の首に何かが巻きついて、引っ張られる剥がそうにも剥がれない、腰のナイフで切ろうとしたが切れない。
「おい、どうした?さっさと入れよ」
引き吊り込まれる。
「なんだ?突っかかったのか?太ってもないのに」
声が出せないほど締め付けてくる。
「仕方ねえ…押してやるよ」
よせ……得体のしれない何かに……。
「せーの!!」
喰い殺される…
賊の一人が片側馬車の中に入った。
「どうだ、何かあったか?」
「……連絡がないどうしたん……」
すると、賊の入って行った戸から数本の黒い物体が残りの賊の一人一人に巻きつき、声の出す暇なく、引き吊り込まれた。
「ごめんね…私そんなに歳とってないの」
静かに、確実に、引き吊り込む、誰一人殺さず。
「ん?あいつはどこい……」
「あれ?馬車のやつらは……」
「オーオー、元気のいいうま……」
「オイ、早くロープをよこせ……」
「よし!つかまえ……」
数が減る、誰にも気付かれぬまま、馬車の中に連れ込まれる。
「ん?……やけに静かになったな、大人しくなったのか?」
ビバはテントから出るとそこには、まだ自由に走り回る馬と壊れた馬車、それ以外誰一人としていない、まるで消えたように。
「あいつら、馬を置いて逃げたのか?帰ってきたとき後悔させてやる」
ビバは暴れまわる馬にかけられたロープを引っ張り上げ、近くに引き寄せ馬の首を片手で掴み、その巨体で強引に地面に押さえつけた。
「暴れんじゃねえ、暴れ馬は一頭で十分だ、テメーは馬刺にでもしてやる」
腰のナイフを引き出して、暴れる馬の首めがけて振り下ろそうとしたその時、ビバの後頭部に石が当たった、それは一つだけでなくその後に続いて何度も当てられた。
「誰だ!この俺様に石を立て続けに投げるのは!!」
「バビエル!さっさと抜け出しなさい」
ビバの押さえつけた手が緩み、その隙をつき前脚でビバを蹴り飛ばし、再び自由奔放に走りだした。
「もう容赦はしないぞ、誰だろうとこの剣で真っ二つにしてやる」
「それでいいの、じゃないと良質の糸が出来ない」
使い続けた剣を持ち上げ石を立て続けに投げた娘を見つけたビバ、そこにいたのは白髪に赤い眼、白い肌の対称に黒のドレス、というよりワンピースに近い服に赤色の筋が血管のように複数存在し、その筋が一定間隔で鼓動しているように見える。
「テメーは誰だ?ふざけた服装に小さなお嬢さん、よければ墓に名前を刻むために教えてくれるかな、まぁ……テメーは俺様に石ぶつけた罪で薪決定だ!!燃えやすいように半分半分にしてやる!」
「上等、さっきの賊はどれも不良品…あんただったら良質の糸が手に入りそう……、私はオート・フレデリック・クチュール、代々伝わるクチュール裁縫術で数々の服を作り上げたいわゆる名家のお嬢さま」
「ほうほう、そのお嬢さまが賊退治かたいそうご立派で、その名家の新しい遊び相手にこの俺様では強すぎるのでは?」
吐き捨てる感じで。
「余裕」
その一言で怒りが声となり大噴火。
「なめんな!!この小娘が!!」
ビバの巨大な剣がクチュールめがけて振り下ろされたが、その一撃を回避、深く地面に突き刺さる。
「始めましょう、その小娘に倒された時までその怒り、保ってよ」
「生死をかけた闘いに冷静はいらない、それ以上の怒りで貴様を切り刻んでやる」
深く刺さった剣を両手で抜き、構える、そしてクチュールの発言で戦闘が開始した。
「あなたの血の色は何色?」