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【婚約破棄無双】~わざと結婚式場をダブルブッキングしてから裏工作で愛を試し、先に別れた方からキャンセル料をせしめます。真実の愛以外は認めません~  作者: 団田図
第2章【新郎:損得勘定だけのロジカルモンスター】×【新婦:承認欲求の塊であるキラキラ女子】

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第6話 最強の最適化カップル

 都心の一等地にあるシェアオフィス。全面ガラス張りの会議室から、一人の男が風を切るように出てきた。

 ITベンチャー『ネクスト・イノベーション』の社長、高城たかぎタクヤ(29)。

 無駄のない細身のスーツに身を包み、彼は部下たちに向かって流暢に指示を飛ばした。


「α案はリソースの無駄だ。βで進めてくれ。常にROI(投資対効果)を意識しろと言っているだろう?」

「は、はい! 直ちに修正します!」


 萎縮する部下を尻目に、高城はスマートフォンの画面をタップした。

 その待ち受け画面が一瞬、周囲の社員たちの目に入る。映っているのは、美容系インフルエンサーとして絶大な人気を誇る西園寺さいおんじエレナとのツーショットだ。

 若い男性社員たちが、羨望の眼差しで囁き合う。


「社長、マジですげえよな。あの西園寺エレナと結婚だぜ?」

「まさに勝ち組だよな。仕事もプライベートも完璧とか、憧れるわ」


 その視線を背中で感じながら、高城は口元を緩めた。

(そう、俺は選ばれた人間だ。隣に立つパートナーも、最高ランク(Sクラス)でなければならない)

 彼にとって結婚とは、自身のステータスを「最適化」するためのプロジェクトに過ぎない。

 彼女を選んだ理由は愛ではなく、自分というブランドの価値を最大化するための、最も効率的な投資先だったからだ。


+++


 後日。

 サロン『マリアージュ・ミラージュ』の重厚な扉が開くと、そこには眩しいほどのオーラを放つ二人の姿があった。

 高城タクヤと、西園寺エレナ。

 まるでファッション誌の表紙から抜け出してきたような二人に、水指みずさしうやうやしく頭を下げた。


「ようこそお越しくださいました。お二人のような合理的で洗練されたカップルにご指名いただき、光栄ですわ」


 水指の言葉は、完璧な温度感で二人の自尊心をくすぐる。

 高城とエレナは満足げに頷き、ソファに腰を下ろした。

 通常、ここには「照れ」や「高揚感」があるものだが、この二人にはそれがない。あるのは、ビジネスパートナーと商談に臨むような鋭い眼光だけだ。


「単刀直入に言おう。僕たちの結婚式は、単なる式典ではない。株主総会のようなものだ」

 高城が足を組み、指を組んで水指を見据える。

「参列者へのプレゼンスを示し、我々の結合によるシナジー効果を最大限にアピールしたい」

「そうね。私のブランドの世界観を崩さない、『完全映え』仕様でお願いするわ。ライティング、導線、全てにおいて私のビジュアルが一番引き立つように設計して。……アグリー?」


 エレナが高城に視線を向ける。

 高城は短く頷いた。

「フィックスだ」


 愛の言葉ではなく、ビジネス用語で会話する二人。

 水指は優雅に微笑みながら、心の中で冷徹に分析していた。

(なるほど。自己愛の塊ね。……これは崩し甲斐がありそうだわ)


 一通りの要望を聞き終えると、水指はいつものように「スケジュール調整の演技」に入った。

 タブレットを操作し、わざと眉をひそめる。


「……素晴らしいプランですが、お二人がご希望されるハイシーズンは、すでに予約が埋まっておりまして……」

「何だと? 金ならいくらでも出す。最優先プライオリティ・ワンで枠を確保してくれ」

「申し訳ございません。先約のお客様もいらっしゃいますので……」


 高城が不快そうに舌打ちをする。自分の思い通りにならないことが許せない人種だ。

 頃合いを見計らい、水指は声を潜めた。


「ですが……実は一件だけ、仮押さえが入っている『大安』の枠がございます」

「ほう?」

「本来はお待ちいただくのですが……お二人の社会的影響力と、この完璧なプランを拝見して、私も心が動きました。特別に、お二人にこの枠を使っていただこうかと」


 もちろん、これは嘘だ。

 その日はすでに、別のカップル(B組)が予約を確定させている。完全なダブルブッキング。

 だが、特別扱いを好む彼らにとって、この提案は甘い蜜だ。


「悪くない。僕たちのためにリソースを割くという判断、評価しよう」

「ええ。大安なら私のSNSでの投稿も縁起が良くてバズりやすいわ。そこで進めて」


 魚がかかった。

 水指はすかさず、分厚い契約書を差し出した。

 そして、例の「キャンセル規定」のページを開く。


「では、契約にあたりまして重要事項のご説明です。挙式2週間前を切ってのキャンセルの場合、見積もり総額の100%を頂戴いたします」


 以前のカップルはここで笑い飛ばしたが、高城は違った。彼は眼鏡の位置を直し、冷静に契約書を読み込む。

「……ふむ。リスクヘッジのための防衛条項か。当然だな」

「ええ。弊社としても機会損失は防がねばなりませんので」

「合理的だ。互いに合意済みの契約コミットメントを一方的に破棄するのは、ビジネスにおいてはご法度。ペナルティは甘んじて受け入れよう」


 高城は迷いなく高級万年筆を取り出し、サラサラと署名をした。エレナもそれに続く。

 彼らは信じているのだ。自分たちの「契約(結婚)」が破綻するはずがないと。

 なぜなら、それは感情ではなく、損得勘定で結ばれた強固な同盟だからだ。


「契約成立ですわ」


 水指はサインされた契約書を受け取り、深く一礼した。

 高城とエレナ――通称A組。

 そして、すでに同じ日時に予約を入れているB組。

 二組のカップルを同じ土俵に乗せ、どちらかが脱落するまで追い込む「愛の椅子取りゲーム」が、今幕を開けた。


「それでは、次回のお打ち合わせでお会いしましょう。……最高の結果アウトプットをお約束いたします」


 水指の言葉に、二人は満足げにサロンを後にした。

 彼らが去った後、水指は静かに笑みを深める。


「さあ、証明していただきましょうか。……損得だけで繋がった関係が、どこまで持ちこたえられるかを」

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