神様とそれから2人、
なんでもあり。
「今日も退屈ね〜〜」
「ふあぁ…、人間界の変化って少なすぎて見ててつまらないですもんねぇ」
「だったら、お前たち今すぐ輪廻転生しろって…」
少女2人の言葉に、神様は呆れたように目を眇めるのだった。
気がついたら天界に来ていたが、2人の少女はバラバラにやってきていた。
1人は輪廻転生したくないとゴネてこの場に居座り、あとから来たもう1人は「輪廻転生拒否ですか、面白そうですね。1人が許されているなら、それ以降も許されますよね?」と神様に詰め寄ってここにいる。
互いに互いが、誰だったのかを知らない。
そもそも天界にやってくる者たちは、どんな人生を歩んできたのかを覚えていない。
それでもいつの間にか少女2人は一緒にいることが当たり前となり、今日も神様が仕事をしている横で、2人して真下の人間界を眺めていた。
「ねえ、あの可愛い子早くこっちに来ないかな〜〜?」
1人目の少女が、1人の人間を指差しながらキャッキャとはしゃいでいる。
その横で露骨に嫌そうな顔をしながら、もう一人の少女が腕を組んだ。
「なあに、品がないですね」
「だって、あの女の子気になるんだもん!」
「まあ、それはわかりますけど…」
「やっぱり? あなたもそう思うっ?」
退屈だと文句を言いながらも、2人は人間界観察をやめない。
他にすることがないとも言う。
「お前たち、あの『ばあさん』がいいのか?」
神様は2人の言う『可愛いあの子』を見ながら、遠くを見るように目を細めた。
その表情は何とも言えないもので、何かを隠しているようでもあった。
それに鋭く勘付いたのか、すぐに2人が囃し立てた。
「やだ、神様! やらし〜〜顔!」
「……人間に欲情して迷惑をかけた神の話、現世にありましたよね。あの神話の元凶だったんですか」
「ちがわい、おかしなことを言うな小娘ども。たった100年も生きられん人間に興味があると思うなよ」
「まあっ、失礼しちゃう!こんなに魅力的なのにっ!」
「じゃあ、欲情したのは他の神なんですね? お仲間ですか?」
今日も今日とて騒がしい少女2人に、神様は大袈裟にうんざりしてみせた。
「ああ〜〜〜、うるさい〜〜〜〜。いい加減、次の人生に行けといつも言っているだろう」
「それ、聞き飽きた〜〜」
「耳にタコですね」
「こっちだって言い飽きとるわ。お前たちばっかり苦労しているみたいな顔をするんじゃない。本当に苦労させられているのは、こっちだからな」
「神様、怖〜〜い」
「そうやって威厳を保っているのですか?」
「……このクソガキどもめ」
そんないつものやりとりを繰り返し繰り返し、幾人もの人間が天界にやってきてはきちんと輪廻転生の輪に流れていって、それを少女たちは自分たちには関係ないといった態度で見送っていた。
神様に呆れられ、指導され、たまーに逆鱗に触れて悪態つかれたとしても、2人は頑なに天界に居続けた。
それは何かを待っているような、ただの気まぐれのような。
少女たち本人にもわからない思いのまま、時が流れて、彼女らの言っていた『あの可愛い子』がとうとう亡くなる瞬間を、天界から眺めることになるのだった。
「……あの子、死んじゃったね」
「そうですね」
「痛かったかな」
「どうですかね」
「……でも、もうすぐここに来るってことかな」
「……そうなりますね」
2人は顔を見合わせて、それからは何も言わなかった。
いつもはうるさいくらいに騒がしいのに、嘘みたいに静かに『可愛いあの子』を待った。
少女たちの様子が違うというのに、神様は何も言わなかった。
「…あ、あの、わたしはこちらに来るので合っているでしょうか?」
幾日か待ったあと、『可愛いあの子』はやってきた。
人間界で見えていた姿は年老いた女性だったが、天界にやってきた時の姿は、ここにいた少女たちと同じくらいか少し小さいくらいの可愛らしい少女の姿だった。
彼女たちが見えていたのは、こちらの姿だったのかもしれない。
そんな彼女のことを、2人は凝視していた。
やっとやってきた少女は、おどおどした様子で神様の前に立った。
「え、っと…」
「ああ、合っておる。現世でのつとめ、ご苦労だった」
「きょ、恐縮です」
「お前さんには輪廻転生の道に進んでもらう。次の世も大いに楽しんでくれ」
「は、はい、わかりました…?」
神様の言うことに不安そうに頷きながらも素直に従っている少女を見て、2人が以前のように騒ぎ出した。
「はい!はい!はいっ!」
「うるさいぞ、一番目。ちゃんと輪廻転生する者の邪魔をするではないぞ」
「私からも申し上げたいことがあります。神様にではなく、あなたにです」
「だからうるさいと言っておる、二番目まで」
「その呼び方、可愛くな〜〜い。でも、そんなことはいいの! ねえねえ、私も一緒に行っていいかなっ?」
「へ?」
2人の少女に気圧されてますます不安そうになっている少女は、首を傾げた。
「わたしと、ですか…?」
「うんっ! あなたと一緒に行きたいなって、なんか今ビビッときたの!」
「わかります、私も一緒に行きます」
「……お前ら、本当に勝手だな」
神様はそう言いながらも、手元は3人分の輪廻転生手続きをしている。
そんなこと、少女たちには見えていないことだが。
「あのね、こっちこっち! たくさんの人の輪廻転生を見送ってきたから、私、道はわかるよ!」
一番長いこと居座った少女が今やってきたばかりの少女の手を掴んで、正しい道を指差した。
何の違和感もなく手を取られて、3人目の少女は手元を不思議そうに見つめていた。
ただそれを受け入れて、振り払う様子もない。
神様もそのことに気づいていながら、はああ〜とわざとらしいため息をついた。
「……本来は、サッと行くもんなんだよ。変なことばっかり覚えやがって」
「小うるさい方は放っておいて行きましょう。では神様、ごきげんよう〜」
「ええぇ…? あ、あの待ってくださいぃ、行きますからぁ…!」
「ばいばーい、神様〜!」
「次来たときは居座るんじゃねえぞー」
手を引かれる少女は戸惑ったまま他の2人と神様を交互に見ていたが、最後には神様に頭を下げて、3人並んで歩みを進めていった。
そんな彼女らの後ろ姿を見守りながら、神様は肩を竦めるような笑みを零したのだった。
「はあ、やっと行ったか。あの『三つ子』どもめ。現世でも死んでからでも仲がいいことで」
神様の相変わらず呆れたような声が響いたが、少女たちには届かなかった。
了
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281日目。




