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【婚約破棄無双】~わざと結婚式場をダブルブッキングしてから裏工作で愛を試し、先に別れた方からキャンセル料をせしめます。真実の愛以外は認めません~  作者: 団田図
第1章【新郎:逆玉狙いの裏切り商社マン】×【新婦:脳内お花畑の資産家令嬢】

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第3話 マダムの予言

 結婚式の3ヶ月前。招待状の発送準備や、細かな演出の決定に追われる時期だ。

 サロンを訪れた楓子と健太の間に、以前のような甘い空気は少しだけ減退していた。健太のスマホ依存への違和感が、楓子の心に小さなさざ波を立てているからだ。

 その空気を敏感に察知した水指は、ここぞとばかりに切り出した。


「お二人とも、準備でお疲れではないですか? 実は当サロン提携の特別サービスで、『運命の相性診断と未来予想図』というものがございまして。通常は有料ですが、今回は特別に無料でご招待いたします」

「占い……ですか?」

「ええ。テレビや政財界でも顧客を持つ、伝説の先生をお招きしておりますの」


 水指が仰々しく合図を送ると、サロンの奥の重厚な扉がゆっくりと開いた。

 現れたのは、極彩色のドレスに身を包み、ジャラジャラと大量のアクセサリーをつけた大柄な女性だった。その存在感は、部屋の空気を一瞬で制圧するほど圧巻だ。


「……星の巡り合わせに導かれし子羊たちよ。ようこそ」


 占い師、チャキ由美子。

 水指の裏のパートナーであり、彼女の「真価選別」ビジネスにおける強力な共犯者だ。

 チャキ由美子は、鷲のような鋭い眼光で二人を見下ろし、低い声で唸るように言った。


「私の名はチャキ由美子。天界の声を聞き、迷える魂に鉄槌と救済を与える者……。心して私の言葉を聞くがよい!」


 そのあまりに芝居がかった威厳と大げさな身振りに、健太は少し引いているが、素直な楓子は「す、すごそう……」と目を丸くしている。

 もちろん、これはただのパフォーマンスではない。チャキ由美子の頭の中には、水指が事前に調査させた健太の「黒い情報」――SNSの裏アカウントや、マッチングアプリの履歴――が完全にインプットされている。


 まずは楓子の手を取る。チャキは大げさに天を仰いだ。

「おお……! 素晴らしい! なんと清らかな愛の波動か! あなたには家庭を守る慈愛の女神がついている。素晴らしい良妻賢母となり、愛に満ちた温かい家庭を築く未来が、ハッキリと視えるぞ!」

「本当ですか!? 嬉しい!」

 楓子は顔をほころばせる。上げに上げて、落とす準備は整った。


 次いで、チャキ由美子は健太の方へ向き直った。

 瞬間、彼女の表情が凍りつく。まるで汚いものでも見るかのように眉間しわを寄せ、わざとらしく数歩後ずさった。


「……なんだ、これは」

「え? 何ですか?」

「貴様……背後に、どす黒い影が見えるぞ。それも、ただの影ではない。女の怨念にも似た、粘り気のある情念が!」


 健太の顔が引きつる。

 チャキ由美子はさらに畳み掛けた。

「その影は、貴様のごくごく身近にいる。過去から続き、今もなお貴様の足首を掴んで離さない……。心当たりがあるのではないか? 例えば、スマホの中に潜む『秘密』とかな!」

「なっ……!?」

 図星を突かれた健太が狼狽する。

「馬鹿馬鹿しい! 占なんて信じませんよ! 帰ろう、楓子!」

 健太は乱暴に席を立つが、その過剰な反応こそが、楓子の心に決定的なとげを刺した。


+++


 その日の深夜。

 水指のプライベート用スマホが鳴った。画面には『A組 新婦(楓子)』の文字。

 水指は深夜のリラックスタイムに飲んでいたハーブティーを置き、声を「親身なプランナーモード」に切り替えて通話ボタンを押した。


「はい、水指です。夜分にどうされましたか?」

『ごめんなさい……こんな時間に。でも、どうしても不安で』

 楓子の声は震えていた。

『今日の占いのこと……彼、あんなに怒るなんて変ですよね? それに最近、お風呂場にもトイレにもスマホを持っていくんです。画面も絶対に見せてくれなくて』

「……そうですか。それはご不安ですね」


 水指は優しく相槌を打ちながら、言葉巧みに誘導を始める。

「もしかしたら、マリッジブルーの一種かもしれません。男性は責任の重さから、一時的に殻に閉じこもることがありますから」

『マリッジブルー……』

「ええ。ですが、少しでも不安な種があるのなら、今のうちに解消しておいた方がよろしいかと。……素晴らしい式にするために、疑心暗鬼は大敵ですからね」


 不安を解消しろと言いながら、実際には「疑え」と背中を押す。

 電話を切った後、楓子がどう行動するか――おそらく、健太が寝静まった後にスマホを覗こうとするか、カマをかけるような言動に出るだろう。

 水指はスマホを置き、別の端末で裏の掲示板を確認した。


『B組、新居も決まり順風満帆。週末は両家で食事会の予定』


 もう一組の公務員カップルは、不気味なほど順調だ。隙がない。

 水指は冷ややかな目で二つの情報を並べる。

 手ごわいB組と、崩れ始めたA組。

 どちらかが完全に砕け散るまで、どちらも手は抜かない。

 水指は口角を吊り上げ、独り言ちた。


「さあ、仕上げにかかるわよ」

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