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Φ≪ファイ≫  作者: RPM
9/9

第8話 新入り(後編)

『ありがとうございました。アルファスクエア・ステーションです。』


ドアが開き、列車を降りる。

「はぐれるなよ。」

駅を行き交う人ごみをかき分けながら、探偵は歩いていく。

数秒目を離した隙に、探偵たちの背中は人の波に飲み込まれて消えてしまった。


「あ、ちょっと...!」

エリナの声は、周囲の雑音にかき消された。

周りを見回す。

―しかし、視界の中に見覚えのある姿はいなかった。

「どうしよう...」


立ち尽くすエリナの腕を、不意に人混みの隙間から突き出された手がぐいっと掴んだ。

「ひゃっ……!?」

驚いて顔を上げ、引き寄せられた先には、呆れたように眉を寄せるイザベラの姿があった。


「まったく...あれだけ気を付けてって言ったのに。」


イザベラに手を引かれて、ようやく駅の外へと出る。

突き刺さるような強い日差しに、エリナは思わず目を細めた。

人々の話し声、通りを行き交う車の音、そしてデジタルサイネージの音が一つになって押し寄せてくる。

真夏の猛暑日だというのに、大きな交差点は信じられないほどの数の人々で埋め尽くされていた。


エリナは前方にそびえ立つ、ひときわ高いビルに視線を留めた。

「あれが……ランドマークタワー?」

すぐにあたりを見回すと、そこにはテレビで見た以上の世界が広がっていた。


「これが、アルファスクエア……」

眼前に広がる光景に、彼女は息を呑む。

目に映る人、看板、建物――そのすべてが、彼女には眩しいほど光り輝いて見えた。


「遅かったな。」

探偵が目の前に現れる。

「ごめんなさい...こういうところ、慣れていなくて......」

「...まぁいい、早く買い物を終わらせよう。」


そう言うなり、探偵は再び濁流のような人混みの中へと踏み出していく。

エリナたちも慌ててその背中を追い、人の波へと潜っていった。


そして、その姿を見つめる一つの監視カメラ――

無機質なレンズが、人波に消えゆく三人の背中を捉えていた。


***

「...ふっ...」

暗闇の中で男が一人、眼前のモニターを見てにやりと笑った。


そこには、通りを歩くエリナたちの姿が映し出されている。

「鴨が葱を背負ってくるとはまさにこのことよ...」

男は片手を上げ、鼻にかけた眼鏡をゆっくりと押し上げた。

そしてゆっくりと、その顔を横に向ける。

「どうなさいますか、司令官(ボス)。」


司令官と呼ばれた少女は、大きなデスクの前に座っていた。

白いバイザーが、彼女の顔を覆っている。

「まだだ。機は熟していない。」

「承知いたしました。」


モニターの光が、無機質な部屋の壁を照らし出す。

......そこには、「Φ(ファイ)」のシンボルマークが刻み込まれていた。


カメラの視界から探偵たちの姿が消える。

次の瞬間、モニターは暗転し、部屋はまた暗闇の中へと沈んでいった。

「これで、念願の再会へと一歩近づきましたな。」


唯一見える彼女の口の端が、わずかに吊り上がった。


***


その夜、裏通りの一角にある事務所からは、楽しげな話し声が漏れだしていた。

豪華な料理が机の上いっぱいに広げられている。

エリナはそれらすべてに舌鼓を打った。


「おいしい……! こんなに豪華な食事、生まれて初めてです。」

「でしょ? 奮発した甲斐があったわ。ほら、このお肉も食べちゃって。」


イザベラが上機嫌でエリナの皿に料理を取り分ける。

彼女の耳には、昼間買ってもらったイヤリングがきらきらと輝いていた。


「……まぁ、今日だけだ。明日からはしっかり働いてもらうからな。」

「はい! 精一杯頑張ります。」

エリナの迷いのない返事に、探偵は小さく鼻を鳴らした。


新しい服、新しい仲間、そして温かい食事。

逃亡生活では決して手に入らなかった「居場所」がここにある。


エリナは、その幸せを噛みしめていた。

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